その日に始まった君との生活。
「ほぁー…」
峰山陸が跡取り決定だという峰山神社にやってきました。
廃れていると本人は言っていましたが、ムッチャ…広い…!!
つか、西嶺山全部が峰山家の土地っていうから…とりあえず俺は、自分が意外と庶民だな、と思いました。
あと、まさか麓の西嶺山公園も峰山の土地だという事実にちょっと目眩がしました。
陸は「こんなに土地があると管理が大変なんだよ」と、ごもっともな事を仰っておられたが…いや、だが普通に考えて凄いと思います。
大体階段登って(軽く二千段はあるよね…)本堂、鐘、御守り販売店(露姫さんと那音姉が担当してます)の他に、神楽殿と井戸、奥には離れ…そして本堂の裏手が本宅…。
これだけでも広いのに、本宅の横には修行僧が泊まれる宿舎と、本宅・宿舎に挟まれた形で堂々と打ち立てられている…お風呂!
で、でかい…!
お風呂の隣にあるのは蔵!
蔵の横に小さな畑があって、ちょっと和む。
そして着流し姿の陸がちょっと新鮮…!
「…り…陸んち、超広いね…お風呂とかプールじゃん」
「…あっちは使ってないよ。掃除は月イチで、一応してるんだけどね。お風呂は本宅の方にあるから」
「他にもお風呂あるの!?」
「うん。とりあえず使うところだけ案内するね」
という事で峰山家に突入致します!
まず玄関、広い!
うちの居間くらいあるかも!?
そして直進して右側に、本宅のお風呂場。
いや広いよ!
脱衣場が俺の部屋くらいあるよ!
更にその向こうがメインのお風呂場…広いよ! 銭湯かっ!?
確かにさっきの本宅と宿舎に挟まれた風呂場よりは狭いかもだけど五人くらいなら余裕で脚を伸ばせて入れちゃうよ!
「脱いだものはこの篭に入れて、棚にタオルと着流し用意してあるから必要なら使ってね」
「おお~…りょ…旅館みたいだね…」
「…他の神社はどうだか知らないけど、お祖父ちゃんがこういうのがいいって言うからウチはこういうスタイルなんだよね…」
更にその棚が銭湯とかスポーツジムのお風呂にある、ああいう系だよ…!
「あれ、この扉は?」
「洗面所。洗濯機もこっち。トイレは、こっちね」
「……………」
扉が二つ並んでて、右がトイレ(当然ですが立派で綺麗です)左が洗面所…って。
「へ、部屋が別々なんですか…」
「不便かもしれないけど…ごめんね…」
『俺、神様だけど…神社を舐めてたぜ…』
「…うんうん…」
「トイレは向こうにもあるから、好きな方使っていいから」
「家にトイレが他にもあるの!?」
いや、家も一階、二階、三階に一つずつあったけど!
同じ階にもう一個ってすごくない!?
「…こっちが居間ね。うちは毎朝ここでご飯食べてるんだけど…」
「いきなり狭っ!?」
玄関から左側に進んで最初の、五畳半の部屋が居間。
居間の向こうにはこじんまりした台所が見える。
むっちゃ生活感溢れる空間だなぁ…!
「だよね、狭いよね…。今までは三人だったけど…将也が入るとさすがに狭いよなぁ…。…でも他の部屋までご飯運ぶの面倒だしなぁ…」
「あ、いや…俺、食事は時間決まってないからずらすし?」
「だめ! ご飯はみんな一緒に食べるのがうちのルールなの!」
「……は…はい…」
…かわいいなぁ…!
ルールなの! …って…なにこのかわいさ、ヤバくない?
…ゆー兄も朝食とか夕食、合わせてくれたけど…陸んちもかぁ…。
「あ、居間の隣が俺の部屋ね」
「マジで!? み…見ても良い…?」
「…いいけど別に面白くはないよ?」
という訳で一度廊下に戻って、隣の部屋の障子を開ける。
……。……あれ?
「……えっ…陸、私物的なものは…?」
「制服」
と、壁に掛かった制服を見せられた。
…いや…私物…?
『勉強とかどこでやってるの?』
「居間でやってます。だから教科書とかノートも居間の棚に…」
「……しゅ…趣味的なものとかは…?」
「……。…俺、掃除が趣味だから…」
「…………」
『…将也とは真逆な感じだね…』
「奥の部屋は時影の部屋だよ」
「と、隣ぃ!?」
と、陸の部屋の隣の部屋…襖を開けると、また特に何も見当たらない部屋が現れた。
せいぜい文机と座布団があるだけ…まし?
陸の部屋は空き部屋と言われても納得しそうなくらい何もなかったし…。
「で、廊下を挟んだあっちが空兄の部屋」
「空兄…って…」
と、また一度陸の部屋に戻り、廊下へ出て右側…T字になった廊下の、最初の和室。
陸が無遠慮に障子を開く。
「……き…汚たな…」
『お前が言うな』
トリシェの突っ込みが的確過ぎます。
けど何もない何もないが続いて…突然、布団敷きっぱなし、写真のアルバムが散らばった、パソコン机に割とでかめのパソコンが設置してある和室とか、とりあえず違和感ありすぎ!
「もう…いつの間にかパソコン入れちゃってたんだよね…」
「…空って、理音が言ってた陸の親戚の人でしょ? 京都の人で…“あの”篠崎先輩を気に入って、そのまま南雲に入学したとか…」
「うん…でも土日は絶対戻ってくるんだよね…。…本家の人だから、お祖父ちゃんが亡くなった後の土地の権利関係の処理とかで残ってくれてるんだ……。…俺、未成年だしね……心配してくれてるんだ…」
「………そうなんだ…良い人だね」
「…うん…」
…そうだったのか…。
理音が「篠崎先輩のストーカーで気持ち悪い!」って騒いでたから、相当ヤバい人だと思ってたけど…。
「…でも変態で気持ち悪いんだよね……死ねばいいのにって、割と本気で思っちゃうくらい」
「…………そうなんだ…」
変態で、気持ち悪いのも…真実だったのか…。
そしていよいよ俺の部屋!
案内されたのは中庭前…空さんの隣、時影さんの、廊下挟んだ隣の部屋!
つか、中庭まであんのぉぉぉ!?
「あんまり手入れはしてないけど、夏終わりは蛍が飛んだりして綺麗なんだよ」
「蛍とか居るの!?」
「あそこに湧き水があるから。池には鯉もいるよ」
「っ…すっげぇ…」
もはや自分の暮らす街に、こんな自然に溢れた旅館みたいな場所があったなんて…!
っていうか軽く金取れるレベルじゃね? この環境。
『神子殿、神社辞めて旅館始めたら? 儲かる気がする』
「え…いや……」
あ、やっぱりトリシェもそう思います?
ですよね!
「…とにかく、お布団は押入に入ってるから。えっと…俺は夕飯作らなきゃいけないから…部屋は好きに使っていいからね」
「うん、ありがとう、陸」
…とりあえず、今日からここが新居かぁ。
陸の部屋も思いの外近いし…えへへへ…!
『…うぅーん…』
「? どうしたトリシェ」
『……実に澄んだ空気…満ち満ちる神気…サイッコーだなぁ! なんか元気になってきたよー!』
「………」
普段は無駄に魔力使うー、とか言って俺を困らせる時にしか使わない浮遊魔法…。
ちまいぬいぐるみがふわん、と浮き上がって、廊下へ飛んでいく。
…低空飛行してうっかり鯉の餌にならなきゃいいけど。
でも…本当にトリシェと相性が良いんだな…神域って。
「うわ、すげ…」
しかし改めて八畳はある部屋を見渡す。
桐箪笥…桜庭の画かれた襖…押入に天袋、違い棚に床の間…。
床の間には綺麗な生け花…。
…もしかして、陸が生けたのかな…?
秋らしくススキが飾ってある。
すげぇ…なんか、こう…風情? 情緒? があるっていうの?
それになんかすごく、いい匂いがするなぁ…!
って、あ、お香…!
「…すげぇな…」
何回言っとんねん俺…。
けど、だって…すごいじゃん、本当に!
…なんか、すごく歓迎されてるって感じる…俺の勘違い?
いや、そんな事ないよね?
押入の中の布団はお日様の匂い。
ふかふかで柔らかくて、気持ちイイ…!
更に、陸は俺の好物であるオムライスを夕飯に作ってくれた。
ゆー兄の作るプロの味、じゃない…なんて優しい家庭の味だろう…!
「…今日からよろしくね、将也」
「うん! よろしく、陸!」
空さんは今日、南雲寮なんだって。
だから、俺と陸と時影さん(とトリシェ)で夕飯。
この時の俺は、まだ峰山陸を“男の子”の“特別な友達”としか認識していなかった。
それが崩れるのは、約十時間後の事である。
「…きっつ…ぅ…!」
調子に乗って階段を一番下まで下って登ってくる、を二回も往復してしまった。
俺は朝起きてすぐに軽くランニングをするのだが、住宅地と勝手が違うのでちょっと調子に乗りました。
全くもうすぐ冬本番なのに汗だくだよー…。
『お風呂沸いてるといいねぇ』
「いや、シャワーでいいって」
『汗臭い男は嫌われるよ! 神子殿は匂いフェチっぽいし』
「…それって真壁先輩の事言ってる? 確かに真壁先輩、香水集めが趣味って言ってたもんね。…確かに…いつもイイ匂いだったけど…」
すんすん、と自分の匂いを嗅いでみる。
言われてみると…臭いかも…?
あ、時影さんだ。
「将也殿も鍛錬にござるか?」
「うん、まーね。アイドルってぶっちゃけ体力勝負の肉体労働だからさ」
「そうなのか…? てれびを見る限り、その様には見えぬが…」
「白鳥と一緒だよ…水面下では必死にばた足。大変なんだよー?」
「…よく分からぬが…自らを高める努力を怠らぬのはよい事だ」
「時影さんは…剣の素振り?」
胴着姿っぽいが、上半身は着物を脱いでるのでただの袴姿?
左手首には俺と同じく、王苑寺先輩が開発したバイオキメラのブレスレット。
そして両手には二振りの刀。
もしかして、これが時影さんのバイオキメラの形?
「うむ、いつ何時、神子様を狙う不届き者が来ても、あの御方をお守り出来る様努めるのが我が使命…。…神子様に救われたこの命は神子様をお守りする為に使い切るものと、この柏葉時影…既に決めておる」
「…は…はぁ…」
なんか重いな、この人…。
いや、陸を守りたいって気持ちは分かるけど…。
「…いかに神の力を得ているとは言え……もう二度と、あの男に神子様を……あの様な事は…もう、今後は二度と絶対に…!」
「……!」
いや、別に忘れてたわけじゃない。
夏休みに入った日…終業式のあの日…陸を半殺しにして汚した奴…。
泰久の心を深く傷付けて、陸に酷い事ばっかりして、陸のお祖父さんを殺した…あの男…!
『八草沙幸か…。…確かに王苑寺柘榴の生物兵器、バイオキメラの破壊力は神器クラスと言っても過言ではないけど…しかし所詮はただの兵器…正真正銘の神の力、神器『天地ノ尊』と支配神の前では意味を為さないだろう』
「だとしても、某は戦います。敵が神であろうと、あの御方をもう傷付けさせたりはしない」
『…うぅん…』
頭の上で悩むような声。
…八草沙幸…奴も、俺と同じように“神持ち”だ。
あいつに憑いてるのは、やはり異界の神…『支配神シャルトス』
支配神は名が示す通り、弱きを踏みにじり支配する神。
『英雄神トリシェ・サルバトーレ』…つまり弱きを守り、救い続ける神であるトリシェとは最っ高に分かり合えない神だ。
しかも八草沙幸は月科翔先輩…龍神・麒麟の王から神器『天地ノ尊』とその神気を奪い取って、世界の『代理神』になってるんだって。
陸と泰久をあんな目に遭わせた奴がこの世界の『代理神』とか、ふざけてる。
奪い取った力をさも自分のものみたいに、好き勝手、好き放題に使う…あいつだけは絶対に許せない…!
『…気持ちは分かるから、力を貸してやりたいのは山々なんだけど…神器のない上、器もこんなな今の俺には分けてやるだけの力がない…。ごめんね、時影』
「とんでもございませぬ! …トリシェ殿にも以前、命を取り留めて頂いた御恩がござる。…この恩もいずれ必ずお返ししたく…!」
『…いや、要らない。…俺はそういう神だから。あ、でもそれなら今度身体を貸してよ? 時影の身体でシャルトスをブッ殺す』
「…そういう事なら喜んで…!」
「…朝っぱらから物騒だな…。俺、シャワー浴びてくるから、そういう物騒な話はそっちでやってよ」
と、トリシェを時影さんに預けて俺は昨日教わった本宅のお風呂へ向かった。
昨日も寝る前に使って、本当に驚くほど広くて感動したお風呂。
玄関を入って、少し真っ直ぐ進み、右手側最初の扉。
あれ、脱衣場が暖かい…?
あ、暖房がついてる…昨日つけっぱなしにしちゃったっけ?
あまり深くは考えず、ばっさばっさと乱暴に服を脱ぎ捨てて浴室の扉を勢い良く開いた。
…浴室の方から湯気が立ち込めていた事に、気付けば良かったものを…。
「……………………」
「……………………」
…えぇと……。
湯船から上がったばかりっぽい…陸の身体が俺のと外観が異なるんだけど……。
これは、一体どういう事でしょうか、神よ。




