新年明けましておめでとうございます。
「沙上さん、クレナ貸して!!」
「ん? なにに使うんだよ?」
「元カノの好感度を取り戻す為に悪い男をぶん殴ってくる! その為に俺の代わりに番組出て番宣してきて!」
「…そっか…じゃあ一時間千円で貸し出ししてやる!」
「ありがとうございます!」
「ソ、ソンナ…ますたー! くれなデハけいとノ代役ナド勤マリマセ…」
「…元カノの好感度を取り戻すなんて無茶をやろうとする男の挑戦……面白そうじゃん!」
「沙上さん酷い!」
「ナラバ、頑張リマス…」
「クレナも遠回しに酷い!」
しかも貸し出し料まで取るの!
沙上さん基本プータローだからお金ないのは知ってるけど!
…まぁ、クレナは物珍しいから俺の代理でも一切問題ないだろ。
壊れやすいから、ライブや音楽番組以外で稼働させてないクレナの姿はレアなのだ。
ち…ちなみに…王苑寺先輩は「機械機械してないアンドロイドなんか邪道だ…! せめて動く度に稼働音が鳴れば認めてやるがな!」…と、マニアックな負け惜しみを言っていた。
…負け惜しみなのか?
機械科学の分野で、沙上さんと王苑寺先輩って方向性違うしなー…。
「まぁ、いいや! 行ってきます!」
「行ってらっしゃーい」
「行ッテラッシャイマセ」
時間は9時半…夜時間まで30分…。
南西区まで行ったら、夜時間になるな…!
まあ、いいや、夜時間でも俺負けないし!
「あけおめー」
「ってウァアッ!?」
テレビ局から出て、タクシー探そうと思った途端、頭上に橘が現れた。
びびび、びっくりした!
「あれ、トリシェは?」
「……寝てたからカバンの中に置いてきた…、…っていうかお前、こんな時間にこんなとこんでなにしてんの!?」
「俺、基本将也の側ぶらりとしてるから。…ラミレスとは24時間ほぼ一緒に居たから…離れてると変な感じなんだよね…」
「ストーカーかっ!」
「将也と一緒にすんなよ」
「俺、別に陸のストーカーなんかしてねぇし! 26日から今日、今さっきまで仕事してたし!」
「…本当…将也とはあんまり一緒には居たくないんだよなぁ…イケメンのくせに気持ち悪いし…別に美味しいものくれるわけでもないし…歌ってくれるわけでもないし…いい匂いがするわけでもないし…もふもふするわけでもないし…」
「一番最後のもふもふってなに!? 前世の俺はお前に一体なにをしていた!?」
「…で、突然出て来てどうし…」
ガッ、と橘の肩を掴む。
そうだ! こいつ、丁度良い…!!
「…南西区の第七研究所っていう所に連れてってくれ! 八草が陸を連れ込んだらしいんだ!!」
「南西区の第七研究所…? あー…工場とかある開発中の区域?」
「そう!!」
「……あんまり行きたくないけど……っていうか行くならトリシェ連れてきなよ。八草と会うなら余計」
「ぅ…! …でも…トリシェ弱ってるし…」
「………仕方ないな…」
ガッ、と今度は橘が俺の腕を掴む。
浮遊感の後、グッと膝で持ち堪えると…景色がすっかり変わり果てていた。
…さ、さすがにコツが分かってきたぞ…!
「………」
「…橘?」
「………すごい死臭…やだな…」
すんすん、と周囲の匂いを嗅いだ後…そんな不吉な事を言う。
鼻を指で押さえ、眉を寄せて眼を閉じる。
「…なんだ、来たのか」
「!?」
そして後ろから聞き覚えのある声でそんな事を言われた。
振り返ると黒ファーのV系チックな超ロングコートを纏った王苑寺先輩。
その足元には小さな雪だるまを完成させた木吏さん…。
「え…!? 王苑寺先輩、なんで…!? …あ…明けましておめでとうございます?」
「………」
…もしかして、王苑寺先輩も陸を助けに来たの?
…この人も独自の情報網持ちだもんなー…。
怪訝に見上げていた俺を、王苑寺先輩は溜め息をついた後、通り過ぎて研究所区域内へ進んでいく。
「あの…王苑寺先輩も陸のこと…?」
「当たり前だろ。神殺し…八草沙幸なんぞにくれてやるくらいなら俺のものにする」
「…………」
……え……えーと…!
あ、あれ…? 王苑寺先輩って…陸が女の子だとは…知らない…よね?
確か、この人もノンケだよね…?
アンチ男同士だよね…?
むっちゃ真顔で仰いましたが…!
「お…俺の前で、そ…そんな事、普通言いますか…!?」
「別れたんだろ?」
「……くぅ…」
「…全く…困った奴だ…」
ストレート直球さすがです!
…心に傷を負ったよ…俺…。
……でも王苑寺先輩はまた溜め息をついてしまう。
なにが困った奴?
「……将也、誰?」
「え…王苑寺柘榴先輩…ってお前知らないの? うちの学校の生徒会副会長だったのに!」
「名前は聞いたことある気はするけど……。……木吏兄も久し振り」
「んー? …だれ?」
「……………」
…………あ…今、橘が本気でがっかりしたの分かった……。
「……、第49子、橘。12子、千歳と13子、神楽の弟子だよ…48子、梓の同腹の!」
「…そーなんだぁ〜? はじめましてぇー」
「………。……、…ハジメマシテ…」
橘が折れた…!!
あんな丁寧な自己紹介をしたのに!?
「ボクは第16子、木吏。17子、石榴の同腹だよぅ」
「知ってるし」
「え? そぉなのぉ〜? なんで?」
「…………」
「まぁいいやー。よろしくねぇー? …ザクロー、新しい弟だよー」
「…ああそうかよ…」
………自由だ。
「…あの、先輩…木吏さん、実家に帰ってたんじゃ…」
「ああ…年末年始の実家帰省とか抜かして今朝また現れた」
「…自由ですね…」
「ムカつくくらいな…!」
「…ところで王苑寺先輩って…木吏さんと兄弟だったんですか…?」
「こいつの弟と俺がたまたま同姓同名だっただけだ!」
「…すみません」
もしやそれで親近感が沸いて懐かれているのかな…?
…先輩可哀想…。
「あ…」
そんな話をしながら歩いていたら、第七研究所とやらに辿り着いた。
見た目フツーの施設だが…。
「……で、お前…峰山のこと、どうする事にしたんだ?」
「え…」
今!? 今その話すんの!?
驚いたが王苑寺先輩の眼は真面目だ。
…王苑寺先輩は…懐に一度入れた相手には寛大だ。
陸の為に世界を殺せとまで言った人だ。
…素直に言わなきゃいけない。
「…一緒に生きる為の努力と対話をしたいと思ってます。…それが駄目だった時は…陸と一緒に、俺は世界に殺されようって決めました」
「………。……そうか…。……それが一番、お前等らしいのかもしれないな」
星も月も見えない透き通った夜空を見上げて、そう…甘受してくれた。
白い吐息。
ゆっくりと、空にオーロラが現れる。
あれは夜時間に現れる『物質自己修復魔法陣』なんだって。
夜時間内に破壊された『公共物』や『公共施設』があのオーロラが放つ魔力で破壊前の状態に自然に戻る。
全てが自己責任の時間帯であろうと、公共の場や公共施設はあくまで町のものだからだ。
直らないのは人間などの生き物だけ…。
「…さぁて……」
そして俺は…この日…この時……ゆー兄と如月雪乃以外で、初めて知り合いの『夜時間』での姿を……眼にする。
普段から凶悪な笑みを浮かべる人ではあったけど、それでも、この人は俺にとって優しい良き先輩だった。
「神をも越えた天才と、神をも殺した貴様と…どっちが人と神の狭間の神子を獲るに相応しいか………決着をつけようじゃねぇか………なぁ…八草ァ…?」
橘「…将也、マジで一緒に行くの…?」 将「な、なに言ってんだ、当たり前だろ! 陸は俺が助けるんだっ」
木「ザクロ殺る気満々だねぇ〜。施設ごと壊すの〜?」
柘「峰山回収したら塵も残さず土地ごと消す」
橘「………本当…に行くの…?」
将「……い…行くもん…っ」




