グラドルの友達が出来ましたが俺は彼女一筋です。
葛西さんにトリシェの寝床箱を預け、特番収録が開始された。
長々と収録したのに、編集で二時間、三時間になるんだから悲しい仕事だよね。
21時半から始まった収録も日付が変わる頃には一度休憩が入った。
…俺…鳴海ケイトはクールキャラなのであまり喋らなくてもいいんだが、結構際どいフリがくるから結構ツラいな。
と、那音姉からメールが来てる?
frm 那音姉
sb by理音より
小野口のおじさんが燈夜くんに会いに来て、トリシェさんの居場所知りたがってたから教えたよ。
そっち行くかも。
だってー。
………えぇぇー……理音…那音姉越しにメールー…!?
…っていうか父さん?
なんで今更…大体、あの人はトリシェより俺ら兄弟に関係のない一般人だったって聞いたけど…。
あ、陸からもメールきてる!
frm 陸
sb (non title)
洗濯物、送って。一週間も汚い。
「……………」
…心優しきマイエンジェル…心配してくれてありがとうございます。
でも、葛西さんが下着とか買ってきてくれるし、収録中にコインランドリーで洗ってきてくれたり、収録は衣装あるし…収録上がりには楽屋でシャワーも浴びれてるから…き…汚くはない…よ……。
「ケイトくん、ケイトくん」
「はい?」
メールを返そうとしたが、俺同様ゲストで呼ばれていた俳優の上條ヒカルさんに呼び止められてしまった。
映画で共演して、来春からコンビ刑事のドラマの共演も決まってて…最近よくセットにされるんだよね。
「行ったよ、お兄さんのレストラン」
「あ、ほんとですか? 美味しかったでしょ?」
「うん、いや…本当にあれはなかなかどうしたもんか……高級ホテルの料理と言われても納得だねぇ。…お兄さん海外修行とか行ってた人?」
「全く。日本から出た事もない人です。…駅前の個人経営レストランでバイトはしてたみたいですけど…」
「本当? 凄いね、料理の天才だねぇ」
「…いやぁ…どうなんですかね…。…元々、母親が全く料理出来なく……」
むしろ自分が美味しいと思ったものを味の方向性が全く違うものでも無関係にガン入れした…料理とは呼べないものを生み出す人だったから…。
「……生きるために料理を始めたって言ってましたからね……」
「そうなの?」
「あと、僕が小さかったので」
「そう…。優しい、いいお兄さんなんだねぇ」
「はい」
その分おっかないお兄さんでもありますが。
「収録再開しまーす!」
「…おっ、再開か…いやぁ、おじさんにはこの長い収録つらいねぇ」
「またまた…」
「…ところで、ケイトくん」
「?」
「今度、僕の友人が主催する舞台、出ない?」
「は…い?」
…俺、小野口将也…芸名、鳴海ケイトは…どうやら歌手より俳優業にその適性が高いらしい。
翌朝、五時。
ようやく特番収録が終わると、なんでか沙上さんが迎えに現れた。
「あれ、葛西さんは?」
「病院。神社の階段で突き飛ばされて、足踏み外したんだって」
「えええええー? ……大丈夫なの?」
「ああ、命に別状はないみたい。明日には退院するってさ」
「何やってんだか…」
神社って峰山神社だよな?
トリシェを連れてって、その時か…、なんたるドジ…。
でも、突き飛ばされて?
誰に?
「日頃、直や将也にいたぶられてたおかげで頑丈らしいな」
「あはは」
思わず眼を逸らす。
だってあれは…ねぇ?
「っていうか突き飛ばされてって…誰に?」
「…あー……ってか、お前が葛西に頼んだ箱? あれ何入ってたんだ? 貴重品?」
「…貴重品…っちゃー貴重品だけど…なんで?」
神様が入ってます、ので、貴重品といえば貴重品です。
「…そっか…どうすっかな…」
「え、何?」
「…盗まれたんだとさ、その箱。葛西を突き飛ばした奴に」
「………………」
…ぬ…………………ぬ…?
「盗まれた!?!?」
「けど夜時間だったから罪にはならねーだろ?」
「――――!?!?」
説明しよう!
夜時間というのは四方市の特例法で22時〜翌3時の間、市内の公共施設や公共の道路等で起きた“ありとあらゆる犯罪”は全て“自己責任”とされ罪にはならない――というもの。
それは窃盗、傷害のみならず殺人にまで適応される。
市民はその時間帯を『夜時間』と呼ぶ。
その時間帯に出歩く者は基本的に…恐ろしく強い。
勿論、俺は強いので夜時間でも負けません。
なぜこんな法令があの街で成立しているのかと言われると困るけど…。
「いや、でも神社の階段だったら峰山神社の私有地だし!」
「…あ、そうか…じゃあやっぱ警察届けとくか?」
「峰山神社に帰っ…」
「将也、悪ぃけど次の仕事もテレビなんだよ」
「いやあああぁっ!」
結局、テレビ局に警察の人がわざわざ来て…俺は被害届を出した。
ヤバいヤバいヤバい…トリシェが攫われたとかマジ洒落んなんない…!
…ゆー兄にバレたら……殺される…!!
でもさすがに警察の人に『30センチ台の小箱の中にはぬいぐるみの父親が入ってます』なんて言えるわけないし…!
「ケイトくん顔疲れてるけど大丈夫ー? ってあせびは聞いてみるの」
「はい…」
「そっか、良かったー」
いかんいかん、一応収録中だ。
えっと…この爆乳美少女は確か…グラドルのあせびさん…だっけ。
グラドルって割とタカビーなのが多いけど、あせびさんって清純派で売ってる人らしい。
年始用特番だから着物姿で…帯の上に乗るKカップ爆乳がなんていうかさすがです!
「ケイトくん、あせびと同い年だっけ? 十八歳? ってあせびは聞いてみるの」
「いえ、自分は早生まれでまだ十六です」
…一つ上か…学年的に。
…恐ろしい世界に居たもんだな…!
「そっかー、じゃあ高校二年生かぁってあせびは納得してみるの」
「あせびさん、受験じゃないですか」
「うん、でもあせびは大学内定したから大丈夫なんだーってあせびは説明してみるの」
「そうなんですか、おめでとうございます」
「あ、じゃあ一緒に明けましておめでとうございますってぇ」
「は…はぁ」
…まあ、正月の特番だからね。
「って言うかそこー! アイドル同士で何盛り上がっとんねん!」
「えー、だってイワシさん全然あせびたちにお話振ってくれないんですもーんってあせびは拗ねてみるの」
「僕、番宣出来たら割とそれでいいので」
「若者がおっさんを年始早々苛めるー!」
ドッ、とスタジオに笑いが巻き起こる。
その流れで俺は番組宣伝をさせてもらい、また更に収録は続く。
…そろそろ陸不足で死にそう。
楽屋に置いてあるお弁当は豪華なんだけど、陸の作るご飯が懐かしい。
「………」
そして何よりトリシェが心配過ぎる。
トリシェになにかあるイコール…俺がゆー兄に殺される…!
…いや、純粋にトリシェになにかあるってのも心配だけど…!
「……はぁ」
「ケイトくん溜め息深いねーって、あせびは聞いてみるの」
「…あ…いや…」
やけに絡んでくるな、この人。
アイドルとグラドルであんまり絡むと変な噂になるって。
…………。
俺とグラドルが噂になる→うっかり週刊誌に書かれる→彼女から「お似合いだね」とか言われる……。
「…っ…」
「? なんで顔面蒼白になるの? ってあせびは聞いてみるの」
「い…いえ………」
「…よっぽど手持ちの神様が心配なんだね、ってあせびは指摘してみるの」
「…え…?」
凝視すると、彼女はにんまり笑う。
「お兄様からの伝言を伝えるね」
「お兄…?」
「南区の港第二倉庫。今すぐ来ないなら殺す。…ってあせびはちゃんとお仕事をしてみるの」
「………………」
よぎったのは兄、優弥の阿修羅なお姿。
もう刀を携え、背後から赤黒い妖気を放ち、眼を真っ赤に光らせている(※将也さんのイメージです)
あ、うん…、…俺、もう明日の陽の光は見られないかもしれない…。
「あせびは馬酔木…情報屋だよ。…妖刀使いのお兄様にはいつもご贔屓にしてもらってるんだ。弟クンも、良かったら今後ともよしなにしてねってあせびは宣伝してみるの」
「………………」
ウインク付きで告げられた衝撃的事実。
えっと…つまり、それって…ゆー兄が夜時間で贔屓している情報屋だったって事…!?
グラドルのあせびさんが…!?
「あとでメアド交換しよーねー! ってあせびは叫んでみるのー!」
「ーっ!」
本当に言葉通り大声で叫びセットに戻っていくあせびさん。
共演者たちの「え?」という顔!
変な噂はお互い困るであろうというのにー!!
「…っすみません! 僕、次の現場に呼ばれてるみたいで…」
「え? 聞いてないよ?」
「はい、なんだか時間が急に早くなったらしくって…急いで移動して欲しいと留守電が入ってて…」
プロデューサーさんや各位にご挨拶してスタジオを出る。
番宣も終わっているし、年末年始の番組は目まぐるしいのでレギュラー以外は結構融通が利く。
でも、よい子は真似しないでね。
次の現場は二時間後か…、ぶっちゃけ隣町から四方市の南区まで二時間じゃ無理な気もする。
でもトリシェの居場所が分かった。
どんなルートなのかは分からないけど、ゆー兄まで動いたとなれば俺が動かない訳にはいかないっしょ。
待ってろ、トリシェ…すぐ助けてやる!
今度は、俺が…!
「まーさや」
「ぐぇ!」
着替えてテレビ局を出た途端、沙上さんにとっ捕まった。
葛西さんの代わりに俺のマネージャー代わりをやってくれる事になったんだから当たり前だ。
「お前なに勝手に切り上げてんの」
「い、行かせて沙上さん…! 俺、トリシェを迎えに行かなきゃいけないんだ!」
「親の死に目に合えないのがこの世界だ。分かってんだろ?」
「だったら今すぐ辞めます!」
――トリシェは…、俺の一族が苦しめて苦しめて…そして命まで奪った。
命まで奪った挙げ句、殺した後も利用され続けてたって。
ゆー兄贔屓なとこあるけど、でも…俺の事もちゃんと考えてくれてる…家族だ。
「…だって、俺…トリシェが居なきゃ…きっと…」
そんな風に誰かを苦しめ続け、人間の負の感情や命を喰らい力と変える魔王。
俺は魔王になんかなりたくない。
俺の魔王の素質を無条件で抑え込めるのは、トリシェだけ。
「俺は親父とスペシャル仲悪いから、その気持ちは分からんな」
「………」
「…………、…次の現場、特別にこの砂雪テイト様が繋いでおいてやるから…行ってこい」
「……沙上さん…!」
溜め息つきつつ、俺の背中を押してくれる沙上さん。
くぅ、格好いー!
砂雪テイト(沙上さんの芸名)になった沙上さんは最高にホストだから現場騒然間違いなしだね!
「ありがとう! 行ってきます!」
これで何も気にせず助けに行ける。
待ってろよ、トリシェ!




