神楽さんのお兄さん登場!…その犠牲は無駄にはしない…!?
「…柳瀬の好きな奴って、将也と同じだったんだな………」
「…泰久…え、まさかお前も理音のこと…?」
「…いや…そう言う訳でもないよ…。…体調は、本当にもう平気なのか…?」
「…ん、ああ…」
参考書を開き、ノートに数式を書き始める泰久は…どこか寂しげだ。
まさか泰久も理音が好きだったとは…?
体調を気遣われ、誤魔化されたが…多分、泰久も理音のことが…。
あいつ、天下のRi-3リーダー、空風マオトまで振るとは何たる罪作りな…!
「……う…」
「泰久? どうした…? まさかどこか怪我でも…!?」
「………す…数学もう嫌だ………っ」
「…………が、頑張れよ…、分かんないとこあったら教えるからさ…な?」
クリスマスパーティー中ずっと勉強してた泰久。
まさか俺が暴れたせいで怪我でもしたのかと…心配しちゃったじゃないか。
…しかし泰久のノートを覗くと、見事に間違いだらけ…。
…しかもこれ、中学校で習う問題じゃん…。
「…泰久、お前どこの大学行くつもりなんだ?」
「……南雲の大学部に行こうと思っていたんだ…入学費も学費も安いし、体育大学だから勉強もそんなにしなくていいし…けど、俺…高校でも部活入ってなかったから推薦取れなくて…もう自力でセンター受かるしか…っ」
「…………」
南雲の大学部か…確かにあそこは頭のレベルは残念なくらい低い…!
その分、倍率も高いし、スポーツの推薦がないと辛い。
このノートを見る限り東雲の大学は無理っぽい。
俺が行くつもりの西雲はもっと無理そうにだ。
北雲は女子大だし………。
「…将也は勉強しなくていいから羨ましいな…」
「い、いや…俺も勉強はするけど…」
「……俺は馬鹿だから…いくら勉強しても…全然分からなくて…」
「えーと…」
日本屈指のアイドルグループ『Ri-3』のリーダー空風マオトは元気一杯、夢一杯。
悩みも不可能も元気の力で吹き飛ばす!
……が、売りである。
その正体は、ネガティブで落ち込みやすく繊細…。
…このネガティブで落ち込みやすくて繊細な泰久だからこそ、真逆なキャラである空風マオトになれるんだろうけど…。
「神楽さーん…泰久に数学を教えてあげて下さいっ」
「ん? ああ…構わんよ」
教員免許のある現役数学教師が居るんだから、頼んだ方が得だよね!
すぐに泰久の勉強に付き合ってくれる神楽さん。
やはり教え方は丁寧で分かり易い。
「他の教科でも、分からないところがあれば何でも聞いてくれて構わない」
「あ…ありがとうございます…っ」
…神楽さんって本当に優しいな…、……怒ると怖いけど…さっきのみたいに…。
…泰久も優しいしな……あんな魔王化した俺を見た後でも…全然対応が変わらなかった…。
理音の同級生なんかドン引きなのに…。
「…ん?」
「…神楽先生…? どうかしたんですか…」
「…空間に接続が……この匂いはまさか…」
『げっ!』
俺の頭の上でトリシェが立ち上がる。
なんだか様子のおかしい神楽さん。
なんだろう?…と首を傾げていたら泰久のノートが何者かによって踏み潰された。
「……は…」
「見付けましたよ! 神楽!」
や…泰久のノートが…!
犯人は…、……あれ、神楽さんと同じ顔…?
でもおかっぱ頭風だな…?
え? なにこの人…?
いきなり現れて泰久のノートを踏み潰して…この人、一体何者…!?…って分かり易い!
三番目の眼に、白と黒の民族衣装…ケルベロスの―――。
「…千歳…八雲まで…一体どうしたのだ…!?」
「あー…すまんのう、神楽…止めようとしたんじゃが…」
「年末年始は帰ってくるって言ったではないですか…!」
「……………」
………あ……神楽さんの実家のケルベロスさんか……。
神楽さんの顔がだいぶがっかり顔だ…。
…あれ、でも皇みたいな女子小学生風の子もいるけど…こっちも神楽さんの実家のケルベロスさんか?
…えらい派手な感じだな、チビなのに。
……………、…いや…チビ?
チビって事は…まさか…!?
「八雲!? と…千歳…!? ……さん」
「わー、お久しぶりぃー」
「おう、イブもユウヤもお久しぶりだのう。邪魔しておるよ」
チビなのにジジイ喋り!
やっぱり、この小学生みたいな人…!
「え…ちょっと優弥、那音、誰よ、この子…?」
「神楽のお兄さんだよー。小さい方が八雲さん、あっちの神楽にそっくりな人は千歳さんって言うんだー」
「……は? か、神楽のお兄さん?? この小さいのも?」
「うん、そー!」
露姫さんが驚くのも無理はない。
どう見ても小さい方は皇よりピッチピチだ。
二十歳前後の神楽さんと比べて、むしろお子さんと言われても納得出来そう。
うわぁ…橘が言ってた「ミニチュア系」って、本当に本当だったんだぁぁ…!
「…千歳……まさかそんな事でこの世界に来たのか? 場所も弁えず?」
「別にユウヤが困ろうとわたしは困りませんから!」
「…すまんのう……一応引き留めてはみたんじゃが…儂が言うてもまるで聞かんでのう……」
「……」
神楽さんが頭を抱えた。
…なんかこの時点で神楽さんの立ち位置が伺える…。
ゆー兄や那音姉は神楽さんの実家に一回行ってるから顔見知りっぽい…。
「ほら、千歳、神楽には会えたし用件も伝えたんじゃ…もう帰ろう」
「なにを言っているんですか八雲! 神楽を連れて帰るに決まってます! わたしは神楽が一緒に来るまで帰りませんよ!」
「童のような我が儘を言うでない…。凛や支水にバレたら大目玉じゃぞ?」
「別にいいです! 怒られるのはわたしなんだから、八雲は帰ればいいじゃないですかっ」
「……」
八雲、という小学生みたいな子も頭を抱えた。
…なんというか…千歳さんって神楽さんに背格好も顔もそっくりなのに性格全然違うな…!
「神楽、ねんまつねんしというのはまだ先なのか?」
「…いや、部屋を明日片付けて…年始の準備をしてから明後日辺りには戻るつもりだった」
「…こちらの世界で約三日後か。…千歳、三日程耐えられんのか?」
「…わたしが許せぬのは!」
ギロ!…と千歳さんが睨みつけたのは…ゆー兄。
大袈裟にも見えるくらい肩を跳ね上げたゆー兄は、引きつった顔で後退りする。
「この半神半人が神楽の傍らに居る事が許せぬのです!!」
「…す…すみません…!」
ゆー兄が謝った…!
「…そうか。…だが千歳」
「なんでしょうか、神楽」
ふらりと立ち上がった神楽さん。
ボキボキ、と拳を鳴らし…その目は完全にお怒りだ。
神楽さんのお怒り具合に感づいた千歳さんが、だんだん顔を怯えた笑みに変えていく。
「…な、なんで怒っているのですか…」
「足下には気を付けろと八雲に何度も注意されていたな? …今、お前の足下に何がある?」
「……? 書物…?」
「………」
神楽さんが本気で人をぶん殴ったところを、俺はその日初めて見ました。




