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毒デレ!  作者: くらげなきり
24/86

峰山家の家庭事情は複雑な様です。





「…………………」


「…………………」



そっと、陸は湯船に戻る。

俺はとりあえず目を逸らして脱衣場へ戻り、腰にタオルを巻きました。

…いや、はい…何もかも遅いのは分かっていますとも。


「………お、おはよう…将也…」

「おおお…おはようございま、す…」

「…悪いんだけど、バスタオル取ってくれないかな」

「は、はい! ただ今!」


何故か敬語対応で、でかめのバスタオルをサッと持ってサッと脱衣場と浴室を繋ぐ扉をちょっと開けて…、出来るだけ曇りガラスの肌色を見ないように努めつつ…バスタオルを手渡す。

……割とすぐに陸は脱衣場に現れる。

やっぱり胴をまるっと隠してる。

……そして、顔は完全に気まずさと怒りで歪んでいる。

俺は思わず、その場に正座した。


「あ…あの…陸…ご、ごめんなさい…!」

「…………。…いや…タイミングが悪かっただけだから…仕方ないよ。こういう事もあるよ…うん…」



ほ…ほぼ、自分自身への言い聞かせ…!



「………。…り…陸って…女の子……だったんだ…?」

「…一応…」


こういう場合どうすべきか分からない…。

ただ、これだけは言わずにはいられなかった!

今し方、見てしまった陸の裸は…俺とは違う。

男の子に必ず付いてるアレがなく、女の子なら膨らんでる場所がささやかではあるが…膨らんでいたのだ!


「……えっと…なんで…?」

「………。教えてもいいけど、君はまずお風呂に入ってきなよ。学校遅刻するよ」

「あ…は、はいっ」


………なんていつも通り…。

俺だけがあたふたしてるみたいだ。

しかし、ごもっともなので陸に言われた通りお風呂を先に頂いた。

上がってから制服に着替えて居間へ行くと、やっぱりいつも通りの陸が制服の上に黄色いエプロンを着けて、朝ご飯を作っていた。

…あれ…さっきの俺の見間違い…だったのかな…?


『どうしたの、将也? 首なんか傾げて』

「…え? …えーと…?」

『何? …まるで分かんない事が分かんないみたいな反応…』

「……その…通りかも…?」

『はあ?』


そうこうしている間に朝ご飯が並べられていく。

茶碗に盛られた白米、納豆、卵焼き、お味噌汁、焼き魚、たくあん…純和風…!


「はい、お弁当。今日は唐揚げと肉コロッケだよ」

「あ、ありがとうございます…」

『なぜに敬語?』


謹んで本日のお弁当を貰い受けて、鞄に詰める。

時影さんも俺を不思議そうに見て、陸へ視線を移す…を繰り返している。

いや、だって……!








「……うち、旧家なんだけどね」

「え? あ、うん?」


唐突に切り出された!

一瞬なんの話かと思ったけど、陸が男の子の振りしている理由…だよね?

旧家…確かにこれだけ広い土地の地主だと納得だ…けど……。


「…ただ分家なんだ。本家は京都の山奥にある。空兄は、本家の跡取り。…本家は…、龍神・麒麟族の長、琥麒と…創世の神様を封印して、一緒にその封印を守りながら世界が衰退しないように、創世の神様から神力を摂取する土地の守人…みたいな役割の約束をした一族の末裔…でね…」

「………」

「…世界中に、その一族の直系は居るんだけど…本家は日本を担当っていう感じでさ…」

「…は…はぁ…?」


な、なんか凄い出だしなんだけど。

…いや…異世界の魔王の末裔である俺が、物申すのもおかしいか…。

俺の方がよっぽどファンタスティックだ。


「……でも最近…いや、近年かな…琥麒の力が弱ってて…。世界中の総家が集まって、対策を話し合った結果…琥麒の封印の弱体化を利用して、もっと多く、創世の神様から神力を摂取しようって事に決まったんだって」

『…え…!? いや、ちょっと待って…! …琥麒の力が弱体化した理由は人間がこの世界の創世神から、神力を奪う量を増やしたせいだろう…!? まさかその理由も分からないままに、そんな事を決めたとか言わないよね…!?』

「もっとタチが悪いですよ。琥麒が輪廻の輪へ戻っている最中に生きている人間の一族達で決めていたんです。…俺は…いや、私は女児として生まれてきましたが、本家の意向で男児として育てられました。…なんだか、私の出自は本家、嵐山家にとって隠したいものだったそうです。日本の神誓の末裔は、大きく分けて四家ありますが、嵐山家はその中で一番大きく古い家…他の御三家に知られてはまずい存在だったらしいです」

『………。…え!? 神子殿、女の子だったの!?』

「………」


トリシェは今やっと、陸が言いたかった事を飲み込んだらしい。

そして俺は…ちょっと話が途方もないところから始まった割に、肝心なとこが「本人にもよく分からない」というオチでがっくりした。

…いや…もしかしたら、他人には話せない…のかも?

家が古いと言うのは、俺のよく分からないレベルで色々大変そうだし?








『…あ、…そういう…! …そっかぁ…それは…、…大変だっただろうに~…』

「え…!? トリシェ何がそっか!?」

『…古い家って色々あるんだよー…。…直系なら尚更だよね。しかも神子殿の様な、異質な程に高い霊力の持ち主なら無理はない…。…そっかぁ…』

「??? …わ、分かんないよ、トリシェ! 説明してよっ」

『…まぁ、色々と危険だし…大変なんだよ…。神子殿は本当に高い霊力を持っているからね…自分の家の中だけで利用したかったって事だろう』

「…? 霊力が高いとなんかマズいの?」

『うーん、本当に色々とあるけど…考えられる一番の理由としては…男子って事にさせとけば余所の家に取られる事がなく、かつ容易にその高い霊力を様々な方面に利用が出来るから…かな? 女児では余所の御家に嫁として欲しがられたり、政治的な利用価値まで出てきて面倒だからね。男子なら婿養子の話が出ても断りやすいし、取引材料として使い易いんだろう』

「………」


うわ、えげつねぇ…!

あ…でも、まさかそれで陸は峰山神社の跡取りって事…!?


「…きゅ…旧家ってマジにそんな馬鹿な事、本当に…やらせるんだ…?」

「…まぁね…俺自身、最近まで全く疑問に思ってなかったから」

「嘘でしょ!?」

「いや、本気で。…俺、小学校行ってないんだよ。…義務教育は中学校からで、そこでも男子として生活してたし…。いまいち男女の差とか分かってないんだよね、俺」

「ぅ、嘘でしょー!?」


もしかして、だからさっき俺のは…裸…見ても一瞬キョトンとしてたのか?

恥ずかしがってたのは俺の方って事…?

えええええ…!?


「……あ…」


…けど……もしかして…、だから「性別だけで人間的感情を判断し否定するなんて…」…って怒られたのか、俺。

女の子だけど、ほぼ男の子として生きてきた陸的には…男とか女とかにこだわる俺が…成る程、器が小さいって言われても確かに言い返せないものがあるかも…。


「……あれ…でも陸の好きな人は男無理、だったんだよね? じゃあ女の子な陸はOKじゃん?」

「…もう一回…同じ事を言った方がいい?」

「………、…いえ…すみません…」

『………(アホ…)』

「………(将也殿…)」



り…陸の眼が本気キレしていた…!








「よー、いらっしゃーいやねん」

「あ、ど、どうも…」


その週の土曜日、早朝。

嵐山空さんが峰山神社へ帰宅?してきた。

一見俺と同年代風だが、陸曰わく年齢不明で会社を持ってるらしい。

しかし例の本家の跡取りらしく、神官(神主)の資格も持ってるので、神社の運営とかにも協力的なんだって。

京都の山奥が長いから、妙に訛った京都弁風が特徴の変態…という紹介を受けた。


「…しっかし…陸は野郎を下宿させる事になんでこう抵抗がないんやろなぁ…」

「………」


しみじみ…腕を組みながら本気でがっくりしつつ言われてしまう。

そうか、この人は本家の人だから陸が女の子なのを知っているのか…。

陸の事を心配して京都へ帰らずに残ってくれてるって言ってたし、きっと陸の味方なんだろうな。


「ま、しゃーないな…。神子として神様を社へお迎えするんは悪い事やないし。神子の神気で満たされただけの、偽りの神域ではありますが、トリシェ様にはごゆるりとおくつろぎ頂きたく存じます」

『うん、ありがとー! そうさせてもらうよー!』

「…………」


神官らしくトリシェには礼儀正しいのね…俺はあんまり、歓迎はされてない感…。


『それに偽りの神域だなんて、そんな事は全然ないよー。神子の光属性のおかげで土地の霊気が光に染まっているんだろうねー! いやぁ、身体が軽い! この満ちた感じ、サイコー!』

「テンション高いなぁ…」


未だかつて、こんなにハイテンション続きのトリシェがあっただろうか……いや、ない。

…いや、やっぱりあったかも…ゆー兄と那音姉が結婚した日とか。

しかし飛び回ってるトリシェウゼェな…蝿か。


「………。あんま苦労させるんとあかへんで? 坊主には分からんやろうが、あれだけの神格の神はほんまそうそう居らへん」

「はぁ…。…いや、俺だって一応は父親として大切には感じてますよ?」


兄貴としては嫌いだけど。


「…ほならえぇけどな。…しかし不憫やわぁ…、あないな神格の神があないなぬいぐるみを器にしてはるとは…」

「…そっすねー…」


確かに那音姉が「バイト中、結構ヒマだったからトリシェの身体作ってみたよー!」って、あのぬいぐるみ持ってきた時はゆー兄・トリシェ共々硬直したよね!

そりゃドン引きしたさ!

けど最終的にちまいぬいぐるみがチョロチョロする姿に、ゆー兄は萌て那音姉とトリシェがそんなゆー兄にドン引きしていたよ!

…ゆー兄は陸と同じで…小さくて可愛いものが大好きなんです。

表には出さないけど!









「…まぁ、陸が坊主の面倒も見たい言うんなら俺は何も言わへんわ。…せやけど、ここに住むんは、そこそこ実力あらへんと辛いで?」

「? 俺強いから大丈夫ですけど…なんでですか?」

「…陸は特別な神子やさかい、よう狙われて、よう襲われるんよ。この間も“神殺し”に呪詛なんぞ貰ってきおって…解くん大変やったわ」

「…!!」


神殺し…アイツ…、八草沙幸の事かっ…!

陸が特別な神子だから狙われる――それは夏休み前からトリシェも言っていた。

俺はあまり本気にはしていなかったけど、あの日、あの野郎が陸を半殺しにして思い知った。


『神子殿の呪詛、解呪したんだ?』

「伊達に神官やっとりまへん!」

「じゃあ、もう陸は呪詛に苦しめられたりしてないんですね…!」

「ああ。…重ね掛けされとったから、苦労したけどな」

「…あの野郎…!」

「……?」


陸を酷い目にばっかり遭わせやがって…!

絶対に許せねぇ…!

次、俺の目の前で陸に酷い事したら今度こそ殺してやる…!



『魔王化してるよー!』

「いだっ!?」



説明しよう!

俺は本能的な欲望や憎悪、破壊衝動などが刺激されると『魔王の素質』が反応してフワッと魔王化したりするのだ!

魔王化すると、目の色が(普段は葡萄色なんだけど)赤く変わる!(※第一段階)

次に黒い靄(闇属性の魔力なんだってー)が身体から出る!(※第二段階)

俺はよく分からないけど、うっかり俺が魔王覚醒した場合…神楽さんの見立てだと「世界が滅びるな(にこ)」という事なので、俺は間違っても魔王覚醒する訳にはいかないのだ!


…という事情により、フワッと第一段階の魔王化をした俺にトリシェの教化魔術使用の蹴りが炸裂。

本当に容赦ないよね、このくそぐるみ!



「…神域の中で魔王化するとぁ、末恐ろしいですな…」

『…俺が憑依出来れば…素質の弱体化も可能なんだけど……神器のない弱った今の俺では抑え込むのが精一杯……この爆弾小僧には困ってるんだよね…』

「…憑依は出来まへんのか?」

『やりたいのは山々なんだけど、俺のような憑依型の神は憑依対象が生き物の場合、その意識を奪ってしまう。俺は光属性だから、人格破壊にまでは至らないけど…それでも将也の素質を考えると素質の消失には最低でも五年から十年はかかるだろうからね…』

「成る程…青春真っ直中の未来ある青年期をぶっ潰すんは、徳の高い大神様には心苦しいっちゅー事ですか…」

「っていうか、素質消すのってそんな時間がかかるもんなの!?」


五年から十年って…ほんとまさに俺の青春全部潰れちゃうじゃん!?

俺が一番ピチピチ格好いい時期が潰れるなんて、そんなご無体な!









『…だからやらないって。そもそもお前の素質が、それだけ肥大になっていたって事! …今の俺は…その素質をこれ以上太らせないようにする事しか出来ない』

「つまりダイエット不可能って事…?」

『…例えば、那音が完全なる女神イブとしての力を使えれば…俺の『奇跡』と女神イブの『光』で百五十キロから百キロくらいにはなるかもしれないけど!』

「それでも太いよね!」

『…素質というのは生まれ付きのものだからねぇ…。だいたい、光属性というのは治癒や回復、封印や加護、守護系の…所謂“守り”に特化した属性だもの。…ホイホイ才能を消したりなんか出来ないよー』

「…く…」


さっきアイドルに向かって斜め上から脳天に魔術教化した蹴りをぶち込んできた奴とは思えない発言だな…!


「じゃあ、封印とか出来ない訳? 封印は得意分野なんだろ?」

「あかんで坊主、そりゃ逆に危険や」

「え…?」


トリシェではなく空さんからNG。

逆に危ないって一体どうゆう事…?


『将也の魔王の素質は、いつでも覚醒出来るレベルなんだ。…それを封印したとしても…、…………』

「…なに?」

「…ま、密封されたキムチはぬくい所に置いとくと危ないっちゅー話や」

「………」


乳酸発酵によるガス発生で爆発するってか…?

魔王って乳酸菌とも繋がりがあったというのか、そんなアホな。

…封じ込められると発散が出来なくて逆に膨れ上がって、最終的には封印ごと爆発するって事?


「…坊主も若いんや…、週五くらいで抜き抜きやろ?」

「……………」


肩を叩かれ、そんな親指ぶっ立てつつ、超イイ笑顔でいきなり下の話って…。

抜き抜きって……。

成る程…変態だ!

ドン引きだよ、このエロオヤジ!



「………」



ふと、先日の…お風呂場遭遇事故を思い出してしまう。

小さかった…、かなり。

でも…それが逆に…すごくイケナイ感じで…!


「…っ」

『…性に敏感な若者をからかわないでくれる?』

「えぇやないですかー、子孫を残す本能は大事ですぇ!」

『いや…その本能的な刺激も、魔王の素質に影響があるんだよ!』

「…あ……、……すみません…」



俺、最低だ…。

陸、超ごめんなさい…!








その夜、仕事から帰るともう時間は夜時間。

しかし峰山神社は私有地なので、例え外に居ても…一応は安全なんですが……。


「うぉーん、陸ぅぅ…! …オトーサンは、オトーサンは悲しいねーん! なんであないに男に無防備なんねん! ほんま、なんであないに悪い男しか周りに寄って来ぃへんねーん!」

「そ、空殿…飲み過ぎでは…? 水をお持ち致しますから…」

「もうお前しか居らん時影ぇ! 陸のこと頼むでマジでぇぇ…! 陸ぅぅ…陸ぅぅ!」

「それは勿論で…あああ…」


「だ、大丈夫?」



縁側は酔っ払いで大惨事です。



「将也殿、お帰りになられたか。すまぬが、水を持ってきては頂けないか?」

「OKー、待ってて!」


急いで玄関から居間の奥の台所で水を汲み、縁側で大変な事になってる時影さんに渡す。

時影さんが空さんに水を飲ます。

い、一体なんでこんなに飲んでんの、空さん…?


「どうしたの、この人? なんかあったの?」

「…さ…さあ…? 実は夕飯の後からずっと飲んでおられたのだが…」

「…陸ぅぅ…オトーサンは…オトーサンはぁ…っ」

「……」

「……」


時影さんと、顔を見合わせる。

俺は陸の両親…母親はホストクラブ通いで借金地獄に陥り、行方を眩ましていて…父親は女好きを極めていて世界の美女を探す旅に出てる…と聞いていた。

その為、陸は今は亡きお祖父さんと二人暮らし…って。

普通に考えると「えぇ~?」ってなる話だが、俺の家庭事情が「はあ?」って感じなので普通に納得していました。


「…えぇと…空さん、陸のお父さんなの?」


酔っ払いの戯言かな、と思いつつ、あまりにも連呼するので聞いてみる。

すると、空さんは「そやで」とあっさり認めた。

…しかし酔っ払いだ。


「え、空さん、美女探しの世界一周旅行してきたの?」


冗談半分に聞いてみる。

すると、空さんは「そりゃ、本家の嘘や」とばっさり。

…あれ、なんか……、…なんだろう…?


「…空さんって…陸の実父…って事?」


疑心満々で聞いてみる。

すると、空さんは「そやで。陸は俺の実子やで」と頷く。

時影さんと顔を見合わせる。

時影さんも、顔が引きつっていた。

…いやいや、相手は…酔っ払いだし…?


「…しかし、神子様は空殿を親戚と…」

「…そりゃ、陸の母親は極々普ッッ通ーの一般人やったからや…。誰も教えへんよ、俺は本家の跡取りで婚約者も居るねんけど…真理にベタ惚れやったんねん……」

「………」

「………」


また、時影さんと顔を見合わせた。

す、すげぇ、生々しい。

まさか、いや、でも…俺も時影さんも拭えない疑念と生々しい空さんの言葉に…しかし相手は酔っ払いだし…と混乱し始めた。

もしも陸の本当のお父さんが空さんだとしたら…?








「…では神子様は…本家の直系…ですか?」

「せやねん…けど母親が一般人やから、俺の親父が許さへんかったんねん。…ほんま酷い家なんよ…陸が生まれ付き、どえらい霊力持っとったから、それ利用して国とのパイプ強化しよって…陸の霊力が底尽きよったら、峰山の爺様に放り投げて…陸がほんまに六道の神子に覚醒しよったら本家に連れ戻せと………、俺の娘は道具やないっ!」

「……」


最後の言葉は悲痛だった。

古い家っていうのは…人をこんなにも追い詰めて、苦しめるものなのか…。

陸のお母さんは一般人だから、直系だけど否定されて…ただ利用されたのか…。

空さんは本当に…本当に陸のお父さんだったんだ…?

……、なんだろうこの状況……空さん、また泣き出したんですけど…。

泣き上戸…?


「しかもなんや、神殺しだの魔王の坊主だの戦国武将だの兵器開発科学者だの陸の周りの男、おかしいのしか居らんやんけ…! あの子が何したっちゅうねん…! 俺か? 俺が悪いんか!?」

「そ、空殿…落ち着いて下さい!」

「あの子の男運、どないな星巡りやったらあんなんしかないんねん!? なんで普通の子として幸せになれへんねんんっ! 俺は…父親って名乗れへんけど、ほんま昔っからかわえぇかわえぇして育ててきたっちゅうに…!」

「将也殿、某、水を持って参ります! しばし空殿を頼みます!」

「う、うん、わかった」

「俺のかわえぇ陸ぅぅ…」

「あわわ…そ、空さん、もうお酒止めときなよ!」


…完全に娘に彼氏が出来て嘆くお父さんだ。

っていうか、魔王の坊主って絶対俺だよね?

俺も陸に纏わりつく野郎一覧にカウントされてんのか。

…否定はしませんけどねー…。


「陸…陸、俺のかわえぇ陸ぅ…」

「はいはい…」

「…坊主、お前には分からんやろ! 娘っちゅうんは、何時間眺めとっても飽きへんくらいかわえぇんね! っていうか、陸はかわえぇんね!」

「それは素直に同意するけど、空さん絶対飲み過ぎだからちょっと一休みしなって…」

「笑うと天使やねん!」

「うんうん」

「添い寝してくる!」

「それはちょっと思いとどまった方がいいから」


やっぱ酔っ払いだ、このオッサン…!

泣きながらなにどさくさに紛れて陸の部屋に潜入しようとしてんの…!?


「空殿、お水を…」

「やっぱり俺は父親としてダメダメなんやー!」

「…も…もうどうすれば良いのだろうか…」

「困ったね…」


トリシェは夜が弱いから、爆睡中だし…。

陸はこんなに騒いでるのに、よく起きないよね。


「…真理……俺は父親やのに、ほんま情けないし、何もしてやれへんねん…真理ぃ…」

「今度は誰…」

「まーりーぃ!」

「本当にめんどくさいな酔っ払い!」








しかし酔っ払いの愚痴は唐突な寝息と共に、急遽終わりを告げた。

どうやら酔いつぶれて寝たらしい。

散々喚いて泣いて、すっきり寝るとか幸せだな…!

時影さんと無言で頷き合って、二人掛かりで酔っ払いを部屋の布団の上へと寝かせてくる。

…ちなみにうちの親父も夜弱いから爆睡中です。


「…しかしまさか空殿が神子様の実父でらっしゃったとは…」

「確かにびっくりしたよなぁ…。っていうか…あんまり似てないよね?」

「……言われてみると鼻筋はそっくりでらっしゃるような…」

「………。…そう言われてみると確かに…」


っていうか、今それどうでもいいか…。

問題はそこじゃないよね。


「…この事、陸に伝えた方が良くない?」

「しかし、空殿の様子から見て、隠している事柄なのでは…」

「……そうなのかもしれないけど」



…俺は…うちは、トリシェがずっと兄貴のふりしてて、ゆー兄の敵のふりしてて、俺は見える現実を真実だと信じ込んでたけど…本当は全然違ってて…。

ゆー兄が真実ときちんと対峙して、嫌悪と憎悪の対象だった燈夜兄…トリシェの事を受け入れた事を本当に凄いと思ってた。

俺には無理かも、っていつも思う。

思うけど、トリシェは俺の事を大事にしてくれてる…!


「俺はちゃんと、陸は空さんがお父さんだって知ってた方がいいと思う。確かに世の中には、知らない方がいい真実もあるけど! けど、空さんは陸の事を本当に大切にしてるし、陸もちゃんと自分が空さんに大切にされてるって分かってる! 俺は空さんにトリシェみたいな想いはしないで欲しいし、陸に俺みたいな…知らない事を後悔するって事にはなって欲しくない!」










翌朝に、完全な二日酔いの空さんへ陸は無言で水で割った酢を差し出した。

何故…酢…?

…か、身体にはいいだろうけど…???


「…全く、一体どんだけ飲んでたの? あんなに御神酒空けちゃって!」

「御神酒だったの!? 御神酒って飲んでいいの!?」

「平気平気、中身はただの安酒だから」

『お酒が好きじゃない神様もいるしねー』


例えばトリシェは年に一回飲みたくなるかならないか、って程度のタイプ。

去年の年末くらい、燈夜兄の身体を借りてゆー兄と飲んでいたので「しばらくはいーやー」…と言っていた。

トリシェ的に「お酒はファースト(※トリシェの世界の王族貴族の敬称)しか飲めなかったから、美味しさがよく分かんない」…だ、そうだ。……入社したての新入社員か。


「…そ、そういえば陸ってお父さん行方不明なんだよね?」

「え? ああ、うん…キャバクラ通いとギャンブルで借金重ねて、本家に全部肩代わりしてもらった挙げ句、世界の美女を探しに日本から旅立ったらしいよ」

「それいつからなの?」

「俺が生まれる前って、空兄が」

「………」



本物(父)からの情報だったのか…それ…。



「…」

「…」

「???」


時影さんと頷き合う。

二日酔いでグロッキーな空さんを横目に、この流れで切り出そうと、決めた。


「神子様…、…実は昨夜、空殿が仰っていたのですが」

「ん?」

「陸のお父さん、空さんなんだって」

「………………」



あ、固まった。



「…そ…そ…そ…」

『…そーいや、本家の人って言ってたもんね…。…そう…(…それで自棄酒してたのか…可哀想に)』

「そ…そ…んな、ば…ば、ばかな事……ああ、あ、あああ…ぁぁあるわけ…!」

「み、神子様?(すごい動揺されている…!)」

「陸、ちょっと落ち着いてよ?(超動揺してる…!)」


目に見えて動揺し始めた陸。

因みに渦中のもう一人は酢を飲んだ後、横たわって続・グロッキー状態を継続中です。

…多分意識がありません…。


「っっ……あんな変態がホントのお父さんなんて、ヤダァァ!」

「神子様!」

「うわぁ、陸ー!?」


陸が泣きながら居間から飛び出した!

即座に時影さんが追い掛けた!

こたつに入っていた俺は追跡失敗!

グロッキー空さんと共に居間に残されてしまった。


『……当人なのに蚊帳の外だね、空!』

「…確かに自分の父親が男子高校生のストーキングしたいが為に高校に編入したとか…全力で否定したいよね…」

『…将也の実父だって相当だよね! 実子に憑依して、…』

「やめろー!! あの時の事は俺の記憶から削除しんだだあああぁっ!」








転げ回って否定した。

一瞬よぎった…黒歴史…いや、あんなおぞましい出来事はきっと、ただの悪夢! 幻! 俺じゃない、あの時の…あの出来事…絶対俺は関係ねぇぇぇ!


『俺はあの時ほどアーサーが将也達を育てなくて良かったと思ったよ!』

「…………」




それは…確かに……!!!!




『………、しかし本当にヤバい顔してるね。仕方ない、回復してあげようかな』

「……」


さすが、人を救うを真理とする神様。

その神がふわっと浮かび上がって、グロッキー空さんのこめかみの上に降り立つと…柔らかな青い光が溢れ出す。

二千年という歳月で、普通じゃない数の人間を救い続けてきた神の光。グロッキーだった空さんが、ゆっくり目を開ける。

顔色がさっきと比べ驚く程、良くなっていた。


「……あれ…?」

『ヤッホー、オッハー』

「トリシェ様…!? まさか俺に治癒術を…!?」

『イッエース。でも礼はいらんよー』

「…も、申し訳ありません…」

『……謝罪はもっと要らなかったかなぁ』


起き上がるなり正座でトリシェへ頭を下げる空さん。

いつ見ても、トリシェの治癒術はすごいよね。

…光そのものである魂を新鮮な死体に入れれば、蘇生すら可能という奇跡の力。

トリシェの奇跡の名称は『エンシャイン・アヴァイメス』…この世界の言葉に訳すと『絶望の中の希望』…なんだってさ。

深く圧倒的な絶望の中でこそ輝く小さく、しかし強い希望の輝き。

その奇跡は絶望が巨大で深ければ深い程、確かな希望を与えるモノ。

逆に言えば希望に満ちた幸福な人間には、なんのご利益もない神だ。

けど、人間が人間として存在する以上、トリシェという神の奇跡は永久に欲され続けるだろう。

ただ、あくまでトリシェの奇跡は希望を与えるもの…掴み取るのは本人の努力次第らしいけどね。










『…さて…事情はなんとなく理解したよ空』

「? はい?」

『…将也と時影が神子殿に、君が実父だと伝えた。君は神子殿の本当の父親なんだろう?』

「………え…な、な、なな…な、なんで…!?」

「…昨日自分で泣きながら叫んでたよ…?」

「マジか!?」


…記憶飛んでたのか…。

しかし動揺の仕方が陸そっくりだな…。


『…俺はもう死んでしまっているけれど、君はまだ生きている。その嘘がどの程度君にとって必要なものなのかは分からない。けど、子供というのは…親の知らないところで驚く程成長し、きちんと親に対等な人間として認めて貰いたいと思ってるものだ。俺も優弥に超叱られたよ…ちゃんと向き合えって』

「…………」

『…君はまだ神子殿ときちんと向き合えって、一緒に成長していける。だってまだ君も神子殿も……生きているんだから。…父親なら、堂々とぶつかって…ちゃんと話をしておいでよ』


…一瞬泣きそうに顔を歪めてから、空さんはまたトリシェに深々頭を下げる。

そして、立ち上がって陸を探しに居間を出て行く。

向き直ったトリシェは俺を見上げながら『これでいいんだろう?』と首を傾げる。

…うん…、さすが空気読みレベル最強の英雄神様。











『将也もたまには大人びた事を考えるようになったもんじゃん?』

「別にー? 俺はただ陸に…俺みたいな気持ちになって欲しくなかっただけ」

『やれやれ、返す言葉もないね。…仕方ないよ……俺は……もう死んでいるんだから…。…時間軸から外れ、生と死、そして居場所を失った者が神と呼ばれる。…優弥は俺に居場所は自分で決めろと言ったけど、結局は優弥が…俺を“連れ帰る”事を選んだから俺はこの世界に戻ってきて、将也の側に居る。…神と呼ばれる存在なんて実際はそんなものだよ…、力を得る代わりに、孤独で虚ろだ…』

「……あと、空さんにトリシェみたいな想いをして欲しくないし」

『!』

「…そういうの全部ひっくるめて、話すって決めたんだ。…トリシェはこの先、もう孤独になる事はないよ。俺とゆー兄が、ちゃんと面倒見るもん。…家族だからね」

『…………』








しかしお庭で「本当にこんな変態がホントのお父さんなんだー! うわああああぁん!」と泣き叫ぶ陸と「うわああああぁん、りくーぅ!?」と娘に泣かれたショックで泣き出した空さんと「神子様!? 空殿…!? お、落ち着いて下さい!」と泣き出した父娘にオロオロする時影さんを見掛けた。


「……い…良いことしたよね…俺…?」

『…多分』

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