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第六話

 カルロはつぼみがいる窓の前に駆けてくると山登りで疲れ切ったのかその場に座り込んでしまった。

「はあはあ。大丈夫みたいだね。よかった~」

 つぼみは不思議そうに首をかしげた。

「大丈夫って?」

「こっちで叫び声が聞こえたんで飛んできたんだよ。なにかあった?」

 するとつぼみは目をこれでもかというほど開き、驚きを隠せなかった。

「? どうしたの?」

「ま、さか…そのためにここに来たの?それだけのために…」

 こんどはカルロが驚いた顔をした。

「それだけって…そりゃ叫び声が聞こえたら何かあったのかもって思うよ。ここには君しか人はいないって前に聞いてたし」

ドッォォォッォォン

 突然、銃声が山に鳴り響いた。

 二人は同時に聞こえた方向を振り向いた。見るとちょうどカルロが来たあたりに男が立っていた。手にはまだ煙が出ている猟銃を持っている。

「誰だ!?」

 カルロはとっさにつぼみの前に立った。

「なんだ?ここには化け物が一匹いるだけだと聞いてたのに人間のガキが二人いやがる。まあいいや。どうせ誰も見たことないんだ。おまえらの死体を化け物としてもちかえるとすっか!」

 そういうと猟銃をこちらに向けた。

「くっ!」

 カルロは印を結び男に向けた。しかし次の瞬間目の前が真っ白になった。

「ひー!化け物ー!」

 (え…?)

 白いものの向こうで男の悲鳴が聞こえた。

(化け物って、どこに…)

 その白いものはよく見たら羽だった。初めてカルロが見たときのままの、美しい白銀の翼だった―。

 カルロが顔を上げるとさっきまで窓にいたつぼみが目の前に立ち塞がっていた。

「殺し屋さん。ここはあなたの来るべきところではありません。いますぐ立ち去ってください」

 つぼみのその淡々と告げる言葉には感情というものが感じられなかった。

(つぼみさん…この状況下で、怖くないのか?)

「う、うわああああ!」

ドンッドンッドンッ

 あまりに動じないつぼみに逆に恐怖を覚えたのか狂ったように叫び撃ってきた。

「つぼみさん!さがって!」

 しかし、カルロが言い終わらないうちにつぼみは男に向かって走り始めていた。

キンキンキン

 男が放った弾丸は、つぼみの足元に落ちていた。

 つぼみの手には剣が握られていて、今、男の首元にその切っ先が向けられていた。

「立ち去ってください」

 再びつぼみは感情のない声で男に告げた。

 対する男のほうは弾丸を剣で防がれ、恐怖だけが体を支配していた。

「ひっ!ぎいゃゃゃゃー」

 男は猟銃を放り捨て、転がるように山を下りていった。

 一部始終を見ていたカルロは立ちつくしたまましばらく動けなかった。

「大丈夫?」

 つぼみの声でようやく動けるようになった。

「いや、君こそ大丈…うわ!」

 振り向いたつぼみの腹部には血がしたたっていた。

「君が大丈夫じゃないじゃないか!弾が当たったのか。ちょっと待ってって!今雨月を呼んで…」

「平気」

 つぼみはそういうと屋敷のほうへ歩き出した。

「ちょ!歩き回っちゃ危険だよ!とりあえずここに寝て!雨月呼んでくるから絶対動いちゃだめだ!」

 つぼみは立ち止りカルロをしばらく見つめた。

 そして困ったように微笑むと

「じゃあ、早く治るところに連れて行ってくれる?」

 と、森のほうを指差した。

「森に、早く治るところがあるのか?」

 つぼみはうなずき歩き出した。

「あーちょっと待って!歩き回っちゃ危険だっていっただろ?」

 と言うとカルロはつぼみに背を向けしゃがみこんだ。

「…何してるの?」

「その場所まで運んであげる。だから背中におぶさって」

 つぼみは目を見開いて驚き、しばらく目を泳がせていたが、カルロに「はやく」と言われおそるおそるその背に身を任せた。

 カルロはつぼみが乗ったのを確認するとそっと立ちあがり、森へと歩き出した。


 しばらく二人は時折つぼみがどこへ行けばいいかを指示する以外無言で進んでいた。

 辺りはまっくらでただ木が生い茂るばかり。

「…つぼみさん」

「なんですか?あっそこ右です」

「はい。いや、ずいぶんと何もないところなのだなと思って。こんなとこであなたは怖くないのか?」

 つぼみは少し時間をかけて「慣れた」と答えた。

「あなたこそ、怖くないの?」

「はは。ちょっと怖いな。あまりにもここは何もなさすぎだから」

「ちがう。私よ」

「え?」

 カルロは歩く足を止めてつぼみのいる背中へと顔を向ける。

 つぼみは顔を隠すようにその視線から顔をそむけ続けた。

「あなたは私を見て怖くないの?普通の人は逃げていくわ。さっきみたいに化け物って…」

「君はあの人たちになにかした覚えはあるのか?」

 つぼみはその言葉に怒りを覚え、

「あるわけないでしょ!?あっちから勝手に来るのよ!そりゃ最初は仲良くなりたくて話しかけたけどもうたくさん!あんな人たち!なにも、何もしてないのに!な…ん…で…!」

 声を荒げ昔のことを思い出したのか途中から言葉に詰まりながら泣きそうな声を出した。

 カルロは耳元で叫ばれ少し頭がくらくらしたが、その泣きそうな声に見えないと分かっていたが優しく微笑み、「僕はね」と続けた。

「初めて君とあったとき、さっきのように翼が背にあったでしょ?その翼を見て、とても綺麗だなって、思ったんだよ」

「うそ」

「うそじゃないよ」

「うそうそうそ!だって!みんなこの翼を見て逃げてくのになんで…」

「あ!もしかしてあそこ?」

 カルロはつぼみの言葉をさえぎりいきなり立ち止ると、目の前の景色を見てつぼみに話しかけた。

 そこはずっと続いていた木々が途切れ、小さな泉があった。泉には月の光が入りとても綺麗に輝いていた。周りにはその泉を守るように、木々がぐるりと囲むように立っている。

「綺麗だ…」

 カルロは思わずそう呟いてしまった。

「つぼみさん。本当にここなの?治すところって…」

「いいの。ここよ。降ろしてちょうだい」

 つぼみは静かにカルロの背から降りるとゆっくり泉へと向かっていった。

 泉のそばまで行くとその水を手ですくい、口へと運び入れた。

「何をして…!?」

 カルロはわが目を疑った。さっきまで血が滴るほど流れていた傷口がみるみる、スローモーションのように治っていっていたからだ。

「ね。治ったでしょ?」

 つぼみはさも当然という風に振り返り、静かに笑った。

「驚いた。ここには何か特別な力があるのか?」

「分からない。昔から私も動物達もここで水を飲み、傷を癒していた。それが当たり前だったからなぜ、治るのかなんて考えたことなかったわ。でも…」

 つぼみは哀しげにうつむき

「こんなにも早く治るのは私しかいない。たぶん、私が、化け物だからね」

「君は化け物なのかい?」

 つぼみはその言葉に顔を勢いよく上げて

「知らない!分かんないわよ!だって!誰も教えてくれないんだもの!みんな私を見て化け物って言うから!だから…自分は化け物だって思うしかなかったんじゃない!」

と、叫んだ。

「つぼみさん。化け物ってね。ちょっと人とは違う能力や姿かたちをしたもののこと言うんだよ。確かにつぼみさんはそういう意味では化け物かもね。でも、それなら僕も化け物ってことになっちゃうよ」

「…え?」

 予想外の言葉につぼみは言葉を失ってしまった。

「僕は式神使い。この間会った雨月に天穹、紅霞は僕の式神だ。そのほかにもまだいるけどね。僕はそれらを操る者。そしてそれらを操る一族、剣城家一三代目の当主なんだ」

「剣…城…」

 つぼみは目を丸くさせ、カルロをみつめた。

 今夜は満月。月の光が明るく、二人を照らしていた。

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