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毒デレ!  作者: くらげなきり
28/86

前世のこととか知らねーし!






「回想終了した?」

「…………した…」



自宅(小野口家)に帰ってきて、居間でうつ伏せになってガチ落ち込み中の小野口将也です。

あの告白の後、俺は子供じみた我が儘のような事を言い続け、ちょっと呆れた風な陸と無理やり恋人同士になったわけです。

そんな感じで俺は陸が大好きで、あいつ…八草沙幸を死ぬほど大嫌いなのです。

あいつ死ねばいいよ、勝てたことないけど、いつか殺す。


「…俺は陸のことこんなに好きなのに……なんで陸はああいう事を言うかな……」

「……(あれ? まさか将也、神子の「大好き」スルー?)」

『……(こいつ、神子の「大好き」の部分聞いてなかったのか?)』

「…橘! 陸は俺の事、恋愛対象の好きだったんだよね!? 俺なんで振られたの!?」

「…………。理由はちゃんと、言われてたよね…?」

「あんな奴と結婚するからなんて認められる訳ないじゃん!」

「…それは俺じゃなくて、あの場で神子に言わなきゃ意味ないよ…」



確かに! ごもっともです!



「………」

「……将也って結構…本気でうざいね…知ってたけど…」

『普段自信満々だから挫折すると反動が大きいんだよ…。恋愛慣れもしていないし、両想いも初めてだったしね』

「…ラミレスはかなりド鈍ちんだったけど…」

『ラミレス…ねぇ。橘が契約していた将也の前世だっけ? 王獣種って律儀だよねー、生まれ変わりの世話までするなんて』

「英雄契約だけだよ。守護獣契約や共闘契約じゃここまでしない。ラミレスは歌で世界から戦争を根絶した、英雄契約するに足る功績でしょ?」

『へー! すっごいねそりゃ! 普通の人間だったんでしょ?』

「いや、っていうかなにカッブラーメン作って食ってんのお前!? さっきゆー兄の店で一メートルくらいあるケーキぺろっと平らげてたよね!?」

「だってお腹空いたんだもん」


俺の頭上で交わされる神様と神に連なる獣っぽい会話。

しかし途中からラーメン臭と共にズズズッという麺をすする音が聞こえてきて、思わず頭を上げた。

橘の野郎うちに買い置きされていたカッブラーメン、勝手に作って食ってるし!?

おかしいだろ、こいつの胃袋…!

ケーキ他あらゆるつまみ、料理を食いまくっておきながらまだ空腹だと!?


「喰穿星呪…だっけ? けど食いすぎだろ!」

『しょくはくせいじゅ…? …星を喰う巨大な災厄を撃破した英雄がかかる呪い…だったよね……え? 橘って前世は英雄なの!?』

「らしいね。…星喰いから世界を救った功績で魂の格が跳ね上がって、ケルベロスに転生した珍しいタイプって教わったよ」

『うっわー、全然っぽくねぇぇー!』

「…ぬいぐるみには言われたくないかな…」

「………」




珍しく橘と意見が合いました。










「はぁ…」


しかしこいつ等のフワフワ会話とかどうでもいい。

理音に振られた時も雪乃に振られた時も、正直ここまでへこまなかった。

俺の初めて、死にたいくらい好きになった子…。

運命だから、変えられない未来だから…。

いつか光の王のものになるから――、来年八草沙幸と入籍するから――…。


「………入籍……」

「?」

『?』


いつか俺のモノになる、って八草は言った。

陸はいつか光の王のモノになるって言った…。

まさか…まさか…?

いや、入籍…ってつまり結婚だよね…?

え、いや、だって…つまりそれって…?


「陸とあの野郎が結婚とかやっぱ許せるわけねぇぇぇ!!」

『うわぁ、びっくりしたっ』

「それってだってつまりやっぱりあの野郎が光の王って事じゃんかっ! ふざけんなよ八草の野郎ー! なんで!? だって絶対俺の方が陸の事大好きだし、陸の事超大事に思ってるし!!」

「なんの話?」

『さあ?』

「俺の方が陸にお似合いだもん!」

「…うざいね」

『うざいねぇ』

「…りくぅぅぅぅ…っ」

「………」

『………(最近魔王化と同じくらい空化してるな…将也)』


やっぱり許せない。

陸があいつと結婚するなんて、考えるのもヤダ。

絶対渡したくない…!

絶対に、絶対にあんな奴になんか…!

だってあいつが陸にした事を考えたら、そんなの絶対ありえないじゃないか…!



「………っ」



絶対に、あんな奴には渡したくない!

俺は陸がいい、陸しか考えられない。

例え陸が俺の事を嫌いって言ったって、陸が八草の事を好きって言わない限り……いや、言ったとしても……俺は絶対陸がいい!


『魔王化してんじゃねー!』

「ふがっ」

「…………」


しまった、殺気に素質が反応したのか!

じ、自分では分からないんだもんなぁ、魔王化って…!

でもトリシェ相変わらず容赦ないっ!

痛いっ! トリシェの強化魔術パンチ、シャレにならないくらい痛い!


「いつも思うけど殴ったり蹴ったりする必死ある訳!?」

『ない! でもその方が将也の気が逸れるみたいだからさー』

「ふっざけんなよ! 結構本気で痛いんだぞ!?」

『俺もその分、魔力を消費してるんだからおあいこだろ』

「どんな理屈だよ!? 納得いかねぇつのっ!」

『じゃあそもそも魔王化するなよ。もっと冷静かつ、紳士的で穏やかな大人になるよう努力しろよ。そりゃグレイスはそういう魔王ではあったけど、お前は落ち着き無さ過ぎだよ』

「…くっ…ト、トリシェが悪いんじゃん! 俺を育てたのトリシェなんだからっ!」

『俺がそんな風に育てた覚えはないって言うと「俺を育てたのはゆー兄だっ!」って言うの将也だろうが』

「…う…」









「…将也って頭はいいハズなのによく言いくるめられるよね」

『…素直な子だから自分の悪いところ、ちゃんと自分で分かっているんだよ。頭いいから屁理屈は一応こねてみるんだけど、良心が勝っちゃうんだよね…根が素直でいい子だから』

「………」


う…本当、トリシェって俺の事ちゃんと分かってんのな…くそぅ…。


「馬鹿親発言ですな」

『うるさいよ』

「うるせぇよ」


カッブラーメン食べ終わりやがった。

速ぇよ、いくらカッブラーメンだからって速すぎだろ。


「………。…で、将也はこの先どうするの? 結婚される前提で振られて実家に出戻りしてきたけど、まだ荷物は峰山神社にあるし、将也に生活能力がないのは改善されてるわけでもないんだろう?」

「…………生々しい現実を…押し付けるなよ……」

「落ち込んでる暇とかないから。現実問題として、神子はもうすぐ創世の女神の器になって消えるんだよ? 将也と別れて、あの八草と結婚した挙げ句に女神の器で消えるって言ってたんだよ? 将也は本当にそれでいいの? …決められた未来、変えられない運命だから、将也もそれを受け入れて終わるの? その程度の気持ちで神子と付き合いたいって喚いて、押し通してきたの?」

「……っ……」




俺は…陸が好きだ。

陸が望まない運命なんか――、ぶっ壊す!



「助けるに決まってんだろ!」

「…じゃ、とりあえずブン殴るね」

「……は…?」


グッと握った拳で、人ではない…神に連なる獣の右ストレートを見事に左頬に食らう。

もしかしたら、人生の中で…一番重くて痛い一撃だったかもしれない。

…なんでか夏休み前の…あの終業式の日に陸が殴った時の事を思い出した。

性別で人間的感情を否定する俺を、咎め、否定し、拒絶し、憤った一撃。

…おかしい、あの日の一撃は大した威力はなかった。

ほんのり痛い…ちょっとだけ赤くなった。この、橘の一撃に比べて全然大した事のないパンチだったのに…なんで……。


「…いっ…つっ…!」

「……。……俺、神楽や他のにーにーずと違って力の加減は上手いから、いい感じに痛いだろ?」

「………っ…?」


こいつ、なんのつもりで…?

意味が分からん! …けど…なんかちょっとスッキリした…ような気がする。

ぐだぐだ落ち込んでいる時間はない…。

創世の神様が復活するのが先か、陸があいつと結婚するのが先か…。

陸は来年八草沙幸と入籍するって言ってた。

今日は12月24日…あと一週間で、今年は終わる…!









「……俺は神楽みたいに…優しく諭すってのは苦手なんだよね…。…だからとりあえず…」

「…?」

「…契約の更新をしろ。俺はラミレスの契約獣だ、生まれ変わりのお前には俺を使う資格がある。輪廻の神子は普通の神子じゃない。その運命から解き放つ為には使えるもんは全部使え。利用出来るあらゆる力を躊躇うな。決められた未来、変えられない運命を覆す力はお前の中に必ずある。…無限境界全ての神と人類が、お前の気持ちを否定したって、俺くらいは将也の味方であり続けてやるから諦める事だけは絶対するな」



手を、差し伸ばされた。

頬は痛い…すっげー腫れてる。

…でも…でも………。



「…………」



ああ、くそ…!

涙が出てきた…痛すぎなんだよ、お前のパンチ…!



「…うん…諦めない……俺は、陸を諦めない…!」


悔しいが橘の言うとおりだと思う。

俺は陸を諦めない為に、一秒でも時間を無駄には出来ないし、あらゆる力を利用しなきゃならないんだろう。

俺は八草沙幸と二回戦って、どっちも負けた。

しかも二回目は、あいつが神気を使っていなかったにも関わらずだ。

俺は一般人より圧倒的に強いけど、神や神に連なる化け物と比べれば普通の人間に毛が生えたようなもんなんだろう…悔しいけど…。


「……、…橘…お前の力を貸してくれ…!」


なら、あいつと対等になるしかない。

その為にはあいつが得た神の力…あるいはそれに連なる力を持つ奴の協力が必要不可欠。

弱っているトリシェには…頼りたくない。

トリシェの力…奇跡はトリシェ自身を深く苛む。

二千年もその奇跡の力で苦しんできたトリシェに、これ以上…その奇跡を使わせたくない。

だから俺は橘の手を掴んだ。

あんまり、こいつの事は好きじゃないけで…それは俺がこいつに対して、くだらない嫉妬をしていたからで…。

でも橘は俺の…多分だけど…多分、最高で最強で最大の味方だ。

ゆー兄に梅松さんが居るように。

那音姉に神楽さんが居るように。

陸に時影さんが居るように。

俺にとっての、一番最後の味方…!

迷わない、俺は陸を助けるって決めたから。








「……我と魂の契約で結ばれし、汝の新たなる名を告げよ」

「? …名前…? …えっと…小野口将也」


急に古めかしい言葉でそう言われた。

手は掴んだまま…名前を言う。


「…我が名を告げ、対価を示せ…」

「え? …た、対価!?」

「…ケーキとかでいいよ。ケーキ奢りますでいいや」

「安いなお前…!」

「いいから。…我が名を告げ、対価を示せ」

「…あ…た、橘、ケーキを対価に差し出します…?」

「……彼の者が我が永久なる英雄と認め、確かめ…そして称える……懐かしき、我が無二の友よ…その盟約を再びここに宣言する。…解し、許可…」

「………」

「…許可って言ったら契約更新完了だから…」

「あ、俺も言うの…? …えっと…許可…」


フワッと光が舞い始める。

煌びやかな光の粒が集まって、俺と橘の重なった手の平に硬いなんかの感触……。

ゆっくり手を離すと…黒い小さな石…。


「…なにこれ」

「契約石…。優弥と神楽も共闘契約の時に作ってると思うよ…。契約者同士、必ず身に着けておくのが一般的かな…」

「えぇ? だってなんか…つるつるだし川の中にあるような適当な形だし…加工でもしなきゃ無理…」

「貸して」


あ、っという間に橘は自分の分を片耳ピアスに仕上げ、俺の分は黒い石の指輪にしやがった。

…なぜ指輪…。

っていうか縮む上、形も自由自在かよ!


「…なんで指輪…」

「お互いで持っておくのは一般的だけど…、契約者以外へ石の譲渡をするのには、ちょっとした意味もある。…ラミレスの奴は指輪の形にしてやったら…自分が死んで欲しくない男に渡しやがった」

「……その心は?」

「…契約石は…ただの証だけど……砕ける事はない石だ……魂との約束の石だからね…。…縁結びみたいな意味で…渡したんだよ…。人間は指と指を輪で繋げ…心で繋がる生き物なんだろ?」

「………」


そう言って、もう一つ同じ形の黒い石の指輪を…俺の手の平へ落とした。

ペアリング…。


「…あの時は一つしか作らなかったから…多分…俺はラミレスを守れなかったのかなって、実はちょっとずっと心残りというやつだったり…」

「………」


前世のこととか、俺は知らねーし…つか、わっかんねーし!

……でも…なんか、ちょっとそれは関係ない気がする。

前世の俺が橘をどう思ってたのかは知らないが、これがすっごい大事な絆の証っていうのは…分かる。


「そんなことねぇよ、絶対。…ありがとう橘」

「………」

『……(やれやれー…)』


丸みのある黒い石の指輪。

俺の分を二つに分けてくれた、その意味を…俺は絶対無駄にはすまいと決めた。








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