俺、那音教に入信しました!
「…そういうのは、迷惑なんだけど」
キッ、ときつく睨まれて、はっきり言い放たれる。
うん、知ってる。
陸は俺を悲しませたくないんだよね。
危険な目にも合って欲しくないし、八草と殺し合いして欲しくないんだもんね…。
ちゃんとわかってるよ。
わかっているけど…俺はそれを受け入れてあげられない。
「…ふっ…」
「…っ?」
「陸…俺は昨日、陸に振られた後ヤバいくらい病んだ…! トリシェに先に寝られ、橘にぶん殴られ、氷雨さんに愚痴を言い過ぎ、ゆー兄にはみぞおち蹴られただけじゃなく背負い投げまでされた!」
「……………」
「今朝なんか理音が陸に告るとか言い出したから、理音を殺そうと魔王化第三段階を解禁してしまうくらい…!」
「……〜〜!?」
「…我ながらちょっと病みすぎてヤバかったかなって思ってる」
『……そうだね…最終的に神子殿と死ぬって結論に達した辺り、もう回復の見込みもないレベルで病んでるね……』
…あ、うん…ほんとだね…。
最終地点が心中って完全に回復の見込みないね…今気付いた。
まあ、いいや!
「…き…気持ち悪い…!」
「…だから、一人で死にたいなら俺を事前に殺しておけよって言っただろ。開き直った俺は怖いぞ。気持ち悪いと言われようが変態と言われようが気にしないから」
「………」
「むしろ陸に睨まれて罵られるの、気持ちいい!」
「本当にただの変態じゃないかっ!」
「変態上等だ!」
「よく言った将也!!」
「な、那音お姉ちゃん!?」
ダン! と、片足で椅子を踏みつけた那音姉。
そう、この手の話題なら、この場には俺にとって、最大最強の味方がいる!
「愛とラブに行き過ぎなんてありません! 嫌よ嫌よも好きの内! 罵られようが殴られようが刀で切り落とされそうになろうが、そこにツン的なものを感じたらそれは愛です!」
「やめろー!」
何かを感じ取って止めに入るゆー兄。
しかしなんかのスイッチが入った那音姉を止める事は誰にも出来ない。
拳を振り上げた女神様は、力強く宣言する。
「好きなものを好きと言って何が悪い!」
「那音!」
「おれは優弥が好き! アイラブゆーや! 愛してる! ツン割合9.9な優弥でも愛してる!」
「那音、降りろ! もうわかったから!」
「例え優弥が本気でおれを殺そうとしたとしてもそれは愛だと思います! ならば、おれもその愛に全力で応えます! 色んな人に気持ち悪いと言われようが、おれの優弥への愛の重さに比べれば、そんな罵倒可愛いもんです! なぜならおれは優弥を愛してるからー! …その気持ちを否定するなんて事、おれ以外の誰にできようか!? 否、誰にも、ましてや世界にだって! 出来るはずもない!! そんなのは、世界の方が間違っている!!」
「……………」
あ…ゆー兄、ついに顔を手で覆った。
「さすが師匠…! いつ聞いても素晴らしいご高説です!」
「自説を体現し、成功した師匠、やっぱかっこいいっす…!」
『那音かっこいー!』
『イブ様すてきー!』
「そーだそーだー! 那音姉の仰る通りだー!」
…理音の同級生、安曇と神野が那音姉を「師匠」って言ってたのこういう事だったのかー!
千里はともかくトリシェ絶対乗っかっただろ…。
いや、しかし俺も那音姉の自説には乗っかっておく。
俺もその通りだと思います!
「…なんというカリスマ…! 僕も是非弟子にして下さい!」
「長谷部くん!?」
「光慈!?」
あ、長谷部も入信した。
「…好きなものを好きと言って何が悪い…か…真理だな…!」
「た、確かに……意味の分からない部分も多かったですが、言ってる事は正しい………ような気が…?」
「俺もケーキが好きでーす。っていうか食べるのが好きでーす」
「…神楽、あんたの兄弟も那音の演説に流されてるわよ」
「ああ、まあ、いいんじゃないか?」
「いいのか…?」
幻獣ケルベロス族まで押し流すとはさすが那音姉…!
「…柳瀬のお姉さん、かっこいいな…」
「泰久まで!?」
「わーい、那音お姉ちゃんかっこいー! 僕も理音お姉ちゃん大好きー!」
「と、燈夜く…ぐぇ!」
「僕おっきくなったら理音お姉ちゃんのお嫁さんになるー!」
「・・・・」
…………一拍の、間。
「アァ!? 燈夜テメェ今なんつった!?」
「わぁ!? 優弥お兄ちゃんがなんかキレたー!?」
「理音の嫁だとふざけんなよ!! 理音が欲しければまず俺を倒してからにしやがれ…!!」
「…、…優弥お兄ちゃんをやっつければいいの…? わ、わかった!」
「ちょ、ちょっと待ってー!?」
改めて解説します。
うちのゆー兄は那音姉の妹、理音をそりゃーもう弟の俺とは比べるのも馬鹿馬鹿しいくらい溺愛しており「理音の彼氏は俺を倒せるような男でなければ認めない」…と日々義妹に纏わりつく虫を牽制し続けてきた。
それは半神半人という、人間の枠を越えちゃった今でも変わりません。
魔剣を取り出して今にも神格化モードになりそうなゆー兄に、燈夜兄も朝同様大鎌を取り出します。
…同じく仙格持ちとして人間の枠をちょっぴり越えちゃった燈夜兄の戦闘力は、24年間、神様であるトリシェが器として使用していただけあってゆー兄といい勝負です。
……ただ…理音の嫁っていう部分をスルーする辺り、ゆー兄…冷静さが欠けてるな…。
『わーん、将也どうしようー! 優弥と燈夜がまた喧嘩を始めちゃったよーっ』
「俺に言うなよ…。俺が魔王化して止めに入っても、もっと厄介な事になるだけじゃん…」
『それはそうだけどー!』
「それに燈夜兄が理音と付き合いたいなら、ゆー兄という障害にはいつか必ずぶち当たるもんだよ…」
『それはそうだけどー!!』
「それはそうなの!?」←ゆー兄が理音をどんだけ溺愛しまくっているか知らなかった神子様。
再び緊張感に支配された店内。
魔剣を構えた半神半人と大鎌を構えた戦闘型仙人のガチバトルが、今にもその火蓋を切って落とそうとしていた。
「面白そうな事やってるね。俺も混ぜてもらおっかなー…」
「!?」
「!?」
…一切の気配もなく、燈夜兄の大鎌の柄に…燈夜兄の背後に現れたモコモコネコ耳パーカーの曲者。
黒いパーカーから覗くのは邪悪さを含むどす黒い眼。
弧を描く唇の奥には鋭い八重歯。
……そういや、理音のお馬鹿が声をかけてたって言ってたっけ………!
「…篠崎…遥…!」




