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毒デレ!  作者: くらげなきり
16/86

俺なりに頑張ってお菓子を作ってみました。





「………嘘だろお前…マジかよ…」



ゆー兄の呆れたような、絶望したかのような声。

その隣からは、神楽さんの作ったクッキーが出来上がる音。

オーブンの蓋を開けて取り出されたそれは、見事な仕上がり。

あれ、ちょっと待って…なんで?

だって神楽さんと俺、全く同じ材料で全く同じように作って、全く同じ時間、焼いたのに…。


「…出来たぞ優弥」

「ああ…」

「…将也は何故しじみのようになっているんだ?」

「…さぁ…全く分からん…」

「………………」


なんで神楽さんも一緒に作ってるかって?

この人は今、赤ん坊育ていて、優那が大きくなったら絶対料理が必須になるとわかってるから最近ゆー兄に色々習ってるんだって。

神楽さんはゆー兄に魔法や魔術を教えて、ゆー兄は神楽さんに料理を教えているという訳。

いや、それは今どうでもいいんだけど…。

俺が作ったクッキー…神楽さんがしじみと例えたが、実に的確です。

黒い小さな消し炭は…確かにぱっと見るとしじみだ。


「分量か…? けど生地は神楽と同じの使ってたよな…?」

「…ああ……だが大きさは将也の方が小さくコロコロした形だった」

「…将也…お前余計な工夫するな…」

「……すみません…」


食べやすい様にって思ったからの工夫だったけど…それがいかんかったのか。

がっくり項垂れると、神楽さんが肩を叩く。


「もう一度作ってみればいい。俺も付き合う」

「神楽さぁん…」




という訳でワンモア。




「………これはなんかの呪いか?」

「…うぅむ…」

「…母さんとは…血とか繋がってないはずなんだが…」

「……………」


ゆー兄が本気で首を傾げる。

今度は神楽さんと同じサイズの同じ形にしてみたのに…なんか俺のだけ溶けて液状化しているんですけど、どういう事?

…因みにゆー兄の言う「母さん」とは小野口の母さん…金で雇われた偽物の母さんの事。

新薬研究者だった母さんは、栄養価重視で味など全く気にしない人だった。

その為、彼女の料理は料理というかただの栄養剤。

当然、味というよりは薬品。

…ゆー兄が命の危機を感じるレベルの不味さ。

あまり帰って来ないのも相俟って、ゆー兄の料理レベルはガツガツ上がっていくのでした。

…じゃ、なくて…。


「…神楽のは普通に出来上がってる…な?」

「食べてみるか?」

「……、…うん…普通に美味い」


パムッ、と綺麗な音をたてて割れたクッキー。

甘いの苦手なゆー兄が美味いと言うのだから、神楽さんのクッキーはお店で販売出来るレベルの味なんだろう。








「…別なお菓子にしてみてはどうだ?」

「いや…正直クッキーが作れない奴が他の菓子を作れるとは到底思えないんだが…」

「そうなのか? クッキーは簡単なのか?」

「そりゃ…小麦粉と卵と砂糖とバターで出来るしな…」

「…パンケーキとか」

「…あれは火を使うから…将也じゃ焦がして終わりな気が…」

「お前が見ていてやればきっと大丈夫だろう?」

「………」


神楽さんが優しく言うと、ゆー兄は押し黙ってしまう。

それより俺はクッキー液状化現象がなかなかにショックでした。

焼いてて液状化ってどゆ事…?





…パンケーキ、チャレンジ開始。





「…ほらな、予想通りだろ?」

「最初から上手く出来る者は少ないだろう? 諦めるのは、早い」


と、フォローしてくださっている神楽さんは…もう五枚程美しい円状のパンケーキを焼き上げて生クリームで飾り付けの最中である。

ベリージャムとイチゴ、さくらんぼを乗せ、生クリームの上にはミントの葉。


「…お前、本当に一発でなんでも上級者並だな…」

「そうか? しかし俺は甘味以外、味見出来んからな…」


説明しよう…神楽さん達、幻獣ケルベロス族は甘味以外の固形物は成獣になると食べなくなるんだそうだ。

橘はもう固形物を摂取しなくてもいい年齢に近いくせにメッチャ食うが…あれはそういう呪い持ちなんだって。

成獣になったケルベロスは水さえあれば数百年何も食べなくても良いという燃費の良さ。

ただし甘いものは別腹。

…変な生き物だよね…。


「………」

「…そうだ、優弥…パフェなどどうだろう? あれはグラスに色々乗せればいいのだろう?」

「…パフェか…確かにそれくらいなら将也如きにも作れるかもな」

「ほ、本当に!?」

「まぁ、材料乗せてくだけだからな…」





という訳でパフェにチャレンジ!





「いっそ清々しいまでに…料理の才能がお前には欠如しているとしか思えないな…」

「…………」

「大丈夫か? 神楽…」

「…うむ…甘味は嫌いではない。ベタベタするだけだ」


パフェグラスにコーンフレークを注ぎ込むまでは上手くいってたのに…チョコレートソースを使おうとしたら握り過ぎて中身を神楽さんにぶちまけてしまった。

ゆー兄に殺される…! …と、思ったけど…思いの外、二人とも冷静に呆れかえっていた。

ペロペロと頬についたチョコレートソースを指で掬って舐める神楽さん…赤い舌がちろちろと……ちょっとエロい…。


「………」

「………」

「……、…どうした? 二人揃って」

「……いや…」

「べ、別に…」


ゆー兄共々顔を逸らす。

なんだか目の毒だなこの人…。









「…そうだ、将也」

「は、はい?」

「一緒に作ってみるか? こうやって…」

「…っ!」


後ろに回った神楽さんが、俺の手に手を重ねてくる。

まさか、一緒に作るって、このまま…!?


「分量や力加減は俺が手伝う。それなら、失敗しないだろう」

「……………………」

「……どうした?」


チョコレートの甘ったるい匂い!

身長的に俺のが高くなったけど、そこまで差はないから耳元に吐息がかかる…!

大体背中への密着度も変わらないし…!

ギ、ギ…とゆー兄を見上げてみると…ああああああああああああ…!

やっぱりスッゲェー顔で睨んでるぅぅぅぅぅぅ…!!


「…神楽」

「ん?」

「……これは将也が一人でやらなきゃならない事なんだ。神子殿の為に作ってるんだからな…」

「………そういうものなのか?」


必死で頷く俺。

もしこのままの状態でパフェを作って…それが上手くできたとしても…!



間違いなく、ゆー兄に殺される…!!



「…分かった…失敗しても俺か橘が食べるから大丈夫だぞ、将也。頑張れ」

「………うっ…うん…っ」


必死で頷く俺。

もう、最近ゆー兄のキレツボが理音や那音姉だけじゃなくトリシェや神楽さんにも及んでて…なにでスイッチ入るか分かりゃしない!

こ、恐すぎるよー…!


「…将也も、頑張り屋で可愛いな」

「……………………………………」

「…(ヒィィィィイイイ…!!!!)」


那音姉もだけど神楽さんも天然だから…ゆー兄のこの怒りのオーラに気付いてくれない!

何故!? 王獣種って感情を匂いで嗅ぎ分けるって橘は言ってたのに!

橘より強い上位兄の神楽さんがゆー兄の、このおぉ恐ろしい殺気に何故気付いてくれないのーぉ!?


…怯えながらパフェを作り続ける。

ぷるぷる震えながらチョコレートソースをコーンフレークの上にかける。

神楽さんがイチゴを細かく切り分けてくれて、それを重ねていく。

生クリームと、イチゴ、チョコレートソースをかけて……。


「で…できた…っ!」

「おお…!」

「やったな将也!」


できた…!

やったぁ…俺ちゃんと料理作れたぁ…!

…料理ってゆうか…まあ……既存の材料を乗せていくだけなんだけど…でも…!


「…はぁ…なんか長かったな…」

「…うむ」

「ほら、将也、神子殿に食べさせてやるんだろう?」

「うん、うん…! 行ってくる!」



パフェスプーンと、作りたてのパフェをお盆に乗せて陸のところへ持っていく。

陸、陸…喜んでくれるかな…?








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