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毒デレ!  作者: くらげなきり
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どうしても君を俺のものにしたかったんだ。





黒い靄がビルの隙間から噴射していた。

でも、何故か俺は自分が魔王化しているとは思えなかった。

すごく、心がクリアになっていて、はっきり言って浮かれてた。

そうか、そうだよ、俺はあの子が好きなんだ。

死ぬ時はあの子の為に死にたいって思ってるくらい大好きなんだ。


だから、八草沙幸………



「お前に陸は、渡さない!」


「……本当に、とことんお前と俺は分かり合えないようだな…! 兄弟揃って上手くいかない奴らだ」



靄の噴射、その勢いのまま、八草と一緒に空に飛び上がる。

ペットボトルロケットの要領だと思う。

正直、今は目の前のこの男を叩き伏せたい一心だ。

黎明と奴の長刀が交差する度に金属音が鳴り響く。

空の広い空間なら、黎明を振るうのになんの障害もない。

倒す。絶対、今日、ここで!

人を殺すのは恐い…でもこいつは、殺す覚悟で挑まなきゃ倒せない!

リーチなら俺の方がある、それを生かしながら戦えば―――。


「兄貴と違って、隙が多いな魔王の小僧…!」

「!?」


ほぼ同じ角度で刀と槍が交差した、と思ったら、刀がくるりと外側から内側へと入り込む。

ヤバい、と思った時には刃が俺の心臓へと突き立てられた。

引き抜かれたら……俺は…!



「………!」


「……」



急に、眼前に黒いパーマ頭が見えた。

八草と俺との間に――…たち、ばな…?




「…………」




痛い、悔しい。

そんな思いを最後に…俺の意識は遠退いていった。










「…ま……ゃ………まさや…」




誰かが呼んでる…。

まるで泣いているかのようだ…。

なんで泣いてるの?

…うぅ…気怠い…。


「…まさや…っ」

「………」

「…お願い…まさや…将也……っ」

「…………」

「……ま…」

『起きろ!』

「っだぁっ!?」


急な痛みで飛び上がる。

い、痛い!

今の声、そしてこの乱暴さは…トリシェ!


「なにすんだ、トリシェっ」

「…………」

「…………」

「………あ…え?」


ぽろぽろ…と泣いている陸。

安堵したような橘の溜息顔。

トリシェが腰に手をあてがって怒ってる。


「……俺…どうしてたの…?」


記憶を探ると、胸に突き立てられた刃。

あの野郎の厭らしい笑み。

……あ……俺、また負け…っ!


「ふ…ぇ……よか…良かっ…た…まさや…」

「…り…陸…」

「……まさや…死ななくて…良かった…」

「………、……陸…」



…け…形容し難い…このきゅーんとくる気持ち…!

ときめきか…ときめきだよな!

陸…、俺の…好きな子…!

だ、だ、だ、抱き締めていぃぃぃいかなぁぁぁっ…!?


「…り…」

『なに生き返って早々魔王化してんだこのぉ!』

「いっ………だあああぁぁっ!?」



トリシェの強化魔術アッパーーーー!!



『テメェ、勝算もないくせに突っ走りやがって! そんなに死に急ぎてぇなら今すぐブッ殺してやったっていいんだぞ!? アァ!?』

「いた! 痛いい、痛いごめ…ごめんなさい!!」


「………ト、トリシェさん! 将也はさっきまで心臓が止まってたんですから…っ」

「………(ぬいぐるみにリンチされる魔王…)」




せ、説明しよう…!

ゆー兄の敵キャラを振る舞い続けたトリシェは、悪役スイッチが入るとヤ○ザみたいになるのだ!

ぬいぐるみになった後は主に支配神相手の時にしか出現しない毒性トリシェは…キレたゆー兄より激しい攻撃性とガラの悪さが特徴です、ご覧の様に!



「……酷い…痛い…」

「…ま、将也大丈夫? あ…あの…でもトリシェさんは本当に将也を心配していて…だから…あの…」

「…肉片飛び散ってないんだから大丈夫でしょ。…神子殴らないんなら俺にも一発くらい殴らせてくれない? 俺が来なかった、本当に死んでるところだったって思い知ってもらいたいし…」

「だ、だめだよ! なんか君のってトリシェさんより痛そう!」

「そりゃ、俺は別にそこの神様と違って弱ってないし、手加減とかもしないし…?」

「もっとだめじゃないかっ」


トリシェに散々罵られてなぶられた俺。

結局なぜか怒ってた橘は陸が宥めてくれた。


「お弁当作ってあげるから!」

「じゃあやめとこうかな…」



簡単だよねホント!









「…っていうかなんで橘が居るの?」


よくよく場所を確認すると、とあるビルの屋上…そういや、空飛んじゃった気がする。

うっかり橘の背中も、見覚えがあるような……。


「…メール、寄越したじゃん…。書くのめんどいから電話したらなんでか神子が出るし、神子泣いてるし…ハァ…」

「……………」


あ…さっき木吏ってケルベロスの事を聞いた、あのメールか…。

でも携帯…、ズボンのポッケに入れ……あれ?


「俺の携帯…」

「あ…将也の…これ、沙幸とビルの隙間に行っちゃった時、落としていったんだよ…」


そう言って陸が俺の携帯を差し出してくれた。

しかしその姿は…無残なものだった。


「ヒビがっ! 液晶にヒビがっ! 春に買ったばっかりなのにっ! ぎゃああ、電源入らねぇぇぇ…!」

「……」(※因みに神子様はガラケー)

「……。…ショップ行く?」

「つれてってくださひっ…!」

「…必死だな…」

『…仕事でも使うからね』




という事で、橘の転移魔術で携帯のショップに連れて行って貰った。

幸い、保険が効いて同じ機種で新しいのと交換してもらえたけど…。

修理に四万って高くない!?

新機種買えるっての…!

とりあえずゆー兄と葛西さんと陸の番号だけあればいっかなっとは…思うけど…。


「……なんか胃の辺り重いな…」

「胃じゃなくて心臓だよ。綺麗に貫かれてたんだから。トリシェが憑依しなかったら、あのまま死んでたっつの」

「…トリシェが憑依したの…? 俺に?」


あ…でも心臓貫かれてた…イコール即死してた訳だから、トリシェじゃないと俺は今綺麗にお亡くなりだったわけだよね。


「…あ…ありがとう、トリシェ…」

『…ふん』

「………」


なんかまだ怒ってらっしゃるー…。


「…将也…大丈夫? タクシーで帰ろうか…?」

「…あ…えっと………っ」


俺を支えてくれる陸。

近い! 可愛い…! 優しい! 天使っ!


「…送ってあげるよ、だから早く休め」

「え…」

「へ?」


橘の手が俺と陸の肩を掴む。

はっ、と気が付くと峰山神社の階段前…。

こいつ、橘の野郎…ホイホイ転移魔術使いやがって…びっくりするっつの!


「あれ、階段…」

「こっから上は神域だもん。俺等みたいな異界の王獣種は入れないよ。…王獣種っていうのは神に連なる獣…他の神の領域に入ったら神域侵しになる…」

「えぇ〜…じゃあ怪我人に登れっていうのかよ…?」

「…どうしても駄目なの…?」

「駄目っていうか、無理」


肝心な時に役に立たないな!

とはいえ…助けて貰ったのは事実だし……お礼くらいは言っておかなきゃかな。


「…橘、ここまで送ってくれてありがとう。…将也の事を助けてくれて、ありがとう。…本当に…将也が死ななくて…良かった…橘、ありがとう…」









「…………」

「…………」


陸…なんて優しい…!

………ん?


「……。…いいよ、別に。将也はラミレスの生まれ変わりだからね…」

「………」


一瞬ジトリと睨まれた。

けど、すぐに陸に対して見たことない柔らかい笑みで対応しやがった。

な、な、な、なんだこれ…!?

橘の奴がこんな笑み浮かべてたとこなんか見たことないんだけど…!?



「…あ…ありがとうね! 本当に!」



じゃ、と背を向けて立ち去っていく橘へ陸が叫ぶ。

手を振ってそれに応え、シュン…と消える。

転移魔術…あいつ本当にホイホイ使うよね…。


「!」

「…じゃ…帰ろう…頑張ろう?」

「……ん…うん…」


腕を掴まれたと思ったら、陸が肩へ俺の腕を回す。

回したところで身長も体格も差がでかいから、とても身体を預けられたもんじゃないんだけど…。

俺の為に心配で泣いてくれたり、安心で泣いてくれたり…俺の代わりにお礼言ってくれたり…俺の事を支えてくれたり。

一歩一歩が酷く重たい。

トリシェのおかげで生き返ったとしても、完全に回復しきっているわけじゃないから…今日はゆっくり寝て、また明日トリシェに治癒で調節してもらわなきゃならなくて…。

けど、今はそれ…どうでもいいよね。

俺は陸が好きだ。

すっげー、好き。


…でも…君は………、いつか、光の王のものになる。

…そんなの、嫌だ。

嫌だ…だって俺、陸が好きなんだもん…。



――…だがアレは必ず俺のモノになる。それはもう決まっている真実だ…――




嫌だ…冗談じゃない…!

あんな奴にも、陸を渡したくない…!!



「…陸…」

「? どうかした…? どっか痛い…?」

「…俺、君が好き」

「………」




どんな手を使っても、俺は陸が欲しい。

俺はどうしても、陸を俺のものにしたい。








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