魔王の素質も王の素質!
「英雄契約は共闘契約の効力も守護獣契約の効力も併せ持っている。将也の方にデメリットはないだろう。…契約を更新した以上、俺からお前たちの在り方に何かを言う義理はない。どうしていくかはお前自身が選び決めろ」
そう括られて、神楽さんの授業は終わった。
運命共同体になったのに、俺ばかりが得な契約だなんて…そんなのあっていいもんなのか。
「………」
前世の俺は橘にとって、そのくらいなんともないって思えるくらい…大切で守りたい存在だったんだ。
今の俺にその価値はないはずなのに、橘は契約を更新しろって手を差し出してくれた。
俺は陸を諦めない事で、それに報いるつもりだけど…それじゃ全然足りないよ。
「橘!」
「……なにー?」
人がせっかく大声で呼んだのにゆるーい返事。
それもそのはず…橘の野郎、長谷部元会長の差し入れに一人で手をつけていやがった。
こいつ…本当に…っ!
危うく決心が揺らぐところだったっつーの!
「…ふぅ…」
溜め息を吐いて、一端気持ちを落ち着かせる。
「英雄契約がどんなもんなのかは多分、分かった。だから陸と一緒に、お前の事も俺が一生背負う事にした。文句ねーな?」
「………」
俺が爆弾背負ってんのは、もう生まれ付きの事だからしょーがない!
陸の事を諦めないのは、俺の我が儘!
それに付き合わせて、挙げ句、爆弾まで一緒に背負ってもらったからには…この位、やらねーとダメだろ!
とりあえず意思表明をしてみた俺を、一回だけ食べる手を止め…すぐ食べ始めた橘。
あれ、ちょっと…俺、今結構な重大決意を表明したんですが…まさかのスルー?
「……橘…」
「…ん?」
「ん? じゃ、なくて…」
「………」
「食うのを止めろ!」
「…いや、ちょっとキモいこと言い出したもんだな…と思って」
「キモいって言うなー!」
「そういう事は、神子を助けてから言いなよ。俺は美味しいもん食えたらそれでいーしー…」
「将也ー、橘のうどんできたから運んであげてー」
「ええええぇ!?」
今度はうどんですか那音姉!?
でも…逆らえないので運んじゃいます。
「……」
「そうむくれるなよ。俺はただ、神子より先にプロポーズチックな事を俺に言うなって割と本気で気持ち悪がりながら忠告しただけだろ」
「ほぼ本音ですね!」
「そうですね、事実です」
こんちくしょう!
しかし言ってる事は正論なので納得します!
ごもっともです、橘サン!
「…橘、橘、神子とは何神子ですか?」
「ん? 輪廻の神子」
「輪廻の神子!?」
「…呼ぶ?」
隣で泰久の勉強を見ていた千歳さんが話題に乱入してきた。
やたらキラキラした眼差しで聞き返され、橘が携帯を取り出す。
え、え? なに? 今、なにがどうなろうとしているの?
―――十分後―――
「こんにちは、那音さん。これ差し入れです」
「ありがとう陸くん!」
来ちゃったぁあああああああ!!!!
「……あ…あの…陸…」
「なに? 小野口くん」
…ふ…フツー…だ…。
「……へぇぇ、本当に輪廻の神子って実在するもんなんですねぇ! 初めまして、わたしは幻獣ケルベロス族、第12子、千歳です。お会いできて光栄ですよ、神子殿」
「あ…はい…ありがとうございます…?」
「…持って帰っていいでしょうか」
「へ!?」
「千歳! …駄目だぞ…」
「…ちっ…」
千歳さんと一緒に泰久の勉強を見ていた神楽さんが、真顔でなんか言い出した千歳さんに釘を刺す。
も、持って帰ってなにするつもりだ…。
………いや、待てよ…持って帰る…?
「持って帰っていいです千歳さん!」
「なに言い出すの君!?」
「え、本当に持って帰っていいんですか?」
「千歳!」
「どーぞどーぞ! その内迎えに行くので!」
「ま、将也!」
『……姑息な手を…』
「八雲にいいお土産が…」
「ち・と・せ…?」
「…………」
異世界に持ち帰って保護してもらえばいいじゃん! …と思ったのだが…神楽さんが獣眼開眼で千歳さんの肩を掴んだ。
…ぶっちゃけ寝起きのゆー兄並の恐さ…。
神楽さん怒ると本当に恐ぇーや………。
「将也も何を言い出すのだ…?」
「本当だよ! 人をコケシかなにかみたいにっ!」
「…だってー…陸が来年結婚するって言うからー…」
「陸結婚すんのぉ!?」
俺を呆れた眼で眺めていた理音が立ち上がって声を上げた。
本日中に陸に告白するつもりだった理音には寝耳に水だよね。
俺が振られた理由も聞かずにいたお前が悪いんです。
しかし陸はやっぱり陸だった。
腰に手をあてがって…。
「そうだよ。俺、来年の4月には18歳になるから」
「だ、誰と…!? 陸に彼女が居たとか、聞いたことないんだけど…!?」
「…本家の取り決めていた婚約者と。…だから学校も来年中退するんだ」
「……へ…?」
「………」
……俺、それは知らない…。
陸…学校辞めちゃう…の?
うそぅ…!
「初耳です、会長…。引き継ぎとか、どうされるんですか…!?」
「大丈夫、やる事は全部マニュアル作っといたから。長谷部くんならすぐ出来るようになるよ」
「だから小野口先輩と別れたんですか…? 小野口先輩は確かに頭と顔しか取り柄のない残念な人ではありましたが、会長への執念深さは気持ち悪いくらいだったんですよ…!? 重度のストーカーになる前に息の根は止めておくべきでは…!?」
「はーせーべーぇ!」
「…い…息の根は止めなくても良いかな…」
「………心広すぎます…会長…!」
「お前…! 魔王化した俺見た後でよくもまあそんな口叩けるな…!」
本当に失礼な…!
八草の前に長谷部の息の根を止めてやろうか…!?
「…そんな…陸はその人の事…好きなの…?」
「…好きとか嫌いとか以前に…俺にしか支えて上げる事の出来ない人だから…」
…本当に…心広すぎだよ…陸。
あいつの為に、なんで陸がそこまでするんだよ?
沸々、湧き上がってくる怒りを、我慢出来そうに―――――。
…――駄目だ…さっき決めたじゃないか、俺が魔王化したら橘も…!
「………」
『……?(おや? 闇魔力が沈静化した…? 将也、自分で抑え込んだのか…?)』
我慢…我慢しろ、俺。
今、陸に怒るのはおかしい。
陸が優しいのは、知っていた事だろ?
陸が優しいのは…別に俺に対してだけじゃ…ないわけで…。
「……陸」
「…なに?」
「…俺、陸に言っておきたい事がある」
「…なに…?」
俺は頭はいいけど馬鹿だから…。
本当にガキで、どうしょもない残念な奴だから…。
でも、陸の事が好きで好きで大好きで…絶対、諦めることなんか出来そうにもないから…!
「俺、陸が好きだ。だから陸が死ぬ時は一緒に死ぬ。…それが嫌なら、本当に予め、俺の事を殺しておけよ」
「………」
「知ってるとは思うけど俺の諦めの悪さは最悪だからな? 何せ日本一のアイドルで、異世界の魔王の王子様で、二千年も弱者救済をしてた英雄神の息子で、小野口優弥の弟なんだから」
ズラッと並んだ俺の肩書き。
陸が呆気に取られて…そしてくしゃりと、表情を歪ませた。
それは南区の倉庫街に、トリシェを助けに行った時…神楽さんに対して見せた表情とよく似ていた。




