『篠崎 遥』
「久し振りィ、妖刀使い。それとも魔剣使いに格上げして上げた方がいっかなぁ? なぁ?」
「ちっ…!」
「…………」
気持ち、燈夜兄の顔色が髪の毛(藍色)みたいになっている。
…確かに“あの”篠崎遥に背中を取られたとなると顔色も悪くなるよね…生きた心地はしない。
舌打ちしたゆー兄が、構えを変える。
剣を垂直にし、左手を添えて顔を隠すように固定する。
あれは真影月牙流、雲の組・弐の段……!
「…やるなら相手になるぞ」
「……イィね…妖刀使いのおにーさん、飯坂蓮華如きに苦戦してた頃からは考えられないくらい心地いい殺気だよ」
「う…浮い…っ」
俺みたいな魔王化してる訳じゃなく、多分トリシェや橘みたいな浮遊魔法…!
神様や王獣種がやるなら分かるけど、俺と同じ世界で生まれた人間がこうも容易く魔法を使う…、…それって本当にありえない…!
「…お誘い頂いたからには…」
「駄目ですよ! 篠崎先輩!」
「………」
「そうです、駄目です! はい、ちゃっちゃと降りて下さい!」
南雲と西雲の会長コンビが果敢にも篠崎先輩に立ち向かう。
左手に装着型の長刀を召喚した篠崎先輩は出鼻を挫かれて不満顔。
しかし理音と陸二人に「めっ」されて仕方なさそうに床に足を付ける。
あ…あの篠崎先輩に…言うこと聞かせたー!?
「ちぇー…たまには暴れたいよー」
「篠崎先輩と優弥お兄ちゃんが暴れたら町内迷惑になります! お店一秒でなくなりそうだし!」
「…まぁ、それやるとしたら俺の魔法より魔剣の方だよね」
にや、と笑ってゆー兄を見る篠崎先輩。
…それは…俺もそう思います…。
しかし篠崎先輩…三年生の男子校生でありながらまさかのネコ耳フードのパーカー…黒猫さんかっ!
相変わらず意味分かんねー…!!
しかもネコ耳パーカーのフードを外す篠崎先輩の、本日の髪型…まさかのツインテール!
この俺がまさかの事態に思わず噴き出してしまったではないか…っ!
「ひ…久し振りだな、遥…相変わらずそうで安心したよ」
「久し振りー、かいちょ。大学おもしろいー?」
「…ああ、真壁とかお前の兄さんとかも居て毎日楽しいよ。遥も西雲大、来年からだろう?」
「んーん。俺、来年寿命だから。死ぬよ」
「…………」
……篠崎先輩と唯一仲がいいと言われている長谷部元会長が言葉を失った…。
…日常会話に「来年寿命だから死ぬ」…とか……。
そりゃ言葉も詰まります。
「またそんな死に急ぐような事を…」
「死に急ぐような事じゃなくて、寿命なの。俺、やっと来年死ねるんだよー。…でも、凪も由も俺を殺してくれないみたい…、酷いよねー…このままじゃ俺、また世界を壊しちゃうのにさー」
「遥はそんな事しないさ」
「するよ。だってそれが俺の運命だもん」
髪の毛を弄りながら、不敵な笑みのまま、篠崎先輩は断言する。
…なんだこの人…本当に頭おかしい?
……、…でも…なんだ? この違和感…。
…世界を壊す?
来年…死ぬ…、…それが…運命って…。
「………」
…陸みたいな事を…言う。
「……それにしても獣が増えてるね。なに、皇のおにーさん?」
「…う…うむ…千歳兄様だ。神楽兄様の同腹の兄様だぞ」
「へー…そうなんだ、初めまして」
「は…初めまして…」
千歳さんにニヤニヤした笑みのまま挨拶をする篠崎先輩。
しかし千歳さん、表情が固い。
…なんだか緊張してるようにも見える。
あれ…神楽さんまで…?
「…な…何故…貴方がこんな場所に…」
「………」
にたり顔のまま、またフードを被り直す篠崎先輩。
そして理音に小さな縦長い箱を渡して…。
「メリークリスマス。よいお年をー。…理音、来年からたくさん人が死ぬよ。それ、大事にしてね」
…き………気味が悪い…!
それだけ言い残してレストランから去っていく篠崎先輩に、誰一人声もかけられない。
居るだけで緊張感で張り詰める。
居なくなれば、ようやく呼吸がまともに出来るようになるような…。
「っ…」
「あ、陸っ」
俺はやっと居なくなったー、とホッとしたのに、陸は篠崎先輩を追い掛けてレストランから出て行く。
反射的に追い掛けて、俺も外に出ると…。
「篠崎先輩! 貴方は死にませんよ!」
陸がそう、叫んでいた。
寿命で来年…死ぬと宣言していた変人に…何故か、陸が。
未来の見える輪廻の神子である陸が…。
なのに、篠崎先輩は不敵で、邪悪な笑みのまま。
「陸…俺の代わりに死のうとしなくていいって言ってるじゃないか」
…え…?
「違います! 本当に…私が器になるのが一番いいんです! だって私は女で、貴方は男だから…」
「…そうだね…俺が器になって創世神を納めると、そこの魔王が覚醒するより酷い事になるもんね」
「え…!?」
振り返った陸の驚いたような顔。
いや、俺も今…かなり…とんでもない事を…聞いてしまったような…?
「…将也…」
「……」
なにそれ…本当に…どういう意味だ…今の?
来年の件には篠崎先輩も、関わってたのか…?
篠崎先輩のが代わりに陸が死なないと…創世神の器にならないと俺が魔王覚醒するより世界が酷い事になる…から?
「陸、未来が見えるだけで俺の運命は変えられないよ。だって俺の運命は年期が入った呪いだからね。…俺を殺せるのは…凪か由だけ…。…でも今回も、凪も由も俺を殺してくれないらしい」
「ち…ちが…違います…! 本当に…」
「そう? じゃあどっちの死の運命の方が強いか勝負しようか? 俺の呪いは強いよー? ククククク…」
…ど…どう考えても楽しい話題ではなかったんだけど…。
「………」
「…陸、今の…どういう意味…?」
「…篠崎先輩は……俺と同じように創世神の器になる未来がある人なんだ…」
「………」
「…でも、篠崎先輩はなっちゃいけない…、…あの人が創世神の器になったら…」
『逆に創世神を取り込んでしまう』
今まで黙っていたトリシェが続きを言い切る。
…創世の神様を…取り込む…って。
「…どういう事だよ…? 神様に憑依されたら『光属性』『憑依型』以外、魂と精神が食い潰されるんじゃ…?」
『普通はね。…でも彼の器と魂は……元々が神だ』
「……は…はい?」
『なんだろうね…彼……人の手が加わった器に、俺よりも高位の神の魂…けど、那音と同じような状態だ…。神格の魂に魔力や神気が全然足りていない……ひどくちぐはぐだ』
「……」
『…まさか…、…いや…けど…そうとしか考えられない……神子殿…君はどのくらい彼の事を知っている? 俺が初めて会った時より、篠崎遥は精神と魂が乖離してしまっている…! あの状態でこの世界の創世神を体に入れたら…魂が創世神の神気を取り込んで更なる巨神が…復活するんじゃないか…!?』
「……え…」
「…………」
『……神子殿…君の見た“本当の未来”…話してくれない? …それを回避する唯一の方法が君自身が器の“代わり”になる事なのだとしても…』
陸の顔色が、悪い。
…そうだ、ちゃんと…知ろうとしないと…。
陸の事…陸が抱えているの全部…俺も、一緒に背負いたい…!
『場合によっては、俺の“奇跡”で迎え撃つ必要が出てくる…!』
「それはダメです」
『みぎゃー!?』
「ト、トリシェさん!?」




