事態のヤバさを理解しました。
「で、具体的にだけどさ」
「うん?」
「まず、将也はどのくらい、事の難しさとか状況とか理解してんの?」
「………。…八草をぶっ殺せば万事解決じゃないの…?」
「将也って、頭いいハズなのに考え方が残念で単純だよね」
「喧嘩売っとんのかおのれは」
なんか俺、最近「頭いいハズなのに」とか「頭いいくせに」とかの暴言多くね!?
むくれた俺に深く溜め息を吐き、橘の奴は気怠げに説明し始める。
「…まず一番に理解しといて欲しいのは、創世の女神の事」
「創世の女神…?」
『この世界を創造した女神の事だねー。創世の女神の事は麒麟の王、琥麒がこの惑星の地核に自らの肉体を使って封印し、強い魔力を持つ人類の一族と共に封印を守り続けてきた。…じゃあ、なぜ彼らはそんな事をする必要があったのか…』
「……なんで?」
『…俺はこの世界の神じゃあないけど、この世界の創世神が人類を含むあらゆる生命の根付きを、是としていない事はひしひし感じる。…地核から憤りが溢れていて、あらゆる命への殺意に満ちている…。…麒麟は命を守る神獣だから、創世の女神の殺意から、命を守る事を選択したのだろうね』
「え…? あのさ、ちょっと待って…意味がわからないんだけど…? …世界を作った神様なのに、そこに命が根付く事が気に入らないってどういう事?」
殺意って、なに? どういう事?
女神なのに、自分の作った世界の命にムカついてるっておかしくない?
「まー…神様にもよるけどさ…、…基本、人間虫螻思考なんだよね、神様って。琥麒とかトリシェは力ある神にしては割と珍しいタイプ。うちのにーにーずも人間イコールゴキブリ的な生き物だと思ってるし」
「ゴキ…!?」
「この世界の創世の神は多分、害虫に寄生されてるくらい考えてるよ…。言葉なんか通じないだろうって感じでさ」
「…ひ、ひどくない、その考え方…!」
「神様にもよるって。…で、その創世の神は琥麒の封印の弱まりで復活しようとしている訳」
「…うん…」
それはなんとなく…知っている。
月科先輩の死は、八草の奴が仕組んでいた事。
月科先輩は、麒麟の王…琥麒の生まれ変わり。
世界を守る為に、その力を人間に狙われ、削られながらも懸命に働きかけていたらしい。
…しかし結局、八草の野郎に根幹の力の結晶体…神剣『天地ノ尊』を奪われた。
器を創世神の封印に使い、力を人間に奪われ、魂と精神を再び輪廻の輪へて流された神。
世界の命を守るために奔走していたのに…。
改めて、月科先輩って…神様だったんだなぁ…。
「その害虫を殲滅したくてたまらない神様が復活したら、どうなるか分かるっしょ?」
「………」
『神子殿は創世の女神の怒りを治める為に、人柱として器…つまり身体を差し出すつもりだね。…琥麒が女神の肉体を、自身の肉体で以て封印しているから、彼女は魂と精神…中身だけで復活しようとしているんだろう。だから、器として神子の身体を欲している…って事だね。しかし神が神子を得る時に、神は必ず対価を神子に対し差し出さねばならない。対価としてあの神子殿は『世界維持』を願うつもりなのだろう』
「創世神にとっては酷い矛盾になるけど、どうなのかね?」
『……うーん…。…俺は神子殿が…「光の王のものになる」とか言ってたのが気になるなぁ…』
そう言って考え込むトリシェ。
うーん…なんか俺に関係あるはずなのに、現実味がなさすぎて付いていけないなぁ。
でもしっかり聞いて理解をしなきゃ。
陸の命がかかってるわけだし…!
「…気になるって、どういう事?」
「…光の王…王、ねぇ……聞いたことあるような?」
『お前、ケルベロスだろ? なんで知らないんだよ…。…まぁ、俺も知識としてしか知らないけど…多分、多分だよ!? ……『八王の儀』…の事ではないかと思うんだよね…』
「…ああ…『八王の儀』……ってなんだっ…け………」
…………。
橘の台詞が言い終わる前に…トリシェの飛び蹴り(もちろん強化魔術使用)が橘のデコに決まる。
素晴らしいクリティカルっぷりだった。
しかし普通に、デコを抑えて持ち直す橘。
…俺なら壁まで飛ぶ自信があるんですが。
『テメェ、ケルベロスのくせに知らねぇ事多すぎだろ!! 正直、神の知識なんて「こんな事あったなぁ」程度のもんなんだからちゃんと知っとけよ!!』
「それ逆切れっていうんだよ」
『じゃかしいわ!』
あ…トリシェの悪役スイッチが入った…。
あ…また橘がトリシェに蹴り飛ばされた…。
……何故無事なんだろう。
「…で、実際それってなんなの?」
『………、…うろっとしているけど…神が神子に八人の王を選出させ、王にそれぞれ世界の在り方を問い、その答えに応じて世界の在り方を定める儀式…だったと思うな…。創世の神って世界そのもの、理そのものだから…つまり…八王の一人に選ばれれば、世界を好きなように創り変えられるチャンスが与えられる…って事!』
「………。…つまり世界征服って事?」
『将也は考え方がちっせぇなぁ…! ちげぇよ、例えばモンスターと戦ってレベルを上げ、最後に魔王の城に挑むような…そんな世界がいいっつったらそういう世界になっちゃうって事だよ!』
「いきなりファンタジック!?」
『そうだよ! この科学で支えられた世界が、剣と魔法と愛と勇気の世界にもなれば刀と男気と別れと愛とに満ち溢れた和風世界にもなるし、愛憎と嫉妬と悪意でドロドロな昼ドラワールドにもなるし、夢と希望と愛と友情と恋に生きる魔法少女の逆ハーレムワールドにもなるのさ!』
「………っ」
とりあえず全部に愛が含まれてる!
さすが英雄、言ってる事はかっこいいな!
でも、なんかむっちゃムカつくな、このちまいぬいぐるみ!
イラッとしたのは何故だ、イラッとしたのは。
「…お菓子の国にもなるって事…?」
『なるなる』
「やめろ。もういい分かったからそれ以上はやめろ。話が俺にとって最悪な方向に逸れそうだからやめろお前等」
………成る程、トリシェの例えはともかく、つまり要するに神様が丸投げするって事か。
今、世界に生きる全ての命を殲滅させない為に陸は創世神に身体を差し出す。
創世神はその対価で身体を手に入れる。
…でもやっぱり害虫(人間)は何かしらの形で駆除したい創世神は、その『八王の儀』ってやつで選んだ残念な王の言う『世界の在り方』を叶えて世界をめちゃくちゃにしたる! …って事か…ひでぇな!
「…………」
――魔王にも王様にもならないで……。
――いつか八人の王様を選ぶ事になる……。
陸が俺に言っていたのは、こういう事…。
けど、陸は「王の一人には必ず八草を選ぶ」とか言ってた。
あんな奴が…その“世界を創り変えるチャンスを得る”…だとぉ…?
「……ははっ…逸れるどころか…もうそのルートに入ってるかもしれない…?」
『あ、やっと理解した?』
「良かった良かった」
「全然良くねーし! …つまり陸は、その八王っていうのの一人に八草の野郎を選ぶとか言ってるって事じゃん!? あんな奴に世界を作らせて、まともなもんが出来上がる訳ねーし!」
「それは八草に限らず、将也や普通の人間でも同じっしょ」
「うわあ、ムカつく!」
でも否定はしません、あえて!
俺はお利口さんなので人間が持つ私欲の残念さとか自分の残念さとか、ちゃんと自覚はあります。
…人間はどこまでいっても人間だ。
トリシェや神楽さんみたいな人外や、陸みたい心が澄んでいる子でなけりゃ…世界の在り方を変えるなんて権利を得れば、結局最後は自分さえよけりゃオッケー! …みたいな事になるに決まってる。
予想以上にとんでもない状況だったな、こりゃ……まだ現実味ないけど。
「…そこまでは分かったけどさ、…じゃあつまりどうすりゃいいの?」
「………」
『………』
トリシェと橘は顔を見合わせる。
あれ、俺なんか変な事聞きましたか?
「…どうすりゃいいのか分かれば、将也にちゃんと状況理解しろとは言わないかな…」
『え…ちゃんと分かったんだよね、状況…理解したんだよね? 神子殿が言っていた「決められた未来、変えられない運命」ってつまりこのどん詰まりした状況の事だよ? 頭のいい将也くんに難しかった、なんて事はないよね?』
「…………!!!?」
……あ、そういう意味か…!
すいません、今理解しました、ちゃんと。
「………。…えー…俺、陸が居るなら世界とか別に滅んでもいいな…」
「………(さすが魔王…)」
『………(考え方の終点が魔王過ぎる…)』
なんかうちの身内は女神(那音姉)、半神半人(ゆー兄)、神様に始まりケルベロスだの未来人ばりの科学者(王苑寺先輩)だのうっかりアンドロイド開発しちゃう発明家(沙上さん)とか…常識おかしいし。
あの人達がいれば世界を滅ぼす大災害とかあっても大丈夫そう。
『……まぁね…』
「?」
『……将也が本気で、その未来でいいというのなら…その未来を選び取る事は可能だろう…。…お前は基本、イレギュラーだから』
「………どういう事?」
腕を組み、神妙な面持ち(※あくまで将也のイメージ)で首を横に振るトリシェ。
橘の奴はどこからともなくチュッパチャプスを取り出し、封をベリッとして舐め始める。
『……………』
「おい、黙るな。…なんなんだよ?」
「………、…魔王だからだよ」
「…ん?」
そして黙り込んだトリシェの代わりに、橘が告げた。
…魔王、だから?
どういう事だよ?
「……将也の『魔王の素質』は覚醒した瞬間、世界を滅ぼす程のものなんだろう? 将也が魔王として覚醒しただけで創世神の目的は達成するよ。…意識して神子だけ殺さない事は出来るだろうね、将也は神子が欲しいんだから。…でもその代わり…本当に全部殺すよ。自分と神子以外、全部ね」
「……………」
――魔王にも王様にもならないで……。
「……そ…そんなの……イヤだよ…」
「あれ、ヤなの? …世界が滅んでもいいって言ったのに…」
「ほ、本当にそんな事になったら…陸に嫌われちゃうに決まってるだろ!」
「ああ、そっか…」
ああ、そっかって…軽いなこいつ…!
……そうだよ…本当にそんな事、出来るはずないじゃん…。
…陸と俺以外全部殺すなんて…そんなの絶対…嫌だ………嫌だ…!!
「それ以外! …あ…八草を殺すとか!」
「…八草沙幸を殺しても無駄かな。琥麒の封印が弱まっているのは、人間の一族が創世神の神気を摂取する量を増やしているからだし、八王の儀で八草沙幸が王になる運命を変えたところで、他の誰かがその空席を埋める事になるだけ。…そもそも将也は勝てないし」
「とてもうるさいです。…じゃ、人間の一族の人達に協力して貰うとか…」
『それも…現実的ではないかな。琥麒の封印は、琥麒の神気がマックスの状態で、それプラス、数百人単位の高レベルな霊力者が数ヶ月かけて施したものだと思う。…そもそも、創世の神を封印すること事態がムチャクチャな事だ…。相手は世界そのものなのだからね』
「…り…陸以外の神子とか…いないのかな…」
「世界中探せば居るだろうけど、あれだけレアな条件の神子は間違いなく居ない。霊力の高さに先見のスキルに仙格持ち……わざわざ質を落とした神子で納得してもらえるわけ、ないない」
「……そ…創世の神様を説得して、諦めてもらう…とか…」
『さっき橘が言ったでしょ? 創世の神にとっては害虫なんだよ人類は。…言葉通じると思ってないから。…あと説得出来てりゃ琥麒が封印に踏み切るわけねぇし』
「ト、トリシェが説得を試みる…! トリシェの神格は創世神クラスなんだろ!?」
『…橘が峰山神社の神域に入れない理由と一緒だよ。…異界の神が、他界の創世神のやり方に口出すのはイコール喧嘩売るって事だ。…今の弱った俺じゃ勝てないよ』
「……え……えっと…月科先輩が生まれ変わるまで待ってもらうとか…」
「間に合わないよ。転生って百年は間違いなくかかるし」
「…は…八王を皆殺し…」
「将也、八王選出の時点で神子は創世の女神に身体を差し出し終わってるよ。その前段階を考えなよ」
『…一応補足はしとくけど、八王に選出された人間は神格化一歩手前の『仙格』に格上げされて神気一歩手前の『仙気』を使えるようになる。能力的に、今の優弥くらいの力を持つ者が八人相手…って感じだよ。…やめとく事をお薦めしとくよ…』
「えっと、八王は考えちゃダメって事か……じゃあ、えっと…創世の神様を説得出来る可能性のある人とか神とか…どっかに居ないの?」
「超他人任せだね…いや、まぁいいけど…。…そうだね…この世界の創世神は…水龍鳥神っていう、不死鳥と龍型水神の掛け合わせって神楽が言ってたから……うちのにーにーずの…支水兄なら………いや、説得出来る以前に支水兄を説得するのが無理か…無理だな…うん、恐い、無理だ」
「なにそれ! なんで!?」
「…あのね、うちのにーにーずの…要するに上位兄の更に上…上級上位兄は、人間と書いて虫螻と読む…的な考え方な御方しかいないの。神楽は上級上位兄だけどあれは変人! ネジが抜けてる! 考え方がおかしい! 絶対どっか狂ってるか壊れてる! と、一族中から言われ続けている奇抜で特殊なタイプ。…中でも人間を雑草・砂粒・空気中のハウスダストとしか認識していない支水兄に人間を守る為に創世の女神を説得して欲しいとか……優弥に那音を嫁にくれとか頼むようなもんだよ…!」
「…それは…」
突っ込みどころがすごくたくさんあるんだが…と……とりあえず一番最後の例え的に…無理そう…かな…。
「か…神楽さんじゃ説得出来ないの?」
「無理。…神楽は今、那音を生かすのに力のほとんどを使ってるからね。…女神の格を考えると、女神イブである那音も…もしかしたら話くらいは聞いてもらう事も出来そうだけど…どうだろうね…」
『…難しい…と、いうか…女神イブは人間に虐殺された女神だ…。同じ女神として、逆になんつーか…逆鱗に触れそう?』
「だよね…オンナゴコロ的に、そんな女神が話に入ってきたら…逆にムカつくだろうね…」
「え? え? …ど、どういう意味…?」
『…あー…えーっとさ………将也、こないだ神子殿と付き合うきっかけっつーか将也がなんて言って神子殿と付き合っていたか…優弥と那音にバレたじゃん? …超叱られたじゃん? …そんな感じでお怒りを買うかなって事…。今のところ露姫ちゃんにはバレてないけど、将也…露姫ちゃんにその事バレた時の事を想像してごらんよ…』
「………………殺される…」
『そうそう、そんな感じ』
ヤバい、考えただけで涙出そう…。
恐すぎて…恐い…!
『…因みに、神楽経由でその支水って奴を説得してもらったりとかは出来ないの、橘? あいつも一応上級上位兄なんだろ?』
「………。…難しいと思う…神楽は、支水兄の説得自体了承はしてくれるだろうけど……支水兄って…上から4番目なんだよ…。支水兄は半神化してるから、平等性も考慮するし、ケルベロス族の長代理っていう立場もあるから一族への影響とかも絶対考えると思う。俺たちは『理と秩序を守る番犬』って言われてる。それだけ力を持っている種族だから、他界への干渉はしたがらない。余所のご家庭事情より、世界の治安の方が大事…って考え方なんだよ。無限境界の中の一つの惑星から人類が消えたところでなんとも思わないだろうな…」
『…典型的な王獣種だね…いや、もっとお堅いかも…。それは確かに…無理そうだね…』
「他の上級上位兄も多分無理。…というか…この世界の創世神を説得するなら最低でも神楽より上のにーにーずじゃなきゃ無理だと思う。どうしてもうちのにーにーずに頼むなら、まずは絶対に神楽に話をした方がいい。ダメ元で」
『ダメ元か』
「ダメ元だよ。…俺としては、お薦め出来ない方法なくらい。…むしろ優弥に一時的にエンシャイン・アヴァイメスの核を返してもらって、トリシェが説得試みた方が可能性ある気がするけど?」
『それがさー、なんか誇宮でイクスカリバーンが復活した時、エンシャイン・アヴァイメスの核を飲まれたみたいなんだよねー。その後イクスカリバーンとエンシャイン・アヴァイメスを完全に融合させたおかげで完璧にリンクしちゃってて、使うにはイクスカリバーンにアクセスしなきゃならんらしいのよ。…俺、光属性の神様だし、あの魔剣、キング・アーサーの直系にしか使えないから無理っぽい』
「………」(←その飲まれた&融合しちゃった現場を見ていたため何のフォローも出来ない橘くん)
「……」
…ほ…本当にどん詰まり…。
どうしよう…トリシェの『奇跡』には絶対頼りたくない。
魔王になるのと同じくらい、トリシェの『奇跡』はダメだ!
あの奇跡は…トリシェを傷付けて苦しめてしまう。
トリシェは自分がつらいのも苦しいのも痛いのも、なんて事ないみたいに受け入れてしまうけど…俺がそんなの嫌だ!
嫌だし、ダメだろ!
陸といいトリシェといい…光属性って、自己犠牲精神旺盛すぎて良くないよね…すごく!
あと、なんか間違ってる気もするし。
…神頼みって好きじゃないんだ……神の奇跡は都合良いけど、本当にそれで幸せになれるって言ったら多分違う気がするから。
……他人任せ…か…、…橘の兄貴に頼むのもおかしい事だよね……だって陸を助けたいって気持ちは俺だけのもののはずだもん。
…陸の嫌がる運命…俺が嫌なら陸の運命をぶっ壊す。
そう決めたのは俺だ。
…でも…じゃあ一体………どうしたら…。
「…………………ど…どうしよう……」
「………(ようやく事の難しさに気付いたか)」
『………(将也…頭はいいはずなんだけどなぁ…)』




