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第十三話

 部屋には、今までのことがなかったかのような静けさが流れていた。

「…つぼみさん」

 カルロは、無理やり笑い、ずっとうつむいているつぼみに声をかけた。

「あの…いきなりの話だったけど…僕は…」

「本当なの?」

「え?」

「ここに私を閉じ込めてたの…あなただったの?」

「それは…!」

「知ってたの?前から」

 つぼみはうつむいているため顔はうかがえないが、かすかに見える唇を必死に噛んで、震えを抑えようとしているのが見えた。

「…知らなかったよ。でも、あいつの言っていたことが可能性にあるなというのは最近、気づいた」

「…そう」

 再び静寂が訪れたがしびれを切らし、カルロは口を開けた。

「つぼみさ…」

「ごめん。…今日はもう帰ってくれる?」

「でも…!」

「お願い…」

 カルロはそれ以上何も言えなくなり、そのまま帰ることになった。

 帰りがてら、カルロは懐から式神を出し、屋敷の外の壁に貼った。

「何か異常が起きたら、これが報告しにくるだろう」

 そういうカルロの顔は、無表情にも、泣きそうな顔にも、怒りをかみしめている顔にも見えた。

「…大丈夫か?」

 心配した天穹が声をかけた。

「ああ…」

 まるで魂を抜かれたように話すカルロに天穹は眉を寄せたが、それ以上は追及しなかった。

 空はいつの間にか黒い雲が晴れ、夕暮れの紅い色が空を色づけていた。



 あの日から、カルロは再び書庫にこもる日々が続いた。

「紅霧。どうだ?カルロの様子は…」

 天穹はそう、食事を届けに行った紅霧に聞いている途中で、紅霧の持っていったはずの食事を見て、眉を寄せた。

「また食べてないのか…」

「うん…もう食べないようになって三日目だよ…」

 紅霧は心配そうにカルロの部屋のほうを見た。

「なにか言っていたか?」

「食べませんか?って言ったら、何も食べたくないって…」

「はあ…さすがに家臣のやつらも怪しんできているだろ。そろそろ心を入れ替えてもらわなきゃ困る」

「そうよね…ん?ねえ…このあいだつぼみさんの家の壁につぼみさんが危険な目にあったら知らせるようにって式神貼ってきたわよね」

「え?ああ…そういえば」

 天穹が返事をするやいなや、紅霧はさっきまでの暗い顔がうそのように満面の笑みで

「だったらその式神がきたら当然すぐ飛んでいくわよね!」

 思いっきり天穹を見た。

「ああ…そりゃ…」

 そうだろうという言葉を待たずに紅霧はなにやら自分の考えに「そうよそうよ」とうなずいた。

「…なに企んでるんだ?」

 その問いに紅霧はニッと笑い、周りを見渡すと天穹に耳打ちした。紅霧が離れると天穹は

「ふっ…なかなかいい企みじゃないか」

 と軽く笑って言い、そろってカルロの部屋へと向かった。



 その日の夜、いまだ書庫から戻ってこないカルロの所へ天穹と紅霧は飛びこむように入り、カルロの姿をみつけると

「カルロ!つぼみさんのところから式神が飛んできた!」

「何かあったのかもしれないわよ!」

 と叫んだ。カルロはその声に勢いよく振り返りながら立ちあがった。

「ほらこれ!」

 紅霧は手に持っていた式神をカルロにさしだした。カルロはそれを奪うように受け取り、床に落ちていた上着をひっつかむと

「行くぞ!二人とも!」

 振り返らずにそう言うと山へと夜の闇へ駆けていった。後ろの二人はお互い笑い

「大成功だね」

「大成功だな」

 と言い、カルロの後を追っていった。



「つぼみさん!大丈夫か!」

 カルロはつぼみの屋敷に着くと、つぼみの部屋の窓から中をのぞいたが中は真っ暗で人がいる気配はしない。

「くそっ!どこに…」

「カルロ。もしかしたら前に行った泉じゃないか?」

 焦るカルロに天穹がそう言うと、前回つぼみと行った泉への道をものすごい勢いで駆けて行った。

「…ここに来るまでも走ってたが、大丈夫なのか?」

「なにいってるの天穹!女の子待たすなんて男は最低なのよ!あれくらい焦るのがいいの!」

(なるほど…女ってのはおそろしいんだな…)

 天穹は自然と顔が引きつるのが自分でも分かった。

「はあ…じゃ、行くか」

「そうね!」

 そう言うと一足先にスキップするように追いかけて行った。 

(最後までうまくいけばいいんだがな…ま、カルロしだいだな)

 最後の方は笑いながら、先に駈け出した紅霧のあとを、静かに歩きだした。

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