俺が魔王なら、あの子は天使。
「…インフルか?」
『いや…多分違う…』
文化祭が終わってから、その夜に…俺はまたお熱でバタンキューしました。
しかも前回より高い。
ぼんやり、ずーっと陸の事ばっかり頭に浮かんでいてぼうーっとする。
…なんか陸と話す度に熱出してるみたいだ。
「じゃあ…なんだ? また風邪か?」
『でも咳きもしていないしねぇ』
「また治癒術が効かないのか?」
『そうなんだよ。これはもう精神的なとこからくる発熱かなって』
「はぁ? 精神的なとこからくる発熱…? なんだそれ」
陸に好きな奴が居た…、…でも…陸はその相手が男駄目だから身を引いた…か。
いつか光の王のものになるって、一体どういう意味なんだろう?
陸は本当にそれでいいのかな…?
それとも、光の王って陸の好きな奴の事?
でも、そんな感じじゃなかったし…。
そもそも光の王のもの…って、恋人的な意味なのかな…?
もしあんまりいい意味じゃない「ものになる」とかだったら…。
そもそも陸って男の子のくせに、なんであんなに可愛いんだろう…つらい…。
陸が可愛すぎてつらいよ…。
「…ふしゅぅぅぅ…」
「あ、熱上がった…」
『種なくなっちゃうよ将也ー』
「……………」
いや…俺、しっかりしろ…陸は友達だろ?
そりゃ確かに可愛いけど友達に可愛いは、酷い。
あれだ、きっと熱で思考が斜め向かい側にあるんだ。よし、ちょっと寝て落ち着こう。
せめてお隣さんくらいに戻ってきたら撫でて落ち着かせればいいよね?
……ん? …なにが?
「…とまとが…きっとトマトの赤いのがソースになったからお隣さんって事…」
「………。…壊れたか?」
『なまじ頭がいいから、慣れない高熱で変な方向にショートしてるんだろうね。…将也、円周率言ってご覧?』
「1415926535 8979323846 2643383279 5028841971 6939937510 5820974944 5923078164 0628620899…」
「……お、おいトリシェ…これ本当に大丈夫か…?」
『うん、ちゃんと円周率だ』
「………」
うううー…熱くてくらくら気持ち悪いよー。
ゆー兄が引っ越して早三日……俺、小野口将也は早速大ピンチです。
「……着てく服、ないな…」
『洗えよ!』
今日は仕事なんだけど、着る服が底をついた。
トリシェの言うとおり洗えばいいんだろうけど仕事あるから干す時間なんかないし…。
まぁ、学校へは制服着てきゃいい訳だし。
今日は午前中に学校に行って、そのまま事務所行けばいいか!
『将也さんよ、お前優弥がいなくなって三日でこの様ってどういう事…? ゴミも全然分別もしないで! ペットボトルはちゃんとキャップと容器ビニールは剥がして別々にしなきゃ駄目じゃないか! コーヒーも缶とグリップごっちゃに捨てて! コンビニの弁当もプラスチック容器と割り箸を一緒にしちゃ駄目だよ!』
「…うるせー………」
『うるせーじゃ、ねーよ! 地域のルールなんだから守れ!』
「…いいじゃん、トリシェが四方市のゴミ焼却施設は有害物質99%排出しない、焼却を利用した発電所にしてエコなんだから」
『そーゆー問題じゃありません! それもちゃんと区分されてた方が施設的には楽で…』
「はいはーい」
『将也ァ!』
「おはよう……どうしたんですか? トリシェさん…将也と喧嘩?」
「おはようございます」
「り、陸…!?」
まさか登校中に陸(と時影さん)に会えるとは!
えーと…なんと言いましょうか…。
「…いや、全然別になんでも…」
『聞いてよ神子殿! 将也がシャツを洗濯してないんだ! 文化祭からずっと!』
「な、てめっ、こらトリシェ!」
「……………」
「引かれたじゃんかぁぁっ」
だって文化祭終わってからずっとゆーの引っ越し手伝いとか、仕事で!
『しかも食事も毎食コンビニか外食! ゴミは分別しないし掃除も忙しいのを理由に一切しないんだよ! なにこのグータラ残念男! ニートでも掃除くらいするよね!?』
「テメェェ…! ちょっとマジ黙れ…! あっ」
『それだけじゃないよ、服は脱ぎっぱなし、パンツなんか洗うの面倒とか言って毎日買ってくるんだから! ありえなくない? いくら金があるからって毎日パンツ買うとか! 脱いだら脱ぎっぱなしのくせにさ! もう将也の部屋パンツだらけだよ!』
「ト、トリシェェェ…!」
俺の手の届かない位置まで浮き上がって飛び回るトリシェ。
こういう時に魔力遠慮せず使うとかこの野郎!
ああ…! 陸の顔が完全に駄目な人を見る目になってるぅぅ!
「…に、人間は完璧じゃないって言うけど…頭が良くて運動神経がいい人って片付けられないジンクスでもあるのかな?(例:王苑寺柘榴)」
『そんな事ないよ、だって俺は家事割と出来る子だもん! 料理だってレシピを見ながら作ればちゃんと美味しく作れるもん!』
「じゃあなんで燈夜兄の作った料理は下の中みたいな味だったんだよ!」
『あの頃は、まだ日本の調味料とか道具とかに慣れてなかっただけですー! 言っておくけど俺は生前は奴隷だったんだからね! 家事とか料理はお仕事だったんですーっ! だからどっちかと言うと得意なくらいなんだからな! 今作ったら中の上くらいの料理は作れるんだから!』
「このクソ! 突っ込みづれぇぇぇ!!」
生前は奴隷とか、日常会話に織り交ぜてこないで頂きたい。
実に絡みづらいし拾いづらい。
「…お風呂とかは…入ってるんでしょ?」
『それが最悪なんだよ! 将也ってばバスタオル使い切って、優弥が棚にしまってたタオル全部引っ張り出してきて使ってるんだよ! しかも箱とかそのまま放置! 洗えばいいだけなのにさ!』
「…………」
「…………」
陸の眼差しが冷たい!
「…今日は仕事なの?」
「う…うん…」
「じゃあ明日、学校帰りに片付けに行ってあげるよ…。この間、トリシェさんに怪我治して貰ったお礼って事で、ね? 俺も今日は王苑寺先輩の部屋を片付けに行くつもりだし…」
「本当に!?」
『…え!? いいよ神子殿…! それより将也を虫螻のように罵って詰ってやって? あとで優弥に突き出してシバいてもらうから!』
「お前トリシェこの野郎!」
「そ…そういうのはあんまり得意じゃないから…」
「陸も真に受けないでぇ!」
そして、翌日。
「ま…将也さ……うち神社だから部屋たくさんあるし、下宿する?」
「え…!?」
「いや…まさか、ここまで家事能力がないとは思わなくて………よ、よく一人暮らしするとか優弥さんに豪語したね、君…」
「…………え…えぇと……」
「…確か優弥殿が引っ越されたのは先日でござったな…。…よもや数日でこの有り様とは…」
「…………」
それ程までに、現在の小野口家は凄惨な事になっていたのです。
まず玄関にはゴミ袋の山、キッチンにもゴミ袋。
居間、廊下、階段、浴室、自室は服と下着とバスタオル等が所狭しと散乱している。
「…トリシェさん、もっとお説教して下さい…これ酷いですよ…」
『俺が言っても聞きゃしないんだもん』
「………」
目を逸らす。
だって、トリシェうざいんだもん!
「時影は衣類系回収して洗濯機にぶち込んで。俺はゴミをなんとかするから」
「神子様にゴミの処理など…そちらを某が…」
「いいいいいから…! …し…下着とか…そ、そういうのも散らばってるんだからっ…!」
「は…!! し、失礼致しました…」
「?」
『?』
「将也もちゃんと手伝わないと、駄目なんだからね…!」
「………は…はい…」
な、なんでか顔真っ赤にして怒られました。
「………」
か、かわいいなぁ…!
なに今の…すっげーかわいい…!
『ときめいてないでさっさと仕事始めろ!!』
「ぎゃ!」
「!?」
「ま、将也殿…!」
魔術強化したトリシェの蹴りで、玄関まで吹っ飛ばされた。
痛いの半端ありません。
…しかし、陸にあんなに可愛く怒られたからには頑張らない訳にもいかない。
とりあえず散らばってる服とか下着は、拾って洗濯機に突っ込んだ。
すると時影さんに「色物は分けねば色移りします」と注意されてしまう。
えぇー…ナニソレ面倒くさー……。
「…致し方ない…将也殿は衣類拾いに専念して頂いて構わぬ。…拾ってきたら某が分別して洗濯致します故」
「はーい」
「………優弥殿は…将也殿を随分甘やかされていたのだな……」
時影さんがそんな事を言っているとはつゆ知らず、部屋に散らばった服とか下着を拾って二階に戻る。(小野口家のお風呂場は二階だよ!)
一階からは掃除機の音。
わー、掃除機までかけてくれたのかぁ…陸、優しいなぁ!
「……」
『なにしてんの将也、早く時影のところに…』
「…なぁ、トリシェ…さっきのって本気かな…? 俺が陸んちに下宿するって話…」
『……え…』
「…ほ…本当に本気にしていいのかな…? や、ヤバいよな…なんかさ…陸んちに俺が下宿するとか……あ、あれ…なんでヤバいのかな…? い、いや…まずゆー兄に相談が先かな…? …そ、それよりまず本気かどうかか…確認だよね? あ…あはは…」
『………(か…完全に浮かれとる…)』
下宿かぁ、陸んちに…それって…かなりヤバいよなぁ…!
朝起きたら、陸の作ったご飯食べて…帰ったら陸がご飯作って待っててくれるって事…だろ?
や、やっべー!
って…あれ?
『げ、馬鹿将也テメェ浮かれすぎだーあああぁっ』
階段を踏み外したらしい。
視界が素敵に回転していく…!!
「わがっ」
「え…? ひゃ…!?」
がっしゃーん、と音を立てて落下が終わった…が、あんまり痛くない…?
「……あれ…?」
「…い……っ」
目を開けると、うちの制服…?
身体を持ち上げると、陸が下にいる…?
ウソ…マジにこんな漫画みたいな事あるの…?
あれか、毎日神様を頭に乗っけているから起きる奇跡ですか!?
掃除機かけててくれた陸の上に落下して、まるで俺が押し倒したみたいな―――!!
「……………」
「……………」
ガチャン、と玄関で扉が開く音。
靴を脱いだゆー兄が、俺を見て目を細めた。
……いや…あの…なにもここまで漫画っぽく仕上げなくても…神よっ!
合掌。
「…………」
「だ…大丈夫? 将也…治癒術かけようか?」
「甘やかさないでいい、神子殿! 全く…大丈夫か、トリシェ…? ああ…こんなに埃まみれになって…」
『うにゅう…』
ボッコボコに殴られた俺。
殴られた理由は、俺の頭から共に落っこちたトリシェが、掃除機に溜まっていたゴミ溜まりに落下したからだ…。
俺の落下で潰された陸が持っていた、掃除機のゴミ溜まり部品が落下の衝撃で外れ、トリシェ…はそこにクリティカル。
…なんか叱られるの…腑に落ちない…が、………ゆー兄に逆らっては命がありません。
「しかも神子殿に掃除、時影に洗濯させてコンビニや外食ばっかりとは、なぁ…? 将也ぁ…」
「ふ…ふぃぅうう…」
こ…殺される…っ!
「あ、あの…そういえば優弥さんはどうされたんですか? なにか忘れ物ですか…?」
「芳那さんに誘われて、この後一緒に飲みに行くんだ…。で、時間がまだあるから様子見にな…。…そうしたら案の定…!」
「そ…そーなんですかぁ…」
「・・・・」
恐い…!
恐いよ…!
背後に妖気が出てるよぉ!
「…あ…あの…、その件で、ですね…優弥さん…」
「…?」
「…もし…優弥さんと…将也がいいんだったら……将也を…うちに下宿させてはどうでしょうか…? …うち神社だから…部屋はたくさんあるし、光属性の神域だから、将也の魔王の素質も抑え込めますし、トリシェさんにも良い影響だと思いますし…………」
「………」
「………」
ゆー兄が驚いた顔をする。
俺も…。
ほ、本気だったんだ…本気で…!
「…良いこと尽くめ…って事か…。…将也、お前はどうし…」
「行きたい!」
「……(即答?)…しかし神子殿、本当にいいのか? こいつ、本当になにも出来ないぞ?」
「ゆー兄ひどいっ」
「………それは今見たので分かります…」
「はう…!」
しかし言い返す材料が全くないので、とりあえず黙らせて頂きます…。
「……下宿ね…。まぁ、神子殿の家からなら学校は逆に近くなるくらいだし…駅もそんな変わらないか…。将也も金だけは無駄にあるし…。…いや、だが那音の事も無理やり雇ってもらったのに将也まで世話になる訳には…」
「平気です! 俺は料理も掃除も好きだし…。将也の方こそ、多分環境が全然変わって大変かもしれなくて…」
「………」
「………?」
ゆー兄の、物凄く疑わしいものを見る目…なぜ?
確かに俺ってば相当家事スキルないけど、そんな睨むように見なくても…。
「…しかし神子殿にさっきみないな無礼な真似を…」
「!?」
「ああああぁ、あれは…事故だってば、ゆー兄!」
「……。…分かった、下宿するしないは将也の判断に任せる。…だが神子殿、なにかされたら直ぐに言って欲しい。…シバき殺す」
「………」
「………」
ゆ、ゆー兄…目が本気だし…声、超低くなるし…マジで殺られる…!
「じゃあ、荷物まとめたらおいでよ。部屋は作っておくから」
「う、うん…! ありがと…!」
今日、今すぐお引っ越しは無理だから…明日以降…って事で洗濯物を干して、ある程度掃除を終わらせてくれた陸と時影さんは帰って行った。
…ヤバい、なんだこのふわふわした気分…超、ヤバい…!
「………」
「将也」
「…………」
ふわふわした気分は、後ろの殺気付きのゆー兄により急降下した。
ふ、振り返るのが…恐い…!
「……な、なに?」
「神子殿に妙な気起こすなよ? お前、最近変だしな…」
「な、何言ってるんだよ、ゆー兄! 陸は男だよ? 俺が男相手に妙な気なんか起こす訳がないじゃん!」
「……けど神子殿は可愛いしな…」
「ゆー兄もそう思う!? だよね、陸って相当可愛いよね! ヤバいよねあれ、すっげー可愛いよね! 男にしとくの勿体な…………」
「……………」
『……………』
「………だ…大丈夫だよ…?」
「お前の大丈夫は信用出来ねーんだよ…!」
「ふぎゅう!」
アイアンクロー…!
痛い痛い痛い! ゆー兄の握力でアイアンクローはヤバい!!
顎の骨が砕け散るぅぅぅぅ!
「…いたい…」
「判断は任せるけどな、家賃とかはちゃんと支払えよ。あと絶対妙な真似するな。あの神子殿に世話になってるのは、お前だけじゃないんだ」
「わ、わかってるよー…」
顎超痛ぇー…!
もー、歌手の口元砕こうとするとか、さすがゆー兄だよー…恐ろしいったらねぇー!
…ま、なにはともあれ…陸んちへの下宿はもはや確定…!
学校じゃ生徒会室以外でまともに話せない(真宮兄がいるから)から、明日以降…たくさん話せるって事だよね…?
「………えへっ!」
「………(不安だ…)」




