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毒デレ!  作者: くらげなきり
15/86

プレゼントを忘れていました。




「プレゼントといえばー、那音お姉さんからみんなへクリスマスプレゼントだよー! じゃっじゃあああぁん!」


「なっ」

「!?」


那音姉がキッチンから持ってきたのは超巨大なクリスマスケーキ。

その幅、推定一メートル。

でかいでかい! そしてなんじゃあのデコデコはーっ!

なんかゆー兄風と那音姉風の砂糖人形が白タキシードとウエディングドレスで並んでますがまさかあぁっ!?


「優弥にはコレ!」

「…ああ…じゃあ、俺も……って……」


ケーキは優しくスルーしたゆー兄だが、手渡された紙袋。

そこからゆー兄が取り出したのは一冊の分厚い冊子。


「まさか…っ!」

「そう! 作ったんだー! 優弥がOKしてくれたから自費で!」

「…なぁに? 那音それ?」

「うへへへへへへ…優弥の写真集だよ!! おれが撮り溜めた優弥の選りすぐり写真を集めたこの世界で二冊しかない、全ページ優弥のおれによるおれの為のおれの優弥の写真集!! ずっと作っていいかお願いしてたんだけど、この間やっとお許し頂いたんだよねっ!」

「…そう…。……大変ね、優弥…相変わらず」

「…………………」


ゆー兄が明らかにへこんでいる…!

写真集って…自費でゆー兄の写真集作っちゃったの…!?

それ貰っても本人はそりゃへこむよ…那音姉!


「写真集か…! 俺も陸の撮り溜めた写真で作っ…」

「空兄もう俺のアルバム十五冊も作ってんだろーがっ!」

「写真集とアルバムちゃうやろ!」

「黙れ! 本当に作ったら一生口を利かない!」

「がぁぁぁん!」



…効果音を自分で言った。



『えー、いいなぁ! 見せて見せて!』

「いーよー! 」

『………優弥カッコいいよねぇ…惚れ惚れしちゃうよねぇ…!』

「トリシェなら絶対わかってくれると思ったよー!」

「…………」


頭を抱えたゆー兄。

トリシェと那音姉は基本、ゆー兄が大好きです。

那音姉は…まぁ…、…物心ついた時からゆー兄とのご結婚を前提にストーカーでしたから、それは分かるんですが。

トリシェの場合、クローンとして俺たち兄弟を誕生させる為に、二千年近くの年月を費やしていた。

たった一人の赤ん坊…そのクローンの誕生。

なんでもゆー兄はオリジナルの赤ん坊の…魂と器が揃って生み出せた存在なんだって。

だから微妙にトリシェはゆー兄贔屓なところがあるんだよ。


「っていうか橘、なに食べ始めてんの!?」

「え、食べていいんじゃないの」


理音の声にケーキを見ると、いつ来たのか橘がフォーク一本でケーキを削っていやがった。

いや、切り分けろよ! ケーキナイフが添えてあるんだから!


「みんなで分けるに決まってんだろ!」

「えぇ…? だって将也とか優弥とか燈夜は甘いの嫌いじゃん」

「甘党のが多いんだから独り占めしてんじゃねぇつってんだよ!」

「…あ、大丈夫だよー、理音!」

「…へ?」








別な空いているテーブルに、那音姉は新しい…同型のチョコレートケーキを持って来た。

二つ目…、だとぉ…!?


「ケルベロスってみんな甘いお菓子が大好きだから頑張って五個くらい作っておいたから!」

「まだあと三個もあるのぉ!?」

「さすが…」

「刹那と神無も来ると思うから、たくさん作ったよー」

「よく作ったわね…」

「そりゃ、一昨日から準備してたしな…」


恐ろしいな那音姉!

甘いの苦手な俺からすると、もう匂いからしてつらい…!


「…甘い匂い…うぇ…」

『…しかし優弥も燈夜も将也もなんで甘いもの苦手なんだろうね…? アーサーもラナもむっちゃ甘党だったのに…』

「さぁな…」

「トリシェさんは甘いのどうなんですか?」

『生前はほどほど…かなぁ。…さすがにココアに角砂糖五個とかはないよ』

「…うぇ…」


いつもテンションの高い燈夜兄がげっそりしとる…、気持ちは分かる…。

しかしどうやら俺たちの本当の両親はひどい甘党だったらしい。

…ココアに角砂糖五個とかアホじゃないの。


「いっぱい食べてね、神楽!」

「ああ…ありがとう、那音」

「…………」


切り分けたチョコレートケーキを差し出して、可愛く首を傾げ見上げる那音姉は本当に可愛い。

そんな可愛い那音姉に見上げられた神楽さんも柔らかく微笑んで、お皿を受け取った。

ゆー兄のもの凄く複雑そうな顔…。

む、無理ないよね…うん、分かるよ…ゆー兄…。








「……………」


「……。…将也」

「ん?」



イチゴを銜えながら近付いてきたのは橘。

俺はと言うと、ゆー兄の作ったデミグラスソースのオムライスを頬張っている最中。

だってお腹が空いたのです。

で、橘に頭を殴られた。


「痛っ!? なにすんだっ」

「…デリカシーは…ラミレスもなかったけどさ…」

「は?」

「……この世界の文化的には、今日はなにかを人にあげる日なんだろ…? 神子になにか用意とかしてんの?」

「………」


隣にどかりと座り、半目で睨んでくる橘。

その言葉に、オムライスを噛まずに飲んだ。

目の前は真っ青なのに頭の中は真っ白。

しかし直ぐに記憶を漁ってみる。

俺のここ二週間は仕事仕事で、プライベートはトリシェを助けに行った三時間ばかり…。

嫌な汗が…じわりじわりと全身に溢れてくる。

確かに忙し過ぎて買い物に行く時間は…なかったけど…!


「………。そうだろうと思ったけどね…」

「……………」


一気に食欲が引いて、焦りでちょっと目眩がした。

血の気がどんどん引いて、しかし心臓はバクバクバクバク凄い脈打ってる。

ヤバい、ヤバいヤバい…!

なんというか、俺とした事がもう…完っ全っに忘れていた…!

毎年毎年クリスマスは特番だのライブだのでプレゼントを誰かに渡すとか貰うとか…ないから…!

ってそんな言い訳通用しない。

時計は18時…今からデパート…いや、間に合う…!

で、でも何を買えば…っ!?


「…ちなみに神子は手作りのマフラーっぽい。匂いから推察だけど」

「ヤベェェェェェ…っ」


小声で橘が教えてくれた内容は、嬉しさで走り出したくなるようなものなのだが…自分は何も用意していないので、反動により完全にスプーンを落とした。

だって手作りだよ、手作り!

マフラーって事は少なく見積もっても1ヶ月前くらいから用意始めてくれてたって事でしょ!?

お、俺死ねば良くね…!?


「…で、俺的にはこの危機を簡単に回避する方法として…」

「なに!? なにかいい考えが…!?」

「…なにかお菓子作れ。ここレストランだし、キッチン借りればすぐ作り始められる。優弥とか那音みたいな料理上手い奴も居るんだし…家事できないからとか言ってる場合じゃないんだから腹括れ」

「…………っ…」

「…神子、いつ渡そうかずっとそわそわしてるから…あんま時間ないよ」


はっ、と…橘越しに陸を見る。

紙袋を膝に乗せたままオレンジジュースを飲みつつトリシェの相手をしている様だ。

…つまりあの紙袋が俺へのプレゼント…?

もうなんか準備万端じゃぁねぇかぁっっ!







「…やります…」

「うん、がんばれ。…オムライスは俺が食べておくから」


もう食べられなくなったオムライスを橘に託し、俺はすぐさまゆー兄の所へ(陸に見つからない様に)向かう。


「じゃ、優那の事はこのまま神楽が、この世界で育てるつもりなのか?」

「俺は今のところそのつもりだ。最近ようやくミルク作りもマスターしたぞ」

「…未婚どころか人間ですらないお前が人間の子育てか…大変だぞ?」

「そうだな、大変だな。…しかし、これの母親を殺したのは俺だからな…」

「……」


梅松さん、神楽さんとお酒を飲みながら、少し真面目な話してる…。

神楽さんは赤ん坊にミルクを飲ませながら、その時の事を思い出している様だ。


『優那』というのは、神楽さんの実家…幻獣ケルベロス族の住まう世界から、那音姉が連れ帰ってきた女の子の赤ん坊。

神楽さんの世界は、人間と竜と幻獣ケルベロスが互いの領域に立ち入らない事で平穏を保っているらしい。

しかし優那の両親は、その領域を犯したが為に竜に喰い殺された。

優那もまた、その時に命を落としたが、トリシェが憑依する事で息を吹き返し、両親の死を招いた神楽さんが引き取る事になったのだ。


…ちょっと真面目なお話中みたいだけど…俺も真面目な話…どん底気分なので土下座してお願いします。



「あ…あの…ゆー兄…」

「………なんだ…?」

「…なんでもいいから…お菓子の作り方を教えて下さい…!」





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