聖夜なんかクソ食らえ。
ホールに戻ると、陸がいなくなっておりました。
「あれ? 陸は?」
「一度家に帰るって。あんた何して…」
「そんなぁ! 陸ぅぅぅぅー!!」
理音のジト目から逃れ、パフェを持ったままレストランを飛び出す。
時間的にそろそろ女の子の出歩く時間じゃない!
っていうか俺を置いてくとか…!
「…やっと出て来た…」
「…………………」
扉の真横で完全防備の陸が時影さんと壁に寄りかかっていた。
すんげー睨まれる。
そして、後ろから誰かに蹴飛ばされた。
前のめりになってパフェを落っことし…!?
「…将也の行動パターン読まれやすいよね」
「橘てぇめぇ……」
いつの間に雪が積もっていたのか…。
おかげで顔面は痛冷たい。
しかしパフェは橘の手の上。
…こいつ、転移魔術で俺の手前に現れやがっただけで…蹴ったの絶対こいつだ。
「…一応神子のリクエスト通りお菓子作らせたよ」
「!?」
「うん、貰う」
橘から、俺の手作りパフェを受け取って…陸はその場で食べ始めた。
…う…うわぁあ…!
な、なんだろう…この感動…!
「……うん、普通!」
「………………」
…なんだろう…今、胸にグサリとなにか突き刺さった…!
「…と、とりあえず私からもクリスマスプレゼント…あ、あげるよ………」
「…う…うん…」
スプーンを銜えながら、陸が手に持っていた紙袋を俺に突き出す。
貰い物のお菓子袋…これ、西区駅前にある和菓子屋さんのだな。
中には紙に包まれたプレゼント。
出来るだけ丁寧に開くと白いマフラー。
「………」
…まさかの白…。
俺、白は似合わないってスタイリストさんにいっつも言われるんだよね…。
青とか紫とか黒とか、俺はそういう系の色担当だから…白って新鮮だな。
「……ありがとう…」
まぁ、いいや。
陸が選んでくれた色だもん。
首に回すと…結構長くて暖かい。
「えへへへへ…」
「………」
その後はさくさく、と陸がパフェを食べる音と、レストランの中から聞こえてくる騒音だけ。
街は人通りも少なく、真っ黒な空から雪がしんしん降り続ける。
漏れるレストランの灯りと、街路灯はなんだか幻想的。
っていうか…。
「寒くないの? っていうか、中入ろうよ」
「…………」
無視ですか。
…プレゼントを渡すだけならもう済んだんだし、食べるなら中に戻った方がいい気がする。
陸も時影さんも橘も、突っ立ってて寒くはないのかな?
俺は寒い…冬生まれだけど春先寄りだし。
っていうか橘に至っては屋根の外で、頭に雪が積もり始めているのですが……。
「…ねぇ将也」
「ん?」
パフェを食べ終わった陸が、俺を見上げる。
真っ直ぐで、綺麗な目だ。
あの日、俺を救ってくれた時と同じ…優しくて、少し恐いくらい澄んだ目。
「…私は来年、八草沙幸と入籍するから別れてくれないかな…」
……えぇと。
目を、少しだけ伏せて陸ははっきりきっぱりそう告げた。
多分、怒っていた。
いや、もう…俺があの男に抱く感情は怒りなんてものを軽く上回ってる。
――――憎悪。
言葉として、それが一番正しい。
「……それは……決められた未来?」
「…うん…」
「………変えられない運命?」
「……うん…」
未来が見える俺の彼女は、どう足掻こうと変えようがない未来をそう言う。
『先見』の力が見せる未来は必ずそうなるものか、変えられる可能性が半分くらいあるものかの二択。
だが陸の見る未来と言うのは、殆どが100パーセント決まっているもの。
神の奇跡でもない限り、変えられないもの。
「……陸は……俺がアイツを死ぬほど嫌いなのを知っていて…そう言う事を言うんだね。…俺が納得する未来とかも見えたりしたの?」
「…するよ。…というか…諦めてもらう。…君は足掻くけど、私は絶対に君のものにはならないからね」
「……俺が納得…するの? 俺が陸を諦めるの? …そんな事…」
「…だって君には未来があるもの…」
「…………」
笑顔…。
俺がずっと見たくて見たくて…でも一切見せてくれなかった…付き合う前の陸はいつも俺に見せてくれた…あの優しい笑顔。
今、浮かべられると…なんでだろう…、………くるしい…。
「…どういう意味」
「………。…麒麟の王が殺されて…その力を八草沙幸が手に入れた。間もなく世界を創った神様が復活する…。創世の女神はあらゆる命を水で流して殺してしまう。…でも、私がそれを止めて貰う」
「………どういう事…?」
少しだけ陸から表情が消える。
世界が危機に瀕してる…?
どうして世界を創った神様が、世界を滅ぼすような事を?
聞きたい事はあるのに…。
「…あのね、将也……神子っていうのは…人柱なんだよ。…私はこの世界を創った神様が、命を想う良心の部分が生み出した輪廻を司る神子なんだ。……神子が創世の神の器になる事で、世界は循環を取り戻す。…それが、私が生まれてきた意味で…役割」
「……それって…つまりどういう事…」
「………。……」
……いや…、俺はお利口さんだから…本当はちゃんと分かってる。
いつも頭の上にトリシェ・サルバトーレという英雄神を乗っけてるんだ…、…兄貴に、その神の器を24年やってた奴も居る。
ちゃんと、本当は分かっているよ。
「………消えるって事…?」
この世界を創った神様ってのが『光属性』『憑依型』でなければ、神の器にされた人間は人格を塗り潰されて消える。
トリシェに聞いたことがある。
『光属性』『憑依型』は珍しく、例えば同じ『憑依型』でも『火属性』とか『水属性』とかだった場合、その神の神格に人間の精神や魂は耐えられない。
もし、人間から派生した神ではない…例えば神楽さんたちみたいな神に連なる獣の一族や、神獣などならば、そもそも精神の作りが違うので破壊される事は少ない。
だが元々が同じ人間だった、人間から派生した神や、世界そのものである創世神の神格は…器の精神を破壊し、魂を圧迫して取り込んで喰ってしまう。
それでなくとも『光属性』『憑依型』のトリシェですら、燈夜兄の精神にあそこまで影響を及ぼしていたんだ。
人格こそ破壊はされていないが…成長もしていなかった。
「……うん…、近いうち…私は創世の神の器になって…この世界から消えるよ」
「……」
「それしか世界を創世神の憎しみから守る術がない。…麒麟の王、琥麒の死で…創世神は完全に人間という生き物を不要な害虫として判断したから…」
「…それは…アイツのせいじゃないか…! なんでアイツの為に陸が死ななきゃならないんだよ…っ! おかしいだろ…!」
「残念だけど先に琥麒との約束を破って、創世神からより多くの神気を摂取し始めたのは…人間が先なんだ。…うちの本家…世界中に散らばる、琥麒と約束を交わした一族の末裔が…彼が人間として転生の輪へ戻ると、その隙に約束に反して規定以上の神気を摂取し…人類を繁栄させる事に使ってきた。…彼はそれに気付いていたのに黙認し、人間を最後まで信じようとしてくれたんだよ…!」
「っ…!」
「…琥麒は…本当に最期まで私が創世神の器にならなくて済むように守ってくれた…。…でも人間は結局、もっと創世神から神気を奪うために…琥麒の魂を輪廻の輪へと無理やり送った…もう……彼女の怒りを鎮めるには神子という人柱しかない」
泰久の前で殺された、月科翔という一人の男子高校生。
世界を守ってきた麒麟の王…琥麒の生まれ変わり。
彼が死んだ日に、陸もまた…その命に期限が架せられた…と?
そんな…そんなの…!
「…そんなの…納得…いくわけが…!」
「あのね、将也…私は君が…大好きだったよ」
冷え切った右手に、手が重なる。
とすん…と陸が俺の胸に頭を押し付けて、とても残酷な事を言う…。
「だから私は将也の為に…将也が生きて幸せになる未来の為に死ぬ。…将也……大好きだったよ…」




