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毒デレ!  作者: くらげなきり
20/86

分不相応もいいところ。




解放された峰山はほとんど意識がない状態。

辛うじて「家には帰りたくない」と言い残した為、ゆー兄は居るけど俺の家に運んで貰った。

回収したトリシェは、八草沙幸憑きの神…『支配神』と戦って魔力がすっからかん。

ゆー兄はすぐに治癒魔術の使える神楽さんを呼んでくれた。

神楽さんが来るまでに、峰山を時影さんがお風呂に入れて…。


「なんで家にいるんだよ、橘…!」

「え、夕飯食いに」

「帰れ、寮に!」



なんという図々しい奴!



「…将也、とりあえず燈夜の部屋片付けとけ。泊まってくんだろ? 別にお前の部屋でもいいけどな」

「…はーい」


ゆー兄の命令により、俺は三階の燈夜兄の部屋へ。

俺が燈夜兄の部屋を人が休んで問題ない環境にすると、その間に来ていた神楽さんが峰山を治癒してくれていた。

…なんでも酷い穢れがなすりつけられていて、幾重にも『呪詛』が掛けられているんだって。

人間の感情が根幹を成す『呪い』の類は神楽さんの専門外で…解呪は不可能…。

『呪詛』がどんな効果を持っているかは分からないけど、少なくとも峰山を苦しめるのは間違いない。

穢れそのものは、峰山の“神子の神気”で浄化されているらしいけど…。


「時影、お前、飯は?」

「いえ…神子様がこの様な状態なので…」

「……」


とりあえず整えた燈夜兄のベッドに峰山を寝かせて、俺は風呂へ。

…衝撃だった……あと、すげー悔しかった…。

峰山は俺を魔王覚醒から救ってくれたのに。

俺は峰山になにもしてやれなくて。

それどころか…これからどう接していけばいいか分からない。

…ただ、謝らなきゃ…助けられなくて…ごめんって、それだけは言わなきゃ…!







「将也、時影にこれ持ってけ。あとあいつにも風呂入るよう言っとけ。…服は捨てて、俺の使っていい」

「…あ、わかった。用意しとく…ありがと…」

「…………」


風呂上がり、ゆー兄が時影さんへ夕飯を用意しといてくれた。

そういえば血塗れのシャツ姿だったな…時影さん…。


「…将也」

「……」

「…お前は俺より…色々な才能に長けている。…でも今までお前はそれに甘えて努力を怠ってきた。…今回お前が後悔する羽目になったのは…」

「分かってるよ。……分かってる……」



…ゆー兄に言われなくても、ちゃんと自分で分かってる。

俺は自分が、努力しなくてもなんでも出来るって思っていた。

頭がいいのも、喧嘩が強いのも、全部魔王の素質が齎したものだって知らなかったから…俺は何かに頑張るって事をしてこなかった。

……今日みたいに、魔王の素質に負けそうになったのだって…ゆー兄みたいに精神力を鍛えたりしてこなかったから…。


だから、俺は…峰山を助けてあげられなかった。








「時影さん、ゆー兄が一応腹は満たしとけってさ。あと、お風呂入ってきた方がいいって。着替えはタオルと一緒に用意しといたから」

「…、…すまぬ…そうさせて頂く。…その、某が湯浴み中は神子様を頼んでも宜しいか」

「俺が?」

「ああ」

「……う…うん…」


というか先に風呂行くのか。

…いきなり峰山と二人きりってのは結構ハードだな…顔合わせづらいのにー…。


「…迷惑ならば優弥殿に」

「いや! 迷惑とかじゃなくて!」

「……では何が?」

「……いや…だって…………その…何言えばいいか…わかんないし…」

「?」

「だ、だってレイプされた相手…ど…どう慰めりゃいいとか…」

「………」


謝るのは大前提だけど…けど、それ以外でなにを話して、どう慰めてあげればいい?

男が男にレイプされたとか…俺ならすぐ自殺したい。

峰山だって絶対どうしたらいいか、わかんないよ。


「その様な気遣いは不要だろう。神子様はこうなる事を先見で存じておられた」

「!? …知って…た?」

「ああ…だが……今日のこれは回避も出来ぬと仰せられていた…。未来にも変えられるものとそう出来ぬものがあると言う。…始めから覚悟されていた事だ」

「……そ……んな…」

「……もう行って良いか? すぐ戻る」

「…………」


俺をすり抜けて、部屋を出て行く時影さん。

…どえらい事、言い残して行きやがった。

…峰山が、知ってた?

先見の力は未来を見る力。

それは、知ってたけど…まさかこんな…。


「………」


知ってたなら、変えられたんじゃないのか?

こんな死ぬような怪我もしなくて済んだんじゃないの?

わかんない…こいつ、本当全然わかんない…!


「…ぅっ」

「!」

「……くっ…う…!」

「峰山!」


急に、峰山が胸を押さえて苦しみ出した。

ヤバい、まさかこれが呪詛?

肩に手を回して抱き起こして声をかける。


「峰山、しっかりしろ!」

「……あ…いっ………お…おのぐち…く…」

「大丈夫か?」


こくり、と小さく頷かれる。

…絶対嘘だろ…冷や汗かいてるし顔真っ青…息も荒くて苦しそう。



「………」



…笑っ……た?

なん、で…?


なんで…!



「…なんで笑ってんのか分かんない…男に犯されてなんで平気そうなの、お前…っ」


平気なわけがない。

平気なはずがない。

そんなの間近で見ていたんだから、わかっている…!

あんなに…!


「…知ってたから、わかってたからって…あんな!」

「……うん…でもいいんだ。時影も君も死ななかった…それが一番嬉しい…」

「っ…」

「……本当に良かった…」


そう言って、峰山は微笑んだ。

すごく綺麗に、柔らかく。

分からない…なんで、なんで…!?


構わないのに、辛いって…辛かった、怖かった、痛かったって、そう言えばいいのに!









「…それに…小野口くんが魔王にならなくて…良かった」

「!! …知って…」

「…うん…トリシェさんが君の側に居るのは君の中の魔王の素質を抑え込んでいるから…でしょ? …知ってるよ…最近ますます俺も力が増してしまったから…」

「………」


体勢を変えて、峰山は上半身だけ起こす。

俺はベッドに座って、それを手伝ってから…俯いた。

…そうか…峰山は、俺の魔王の素質の事、知ってたのか。

だから……助けてくれたのか…。


「……さすがにさ…自分が異世界の…魔王の血脈だとか聞いたときはドン引きしたんだけど…」

「うん」

「……そう言われればちょっと…納得しちゃうとこもあったんだよね……」

「……」

「………けど俺…魔王になんかなりたくない…人を殺すのは恐いし…殺したくない」

「それでいいと思うよ」

「そんな事が平気になるなんて俺は死んでも嫌だ…っ」

「うん…君は、魔王になんかならなくていい」

「っ…」

「君は君のままで居ていいんだよ…」


頭に回されたか細い腕。

怪我は治ってるけど、まだ手首には痕が残ってる。

…抱き締められて、背中を撫でられて…俺は、自分の方が慰められている事実に愕然とした。

この子はさっき、死ぬ目に遭った。

俺は助けてあげる事も出来ず、怪我を治してあげる事も出来ず、弱音も聞いてあげてないのに…俺の方が弱音を吐いて抱き締めて慰められている。

なんだ、これ…俺、なにやってんの。

抱き付いて、なに泣き出してんの…?

なに、しっかり慰められてんの?


「…小野口くん…でも聞いて」

「?」

「君には…でも、やっぱり…王になる素質がある」

「……」

「…君のその素質は……あの八草沙幸に引けを取らない。俺は…もうすぐ八人の王を選出する事になる。…その時、八人の中の一人には必ず八草沙幸を選ぶと思う」

「………は? …なに…それ…? だってお前…アイツにこんな…っ」

「…でも、もうこれも定まった未来…変えられない運命。…だから仕方ないんだ。…今日と同じ…どう抗っても無駄。……あのね将也……けど、どうか俺が君を…王にしようとしても……断っていいから」

「……?」

「…君には君のままでいて欲しい。だから…君は王様になんかならないで。魔王にも、王様にもならないで」




………魔王に…ならなくてもいい…。

…魔王にも王様にも…ならないで…。

……俺は、俺のままで………。




「将也…君は君のままでいて…」

「……陸…」







未来の見える、世界で一番清らかな神子が望んでくれた。

俺は、俺のままでいる事を望んでくれる人がいるという現実。

魔王になる未来を、変えられるという希望。

峰山陸は…俺の特別になった。










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