決められた未来。
納得なんか出来るわけもないし、俺が陸を諦められるわけもない。
だって俺は陸を、本当に、本当に大好きだから。
少しだけ、時期を夏に巻き戻す。
それは高二の夏休みになる前日。
終業式の日だった。
「あ…あの…小野口くん……ちょっといいかな…?」
「ん?」
たまたまオフの日で、午前中で帰れるし、もーさっさと帰って家でのんびりしようと思っていた。
そんな俺を引き留めたのは、真宮楽都。
同じクラスの不良、真宮徠都の双子の兄貴で生徒会長、峰山陸の親友だ。
学年で一、二を争う可愛い系の為、なかなかモテる(※男子に)という話を聞いたことがある。
生徒会長の峰山陸にはいつもお世話になっているし、峰山には那音姉を無理やりバイトで雇って貰ったと言う事で…そういうお世話にもなっています。
だから顔は知ってるし、いい子っていうのも聞いていた。
弟と同じ顔だが、柔らかい雰囲気のその子に呼び止められれば…まあ、峰山の友人だから無碍にも出来ない。
そんな急な用事があったわけでもないし。
「なに?」
「……あの…」
緊迫したような空気…これはなかなか体験ある空気……まさか。
「僕………小野口くんのこと…好き」
やっぱりー!
「……えっと…マジに?」
「……」
「…いや…俺…その、男は………ごめん…」
西雲学園は男子校。
そのせいか、多いんだよねぇ…。
俺はノーマル、ノンケ、女子が好き!
なので普段から「男無理」って宣言してるんだけど…減らないんだよね。
しかしまさか峰山の親友で、徠都の兄貴にまで告られる日が来るなんて。
「?」
しかし、丁重にお断りをした俺に突然現れた峰山陸がツカツカ近付いてきた。
そして、右ストレート!
「っ…? ? ?」
な…な?
殴られた…?
「りっくん!?」
「神子様!?」
「っ、なっ」
「小野口君…俺は君を過大評価していたよ」
「は…はい?」
「確かに贔屓目で君を見ていた部分があるのは認めるけれど…君が……性別だけで人間的感情を判断し否定するなんて…幻滅した。残念だよ。君に比べれば村久保の方がよっぽど人間らしいね」
「は…? な、なに言ってんの…?」
「分からないなら考えれば? ……楽都、行こう? 彼は君には不相応だったんだ」
「り…りっくん…」
「神子様…」
時影さんと泣きそうな顔だった真宮兄を引き連れて、俺を殴り文句言うだけ言って立ち去っていく峰山陸。
壁に寄りかかる。
頬が熱い。
頭上のトリシェが、クスクス笑う。
「何笑ってんだよ…」
『……いやぁ…優弥と那音を見て育った君があんな評価を下されるなんて面白いなって』
「…そりゃ那音兄は特別だったっていうか…反面教師だろっ」
『どちらにしても振られたのは君の方みたいだね、将也』
「……釈然としない…」
熱くなった頬を撫でながら座り込む。
殴られた意味が、まずもって分からない。
いや、峰山の親友を泣かせたからというなら分からないでもないが、そんなに悪い事をした?
自分の気持ちを素直に伝えただけじゃないか。
「………ムカつく……」
「見てたぞ」
「うわ、まじかよ…」
峰山がいなくなってから教室に現れたのは、今まさに俺が振った真宮の弟の方。
とんでもないブラコンで、多分、兄弟の垣根をあっさり飛び越えた意味合いで兄貴が大好きな変態…真宮弟、真宮徠都。
厄介な奴に…。
「…お前が殴られたとこなんか初めて見た」
「…油断したんですー……まさかあの峰山に殴られるとか、まさかじゃん…」
「まぁな…」
少し距離のある席に勝手に座る。
ギロリと睨み、なにか言いたげ。
…まあ、言いたいことは分かるけどね。
「なに、お前も俺を殴りたい? 悪いけど明日仕事だから殴られてやるつもりはないよ」
「殴りてぇのは山々だけど…てめぇの最低っぷりを見てたら殴る価値もねぇと思えてな」
「…………」
じゃあ睨むなよ。
と、言いたい。
…だいたい、俺だって好きで振ってるわけじゃない。
男と付き合うつもりがないから、男は無理って言ってるだけだ。
なのに勝手に気持ちを押し付けて、振ったら傷付いて泣いて…。
俺はちゃんと事前に予防線張ってんじゃん?
「…おかしいだろ…普通に考えてさ…」
「……」
「…俺は、女の子が好きなんだ…ちゃんと公言してる。迷惑なんだよ…俺だって……別に誰かを……」
頭を抱えて泣きたくなった。
俺は…ああいう顔が一番大嫌いだ。
俺の兄貴…次男はいっつも幼なじみにああいう顔をさせる。
想いを拒絶された相手の顔…そんな顔させたい訳じゃない。
ゆー兄がなんで那音兄…いや、今は女の子になってるから那音姉か……にあんな態度を取ってたのかは分からない。
ただ、いつもゆー兄の見えないところで那音姉が浮かべていた…あの顔を、俺は見る機会が多かったから…。
…あの、世界を呪うような、絶望しきったような…そして、疲れ切って、諦めているかのような顔。
あんなになるまでゆー兄を好きで居続ける必要なんかないと思う。
そのくらい、男同士の恋なんて絶望じゃないか。
それともあんな惨い真似を出来るのが魔王…だとでも言うのか…。
そりゃ、ゆー兄は結局那音姉しか見ていなかったけど…それでも…。
誰かに痛みを与え続ける…それが魔王の素質…?
覚醒していない、今の状況でこれなら…魔王に覚醒したら俺は一体どれだけの人間をあんな顔にする様になる?
…いやだ…嫌だ…!
誰かを不幸にして、あんな絶望しきった顔を笑って見下ろすようになるなんて絶対に嫌だ!
ゆー兄が那音姉をあんなに追い詰めていたのを俺は知ってて、嫌悪感すら抱いていたはずなのに!
願いを踏みにじり、嘲笑い、命をなんとも思わなくなるなんて絶対に、嫌だ…!!
俺は魔王になんかなりたくない。
「………じゃーな…」
「…………」
真宮弟が教室を出て行く。
…振る方だって、ヘコむんだ。
申し訳ない気持ちで罪悪感と、自分への嫌悪感でつらいんだ。
だから、そんな思いを互いにしなくて済むように…言っているんだ…俺は男は無理だって。
なのに…なんで告白なんかしてくるんだよ…。
『……将也…』
「…………」
『…全く…チャラいようで本当に真面目なんだから………』
校舎を出た頃、空はだいぶ真っ赤だった。
ああ…せっかく早く帰れる日だったのに…。
「いっちち…なぁ、やっぱ治癒してよトリシェ〜。明日の仕事に響いちゃう」
『そのくらい家に帰ってから冷やせばすぐ引くよ。あの神子殿はそこまで腕力強くないし』
「……神子? …ああ、そういえば時影さんとかトリシェって峰山の事そう呼ぶよな? なんで?」
『なぜって…彼は俺達神々にとても近い位置に居る人間なんだもの』
「相変わらず良くわかんねぇなぁ…もういいよ」
『へそ曲げないの。つまり彼と契約すれば神様にとって色々得なのさ』
「得って?」
『まぁ、あの霊力は魅力的だよね。あと先見の能力も希有で貴重なものだ。それに俺みたいな肉体の無い神にとってあの清廉な魂と身体は実に好ましいし、理想的だ。うぅん、本当なにから何まで非の打ち所がない』
「べた褒めですな…」
『…だからこそ彼は危険が付きまとうだろうね…俺達神々にすら彼は希少価値がある。人間からすれば、それこそ………』
「トリシェ殿!!」
『…ほら、やっぱり狙われた』
「……時影、さん?」
校門前で遭遇したのはさっき峰山と帰っていったはずの峰山の護衛侍。
俺、というよりはトリシェに用事らしい。
肩で荒く息をして、一呼吸おいてからガバッと顔を上げる。
「神子様が、結界に…!」
『いいよ、助けるの手伝ってあげる』
「え、あ…おい、トリシェ!!」
『将也、先に帰っていーよー』
「…かたじけない!」
「えー…!?」
ほとんど事情も詳しく聞かず、俺の頭から時影さんの肩へと飛び移るトリシェ。
…さすが救いの神…って納得出来るかぁ!
「あの馬鹿神…! お前と一緒じゃないと、ゆー兄に殺される!!」




