君がそうやって笑うから、どんどん夢中になるんです。
その翌朝、目を覚ました俺はなんだか熱っぽいような気がした。
頭が痛い…だるい…、そしてなんか…恥ずかしい。
峰山にあんなガチ泣き見られた挙げ句、真面目に慰めて貰った。
…ア・ホ・か…俺!
死ぬような目に遭ったばかりで、泣きたいのはあっちの方だろ!
なに俺の方が慰められてるの!
…あいつ、峰山…マジすげぇ……。
さすがトリシェが認める神子様…ってか…?
顔を洗い、着替えて一階の居間へ行くと峰山陸は至って普通でした。
驚くほど普通に、ゆー兄が作った朝食を食べていた。
…すげぇな…俺なら寝込む、しばらく立ち直れない自信がある。
「将也、お前は仕事か?」
「うん」
「一応トリシェ連れてけよ?」
「寝てますが」
「トリシェさん…昨日、支配神と戦って魔力を使い切ってしまったみたいだものね。…将也…手を」
「!?」
派手に箸が…真っ二つに砕けた。
だって峰山が、急に俺の手を握るから!
峰山が目を閉じると魔術陣が浮かび、それが手の甲に染み込む。
これは…抑魔の魔法…?
「トリシェさん程じゃないかもしれないけど…君の魔気は封じ込めたから」
「・・・・・」
「……? …どうしたの?」
「……み…み…ミネヤマサン…手…手…」
「あ、ごめん食事中だったね。…って…小野口くんお箸が…っ!?」
……あと、こっそり将也って呼んだ…俺の事、下の名前で…。
…変だ、変だ、すげぇ変…。
心臓バクバクする…顔が超熱い…手も熱い……これ、なに?
…夏風邪かな?
「38.9分…なんだこれ…夏風邪か?」
「…………」
『…解熱魔法使って下げてあげようかと思ったんだけどダメなんだよねぇ…なんだろうこれ?』
…その夜、仕事から帰るなり俺は熱でバタンキューしました。
おかしいよねぇ…トリシェの魔法でも熱が下がらないんだもん。
夏風邪とかでもないんなら、いったい何なんだろう?
冷えピタの乗ったおでこをトリシェがペチペチ叩く。
病人相手にやめて欲しいよね!
「お前が熱出すなんて小学生以来だな…。…どーせ髪を乾かさないで夜更かししたんだろ?」
当たってる!
さすがゆー兄、その通りだよ!
誤魔化すように「えへへ」と力なく笑うと、お腹に一撃入れられた。
お、恐ろしいぃ!!
「げふっ! げふっ!」
『ゆ…優弥、ちょっとそれは酷いような…』
「全く…。お前、俺が引っ越した後、本当に一人で大丈夫なのか?」
「だ…大丈夫…」
「本当かよ?」
…ゆー兄は近いうち、那音姉のお父さんが買い取ったマンションに引っ越して、マンションの一階で自分の店を出す。
五階建ての割と新築で、レストランの隣には那音姉のお父さんがコンビニを作るんだって。
…いやぁ…お金って、ある人のとこにはあるもんだよねぇ…。
竜哉兄も沙織先輩とアメリカで結婚するって事で、最近忙しそうだし。
…だから…もうすぐ、この家には俺一人になる。
正確には俺とトリシェだけ。
…三階建て庭付き一戸建てに男子高校生が実質一人暮らしって、不安だよね。
「だ…大丈夫だよ本当にぃ…。新居で那音姉といちゃいちゃ楽しんで…ふごぉ!?」
「………」
『ゆ、ゆーやっ』
不安なんだけど、毎日毎日家でゆー兄と那音姉がイチャイチャラブラブ焦がし砂糖かっ! ってくらいくっつきまくっている様を見せ付けられ続けるのも辛いんだよね!
早く出て行けばいいと、俺は心の底から思います。
…っていうか…病人にも容赦ない…さ…さすがです…!
「今日は暖かくして寝ろよ!」
「は……はひ…」
『…………(それにしても…将也のこの発熱、不自然だな…俺の回復魔法で治せないなんて絶対変だよ……知恵熱?)』
八月、夏休み中のイベントとしては…Ri-3の夏祭り会場ゲリラライブ巡り!
昨年同様、峰山神社の夏祭りにやって来た俺たちRi-3。
しかしこの日、泰久は殺人現場に遭遇して心に深い傷を負う。
…殺害されたのは俺の学校の二人の先輩。
当時三年だった月科翔と、留年して三年だった久屋仁。
月科翔は首から斜めに鋭利な刃物で一太刀。
久屋仁は、その首が胴から随分離れた場所で見つかった。
しかし犯人は未だ捕まっていない。
目撃者が居たにも関わらず、泰久と現場に居た二人の東雲学院高等部の二年生二人組も…犯人の名を揃って警察へ告げたにも関わらず。
警察が捕らえる事の出来ない犯人は、月科翔という神を殺して…その神気と神器を手に入れ、実質代理神となったというから納得いかない。
夏休みの後、修学旅行で俺は何故か真宮兄の熱烈な毒舌っぷりと妨害で、一切峰山と接触を持てず非常にもやもやした。
話が出来たのは、せいぜい初日、飛行機酔いに苦しんでいた峰山を、トリシェが治癒で治した時のちょっとだけ…。
…俺は峰山とすっごく話したい。
峰山は俺に優しくしてくれるから…、俺は峰山に甘やかされたい。
また、あの声で「将也」って呼んで欲しい。
…修学旅行は学校行事で時影さんは付いて来れないから、峰山の事は絶対に俺が守るんだ。
今度こそ、絶対に。
一方的にそんな誓いを立てていたのに、真宮兄…恐るべき執念すら感じる妨害…!
なにあれ、振った腹いせ?
修学旅行後は四方校合同体育祭&文化祭。
…峰山は体育祭の前夜祭から学校へ来なかった。
西雲生徒会長まさかの不在。
峰山は生徒会長として、本当に本当に、準備ものすごい頑張ってた。
夏休みもほぼフル出勤して、南雲の生徒会長、柳瀬理音と北雲生徒会長の八草沙織先輩と三人で。
責任感の強い峰山が休むなんて一体何事かと思ったら……峰山は、前夜祭の前の日に……誘拐されていた。
犯人は峰山神社の夏祭りで月科翔と久屋仁を殺した奴。
そして、終業式に峰山をいたぶって半殺しにした…あいつ…!
峰山が月科先輩に預かっていた、龍神の神気を奪おうとしたらしいが前回(終業式のあの時)失敗した為、今度は入院していた峰山の祖父を人質にして…目の前で殺した。
そこまでして、奪おうとした神気は…結局、峰山の高い霊力でまたもや失敗に終わった。
…峰山はあれだけ毎日毎日頑張って準備した体育祭は…怪我とお祖父さんの葬儀や、後処理なんかで一日も出て来る事はなかった。
…俺は結局肝心な時にまた峰山を助けてあげる事が出来なくて……。
痛々しい姿でやっと文化祭の最後の日に現れた峰山陸に…本当にやっと…話し掛けられると思った…その矢先。
「小野口先輩! 自分と付き合って下さい!」
「あ〜、俺好きな人がいるから。…じゃ」
…なんでかうちの学校の理事長が、体育祭&文化祭中に成立したカップルには金一封! とか言いだし、しかも金一封の中身が十万相当という高額だった事から…文化祭最終日はもう…物凄い告白ラッシュ。
ダメ元でも俺に突撃してくる他校の生徒と、西雲の先輩後輩同級生…。
つらい…お前等なんかどうでもいい…俺は……陸と話したい。
…まさか陸、誰かとつ、付き合う事にしたとかない…よね?
俺はそればかりが心配で心配で…。
勿論怪我も心配だけど、怪我ならトリシェに治してもらえばいいだろうから…その事も相談したいし!
「………」
「って、陸!? み、見てたの!?」
断りを入れて向きを変えた所にまさかの峰山陸!
ままままままた見られた!
また、陸に…告白断ってるところをぉぉっ!
「うん。…断り方変えたんだね…」
「…まぁ…ね…」
「小野口くんは理音に告白しに行かないの?」
「…う…うん……」
「なんで?」
「えっ…いや…それはその…」
本気で疑問らしい。
首を傾げて見上げる陸に、顔が熱くなって、なんとなく顔を背ける。
くっ…陸の上目使い可愛すぎる…!
眩しくて直視出来ない、なんだあの可愛らしさは…!
…っていうか理音…にはもう高一の時に告って振られているんですよ…峰山サン……。
「……り、陸は…? …結構モテてるらしいけど…もしかしてもう誰かと付き合っちゃったの…?」
ドキドキ心臓の音がやかましい。
どうか、と祈りながら問う。
…あれ、俺…なんでこんなに陸が誰かと付き合ってたら嫌なんだろう…?
「俺? 俺はそのうち光の王のものになるから恋なんか出来ないよ」
「っ…、…そ……それも決まっている未来…ってやつなの?」
「うん。変えることの出来ない運命」
「………」
…だが陸の返答はだいぶ斜め上。
そんな、まさかの答えだな…まさかまさかだよ…。
…未来が見える先見の力を持つ特別な神子…。
あっさりと頷いて肯定された……いつか必ず訪れる未来…。
…正真正銘の運命の相手ってヤツですか…。
…あれ…でも待て…、…王?
………それってまさか、陸があの時に言っていた…?
「…そ…その光の王って…俺だったりするの…?」
「え…」
「い、いや! 別に王になりたいとかじゃなくてっ」
「……君じゃないよ…」
「……………そ…そう」
急に心配そうな顔をされて、慌てて首を横に振る。
…ちょっとだけ陸の運命の相手なら…王ってのになってもいいかもって思った自分乙…。
俺のアホ…陸はあの日「王様にも魔王にもならないで」って、言ってくれたのに…!
…あ…でも待て、俺でないなら陸の運命の相手って一体誰だ?
ろくでもなさそうな奴だったらどうする?
なんかムカつくぞ、それ…!
「…光の王は誰なのかは分かんない…の?」
「……さぁ?」
「さぁって…自分の事じゃん」
「……だとしても…」
…そう、一旦区切って陸は目を伏せる。
「…君には関係ないよ」
「そんな事っ!」
「?」
「………そんな事言うなよ…友達じゃん、俺達…」
「でもやっぱり関係ないよ。だってもう決まっている事だから」
「むぅ…」
さて、仕事に戻ろうと気を取り直した陸に俺は納得出来ずにまた噛みついた。
だって、そんなの…!
確かに俺には…あんま関係ない…の、かも…しれないけど…!
…もう決まっていて…変えられない事なのかも、しれないけど…!
「陸は今、好きな人いないの?」
「いたよ」
「居るの!?!?」
「ううん、今は居ない。でも…居たよ」
「………、…振られた…とか?」
「そうだね…」
…少しだけ、陸は遠い目をして微笑んだ。
その人の事を思い出してるのか…すごく、寂しそうな目…。
「…俺の好きだった人は、君と同じで…男は好きになれない人だったから」
「……そ…そうなんだ…」
う…グサッときた…。
…やっぱり終業式の時の事…根に持ってらっしゃる…?
………、…っていうか…陸の好きな奴って男だったのか…。
…………まあ…陸は可愛いしな…。
しかし陸に好きになってもらえるなんて、さぞや格好いい超絶完璧イケメンなんだろうな………、…王苑寺先輩とか真壁先輩…?
ありえる…!
「でもそれで良かった。いつか光の王のものになるのに、その人と恋人になってしまったら…きっとその人の事をとても傷付けてしまっていたから」
「………」
…と、言って陸はまた目を伏せる。
……そう、かもしれないけど…でも…なんか……なんだろう、このもやもや…。
「………そう、なんだ…」
俺の呟きに、陸がすごく柔らかに微笑んだ。
うっかり視界に入ったその笑みは、すごくすごく優しくて…綺麗で…。
なんでだろう…陸以外がぼやけて見える。
陸だけが、世界でたった一人、鮮やかに見える。
…どうしてだろう…本当に、なんでだろう?
抱き締めたくて、堪らない。




