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毒デレ!  作者: くらげなきり
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自分では自分の気持ちが分からない事もあります。





「…将也殿、神子様が買い物へ行かれたいそうなのだが、時間があるならば荷物持ちに同行して頂けぬか? 某は庭の掃除が終わっておらぬ」

「え…あー、うん?」



空さんが陸の父親って事が、陸にもバレた。

陸はだいぶ混乱していたが、割とすぐに受け入れて…しかし「こんな変態が…」と、ずっと呟いて落ち込んでいた。

そんな事があった日曜日の夕方、俺は雑誌の表紙の撮影しか仕事も入ってなかったので、荷の整理をしていた。

そこへ現れた時影さんの“お願い”

…なんか珍しいというか…意外というか…?

だって神子様命! 神子様から一秒だって離れたくない! 神子様は自分が守る! …って感じな人が、掃除を理由に陸を俺に預けるなんてさ。

そりゃ俺も王苑寺先輩からバイオキメラを貰っているから、実力に自信はありますよ?

でも…時影さんが陸を他人に預ける違和感…!


「でもいいの? 俺なんかで…」

「将也殿にはトリシェ殿がいらっしゃる。神域の外でなら例え相手が神だとても、神子様を守りきって下さるだろう?」

「…あ…そういう……」


俺っつーかトリシェを見込んでって意味かよ……。

まぁ、神格化モードのトリシェは最強だもんね! そりゃ当然ですよね!

結界とかに閉じ込められても、トリシェが居ればなんとかなるし?

兵器じゃ殺す事の出来ない神様の類でも、トリシェの神気があればなんとかなるもんね!

唯一の弱点である魔力不足も、同じ光属性の陸が一緒に居れば…陸から魔力供給を受けられるしね!


「うん、分かった」

『………時影ってさ、本当にイイ奴だねぇ…いつも気を使わせて悪いね…』

「え…? あ…い、いえ…」

「?」


陸より掃除を優先させた時影さんをしみじみ褒めるトリシェ…………どゆ事?









「っていうかまさかの制服ですか…」

「うん、学校に行くから。王苑寺先輩にご飯作ってあげるんだ」


登校用の革靴を履いて、つま先をトントンしている陸は学校の制服姿。

買い物というから、俺は普通に私服にコートです。

学校指定の紺のコートを着用した陸の告げた行き先に、時影さんが俺を指定したもう一つの理由がよーく理解出来ました。

学校は関係者以外立ち入り禁止。

基本、時影さんは学校には入れない。

成る程、俺が適任な訳ね…。


「着替えてくんのめんどいからこのままでいい?」

「いいよ」


会長のお許しが出たので、学校へお出掛けします。

買い物って聞いたのになぁ、と呟くと…陸は「買い物してから行くに決まってるじゃないか」と…あっさり。

…そう…材料を買って行き、先輩んち(学校内)で作ってあげるらしい。

お手伝いさんかっ!


「陸さ、王苑寺先輩からちゃんと食費とか払って貰ってるの?」

「うん、ちゃんと貰ってるよ。毎月すごい金額振り込まれてて…困ってる…。だから掃除とか洗濯もしてる。…でなきゃあんなに受け取れないし…」

「…あの人の金銭感覚も…絶対おかしそうだもんなぁ…」


ゆー兄の誕生日に『南の島いらない?』と可愛く聞いた…俺の頭の上にいるどっかの神様みたいに!(…ちなみにゆー兄は本気で困り果てて断ってた)


「………」


しかし、隣を歩く陸を見てると甘やかしたくなる王苑寺先輩の気持ちはよーく分かる!

だって陸って、本当に可愛いもん。

小さいし(俺がデカいと言われるが)

上品な感じだし(トリシェには王族のくせに品位が足りないと言われるが)

優しいし…しっかりしてるし…控えめだし…清楚な感じだし…笑うとヤバいし。

世界で一番綺麗な神子、か。

俺はそういうの、どうでもいいな…。

未来が見えるとか…逆に大変そうだなって思うくらいだ。


………本当……陸って…いいよなぁ……。








「将也…目がなんか遠いけど、どうしたの?」

「うわぁっ、…なんでもないです!?」

「本当? 具合が良くないならちゃんと言ってね? 俺で治せるなら、治すから」

「うん、うんっ…」

『…………』


ヤ、ヤバい…確かに今、ちょっと意識が変な方に飛んでたかも…。

…変な方…?

今の変な方…なのか?

陸が優しくて可愛いって思うのはおかしいのか?

だってこの子は友達だろ、俺の…。

ただ、大事な友達の中では泰久や直とはまた違った…特別枠にカテゴリ分けしてあるけど…。

そ、そもそもその特別枠だって、それは泰久や直と違って俺の『魔王の素質』の事を知っていて、ちゃんと理解してくれてるって意味であって!


『そういえば…将也、夏場に不可解な熱出したもんね』

「えっ」

「いやいや、あれは…! もう治ってるしっ」


トリシェめ、余計な事を!

…確かに、トリシェにも治せない不可解な熱ではあったけど!


「………、…本当に無理しないでね…?」

「………っ…、…う…うん………」



…何だろう…この気持ち…。

…何だろう…この感じ…?

…こんな気持ち初めてだ…。

この、形容し難い…こんな気持ち…。









なんでか東区にあるケーキ屋へ寄る事になりました。



「王苑寺先輩、ここのケーキ屋さんの大ファンなんだよ」

「へぇー……」


俺は甘いものは嫌いだが、王苑寺先輩は引くほど甘いものが大好きだ。

朝昼晩、ホールケーキと聞いた時の俺の気持ちを誰か分かって欲しい。

…片森洋菓子店…確かに東区では一番美味しいと有名なケーキ屋さんだ…。


「いらっしゃ…陸じゃん!」


入店するなり、薄水色の髪の爽やか系が陸へ声をかけてきた。

見た感じ、コックなんだけど?


「って、また連れの男が変わってる!? こないだの武士みたいな奴どうしたんだよ!?」

「お庭のお掃除が終わってないからって…。今日の人は竜哉先輩の弟さんですよ。同じ生徒会の役員です」

「そうなんだ……そういや、どっかで見た事ある顔だよなぁー?」


……竜兄の知り合いでもあるのか…?

…でもどっかで見た事ある顔って……そりゃ俺と同じ顔はこの世にあと三つもありますからー?

あるいはテレビとかね…。


「…王苑寺の予約ケーキな? たまには自分で買いに来いって言っとけ!」

「そ…そんな恐ろしい事言えませんよ…」

「…おい、竜哉先輩の弟…!」

「え、あ…はい?」


歳、俺とそんな変わらなそうだけどいきなり喧嘩腰!?

初対面なのにっ!?


「陸に妙な事したらケーキ投げ付け生クリーム塗れの刑にするから覚悟しろよ…!」

「ヒッ!? は、はい!」

「……ま…また勿体無い事を…」


なにそれ超怖い!

この人ゆー兄より怖いかもしれない!

…………………(ケーキ投げ付け生クリーム塗れの刑想像中)……うああぁぁ、ちょ……超怖いいぃぃぃぃー!!!!!!


…自分の想像にげっそりしながら、お店を出た。

…怖い…ケーキ投げ付け生クリーム塗れの刑……この世にそんな恐ろしい刑があるなんて考えた事もなかったよ…!


「将也、顔色悪いけど本当に大丈夫?」

「…うん…ケーキ投げ付け生クリーム塗れの刑を想像したら……あまりにも怖ろしくて…」

「……………………」

『…甘いのが苦手な将也にはクリティカルだったみたいだねぇ』









そんなこんなで、最初のお使いの後は普通に食料品を買って学校へ。

南校舎、一階から三階がくり貫かれ、人工的に作られた五メートル程の人型の手がぶら下がっている。

手首から下の…その巨大な手は爪と骨と筋肉は付いているが皮膚はなく…だいぶ気持ち悪い。


『いつ見ても悪趣味なインテリアだよね』

「あれインテリアなのか? 前、Aヴァの手って聞いたよ?」

『……あいつ機械科学者じゃなかったの…? Aヴァって人造人間のアニメだろ…?』


王苑寺先輩は毎年文化祭に等身大のGUダムを作る事で有名だ。

…GUダム…確かに男なら大好きなジャンルだよね…。

あの人なら本当に現実に作りそうだから怖い。

呼び鈴を鳴らすと、扉が開く。

そこからエレベーターで三階の居住区に付くわけだ。

…しかし…内装は先輩が頻繁に作り替えるので毎回違ってる。

俺が来る頻度ですら、毎回違うのだ…。

近未来的な繋ぎ目が見当たらない壁、上下に開く自動ドア…。

…いや、ここは未来だ。



「よう」


「椅子が、浮いてるー!?」



開いた扉に導かれ、辿り着いた部屋に居た王苑寺先輩の座っている椅子は浮いた球体をくり貫いたような形。

この人、本当生まれる時代を間違えてるよ!


「浮いてるわけじゃねぇよ。ただの磁石の原理の応用だ」

「……」



いや、十分すごいよ。

俺ですら原理しか分からない。


「今日は何を食べたいですか?」

「パスタ」

「また幅広いですね…ミートソースでいいですか?」

「んー…ナポリタン?」

「わかりました。それじゃ…え…?」


台所に陸が入ると、冷蔵庫の前に黒髪眼鏡の女子中学生が座り込んでケーキ食って…本読んでる。

あれ…額に…眼…?

この子、まさか…?


「………」

「………」

「………気にするな」


冷蔵庫開けっ放しだし。

口周り生クリームだらけなんですが。

王苑寺先輩、気にするなって…いや…だって、この子…。








「…ケ…ケルベロス…だよね? 王苑寺先輩…? この子…」

「………」

「んぅ?」


深々と、王苑寺先輩が溜め息を吐く。

俺たちに気付いたその子はこっちを見上げて指をペロペロ舐める。

黒い髪、額に三番目の眼…甘いもの爆食い…。

どう見ても決定的な第三の眼で疑う隙もないのだが…しかし分からない。

幻獣ケルベロスは、神楽さんの関係者の元にしか今のところ現れてないし、現れたケルベロスは総じて神楽さんに関係している。

異界の王獣…幻獣ケルベロス族…。

ケルベロスと言えば三つの頭を持つ、俺たちの世界では『地獄の門の番犬』と呼ばれる魔獣だが、彼らは『理と秩序を守る番犬』

特徴は黒く、三本の尾と三つの眼を持つ巨獣…そして人の姿を模せる事。

神楽さんや橘の兄弟なのは間違いない。

あの第三の眼こそ、彼らが人の姿を模した時の一番の特徴。

神楽さんや橘の様に意図的に消していたら、絶対に分からないけど…。


「……あ! ケーキの匂いだぁ〜〜!」

「うぁっ」

「ザクロ、食べていい〜っ? い〜よねぇ〜? いただきまぁ〜すっ」

「ちょぉっ」


俺の手元にあったケーキが奪われる。

ビリビリと箱を破って…素手で食べ始まる。

えぇと…王苑寺先輩…説明プリーズ!


「木吏! テメェ、人の楽しみにしてたケーキを勝手に食い始めんじゃねぇぇぇ!!」

「あまーい! おいしーい!」

「もーくーりぃぃぃぃぃ!!!!」


「………」

『………』

「……俺、王苑寺先輩のご飯作り始めるから、終わったら教えてね」

「……あ、うん……」



陸、さすが!

完全スルー! 素敵ですっ!








結局、王苑寺先輩の所に居たケルベロスは名前を木吏というらしい。

突然現れて、居着かれた…という王苑寺先輩は頭を抱えていたが、彼(幻獣ケルベロスは戦闘種族で、基本男性体しかいないんだって)は確かに、俺やトリシェがなにを聞いても本から顔を上げる事はなかった。

だから残念ながらそれ以上の事は分からない。

神楽さんや橘はこの世界に修行で訪れているし、刹那さんや神無さん、皇や千里なんかの他のケルベロスは神楽さんに用があって、滞在しているだけだ。

目的不明のケルベロス…木吏さん。

見た目が幼い場合、本気で若いか逆に上位兄だったりすると言う。

…見た目の幼い上位兄はヤバい……あの橘が、顔色を真っ青にしつつ言っていた。

なにがヤバいのか聞くと「将也だって優弥に逆らえないでしょ?」…と、とても恐ろしい事を言っていた………成る程だよね。

中でもヤバいのは上級上位兄…18番目以上のケルベロス…。

橘曰く、13番目の神楽さんは「変人」として有名だが間違いなく上級上位兄として、その気になればこの世界の人類など30分で滅ぼせるくらい強いらしい。

だが、見た目ミニチュア系は…10分…あれば十分だろう…らしい。

…もし、木吏さんが上級上位兄ミニチュア系だった場合…割と洒落にならないくらいヤバいんじゃ…。

怖いので一応橘にメールをしてみた…返事はまだこない。

え、連絡先? …一応あると楽なので交換しましたよ…学校は違うけど同じ生徒会役員だからね。


「……」

「…陸、さっきから暗いけど、どうかしたの?」


携帯を一回しまう。

王苑寺先輩の家を出てから、ずっと静かだ。

自宅用の買い物中もあんまり喋らない。

…俺は…陸ともっと話をしたかった。

陸に楽しそうにしていて欲しかった。

気分でも悪いのかな?

どこか、具合でも悪い?


「…気持ち悪いの? どこかで休もうか?」

「………、…将也…あの………、…先に帰って…って言ったら…帰ってくれる…?」

「………。…いや、帰らないかな」


さすがに護衛って意味合いもアリのお出掛けだから、一人にするなんて出来ない。

第一、そんな様子のおかしい陸を置いて一人で帰るなんて絶対に無理だ。

せめて理由をきちんと説明して欲しい。

日も傾いてきたし…相応の理由がなけりゃ聞けない相談だよね。








「…どうして?」

「………あの……」

「うん」

「……この後、沙幸が…」


「神子とデートとはいい御身分だな、魔王の小僧」


「……………」



真っ白いベンツが停車したと思ったら、悠々と銀髪眼鏡が降りてきた。

ああ、陸が気分低下する訳ですね…。



「……八草…沙幸……」


まだ夜時間じゃないし…一応往来ですから、いきなりバイオキメラを召喚はヤバいかなぁと思わないでもないけれど!

こいつは、泰久の目の前で月科先輩を殺した。

陸の目の前で陸のお祖父さんを殺した。

俺の目の前で陸を凌辱し、呪詛をかけた。

…そんな奴を前に、武器を構えないなんて…無理じゃないか?



「バイオキメラ、黎明…!!」


左手首に巻いた腕輪を回す。

チッと小さな痛み。

その痛みは腕輪から出た細長い針が俺の皮膚に突き刺さった痛み。

血が、腕輪の装飾に入った赤い液体と混ざると赤い蒸気が噴射される。

赤い蒸気はすぐさま固体化し、槍の姿へと変化した。

これこそが、俺のバイオキメラの形…!

動物型は青い鷲…武器型は槍…俺のバイオキメラ、黎明の姿!

生物兵器バイオキメラ…王苑寺柘榴製の最新型集中破壊兵器だ。



「…血気盛んな…事だな。この後、用があるから神子に少し、構ってもらうくらいにするつもりだったんだが…なぁ?」



余裕とばかりの笑みを浮かべて、八草沙幸は右手を翳す。

白い長刀がその手の平へ――握られる!








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