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第十二話

 暗い月明かりに照らされながら立っていたのは、つぼみの祖父グランだった。

「久しいな。つぼみよ」

 つぼみは真っ青になりながら、足元で震える春香を後ろへと下がらせた。

「なんだそやつ。生きておったのか」

 グランはつまらないものをみるかのような視線で、春香を見た。

「生きていた?あなたこの子に何をしたの!?」

 つぼみはグランの言葉に顔を強張らせた。

「なに。そやつの村を少し壊させてもらっただけだ」

「村…を…なんてこと!」

「別にそこまでではないだろう」

 グランは平然とした顔でそう言った。そして嘲笑うかのように、唇の端を少しあげてこう言った。

「実の母と父に手を出すよりは」

 その言葉につぼみの脳裏にあの日のことがフラッシュバックした。すべてを失ったあの日のことを。

 唇を震わせ、下を向いているつぼみにグランは

「今日わざわざこんなとこに来たのはあの日の真実を教えてやるためだ」

と言った。

「真実?」

 予想外の言葉につぼみは眉を寄せた。

「そうだ。お前の両親を死に追いやった元凶についてだ」

「!?でも…それは私が…」

「確かに父と母が死んだのはお前の力のせいでもある。しかし、力の暴走の原因となった者がいる」

「そ…その人と…は…?」

「下の村人たちだよ」



「つぼみさん!いますか!」

 山のふもとに着いたカルロはつぼみの名前を呼びながら山に入ろうとした。

ガサガサ

「つぼみさん!?なっ!」

 音のした茂みを見ると、そこから何かが飛び出してきた。

「カルロ!危ない!」

 後ろにいた霜天がとっさに腕を後ろに引っ張った。

「す、すまん。なんだ!?」

 目の前に現れたのは、大きな虎。しかしその体の周りには霧のようなものが立ち上り、かすかに電流を帯びたようなパチパチとしたのが見える。

「異形のものか…!」

≪これより先に進むことは許さぬ≫

「!?」

≪我には主よりここから先に誰も入れるなと命が下っている。入ろうとする者は死あるのみ!≫

 言い終わると同時に虎の周りの電流がカルロ達を襲った。

「く!我らを守りし盾となれ」

 直前でカルロは懐から式神を出し、そう唱えると見えない壁で電流がはね返った。

「カルロ!ここは俺と紅霧に任せろ!天穹、雨月はカルロを守りながら先に行け!」

 霜天はそう叫びながら背の槍に手を伸ばした。

「わかった!気をつけろよ!」

 そう告げると再び山へと走り出した。

≪逃すものか…!≫

 虎はカルロ達を入らせまいと襲おうとするが、霜天がその前に躍り出た。

「お前の相手は我らだ!」

≪ふん。人間に敗れ滅びた一族の者どもが…我らが神に勝てるものか≫

「なに!?」



「くっ!なんなんだ!この霧は…!」

 山に入ったカルロ達だったが、どこかからか現れた霧によって視界を封じられ、身動きが取れない状態になってしまった。

「くそ…これでは…」

ピィピィ

 途方に暮れていた時、聞きなれた鳴き声が聞こえてきた。鳴き声のする方向を見ると、霧の中から、見慣れた鳥がやってくるのが見えた。

「涼風!涼風じゃないか!」

 そう。涼風であった。しかしいつもと様子が違い、少しあわてているようだった。いつもよりせわしなく鳴き、くちばしで服を引っ張ってくる。

「!!まさかつぼみさんに何かあったのか!?」

 すると返事をするかのように、元来た方向へと道案内のように飛んでいった。

「行くぞ!」

『はい!』



 涼風は霧で見えなくならないようにときどき止まっては、カルロ達のほうを振り返りながら飛んでいた。

(涼風が僕やつぼみさんになついてるのは分かっているが…ときどき人間に見えるときがある。いくらなんでも涼風は鳥だぞ?訓練されているわけでもあるまいし危険を知らせたり道案内…普通の鳥にできるわけない…涼風…君はいったい何者なんだ…?)

 しばらくすると霧が晴れ、つぼみの屋敷が見えてきた。

 しかし…

「な…んだ?これは…」

 昼間だというのに空には太陽も空すら見えず、真っ黒な雲に覆われていた。

「確か…出てきたときは晴れていたよな?」

「ええ。いきなりここまで天気が急変するなんて…」

 天穹と紅霧も、信じられないという顔で空を見上げている。

ピィピィ

 涼風は早くというかのようにカルロの目の前に来て必死に羽ばたいた。その声にハッとして

「ああそうだった!つぼみさん!」

 屋敷に向かって再び走り出した。

 カルロは玄関へ駆け込むと、そのまま前回案内された部屋へと向かった。近くまで行くと、部屋のドアが少し開かれていて、そこから話し声が聞こえてきた。

「確かに父と母が死んだのはお前の力のせいでもある。しかし、力の暴走の原因となった者がいる」

「そ…その人と…は…?」

「下の村人たちだよ」

(!?)

 話の内容にカルロは思わず立ち止まってしまった。

「下の…村…人…?」

 信じられない、いやまだ何が何だか分からないといったつぼみの声が聞こえてきた。

「そうだ。お前…最近剣城家の者と会っているそうだな」

「!?それが何だっていうの!?」

「お前の母親は剣城家の当主だった。しかし剣城家一族では、男子が二人生まれるのがしきたり…その時の母親は異質な存在だったのだ」

 グランはさらに話を進めた。

「だが母親にはそんなこと問題ではないというかのような才能の持ち主だった。幼くして才に目覚め、成人になったら戦いでも勝利を治めるようになった。それが弟には面白くなかったんだろう」

「弟?母に弟などいたのですか?」

「そうだ。だが姉より劣るが弟も才ある人物だった。姉が憎くてもいつも笑い、人との交流をたくさんして信頼を得ていった。そして…姉が当主となり私の息子と結ばれついに子ができるという時に…母屋へと火を放ったんだ」

「そんな…」

「その母屋を取り巻く大きな炎でお前の力が目覚め、結果両親が死んでしまったというわけだ」

 つぼみは顔を青くしながら口を開くも声にはならない。

「そののち、弟が当主へと君臨し今の剣城家があるというわけだ。今会っている剣城家の者は元をたどればお前の親の敵なんだよ」

 つぼみは絶望に満ちた顔でその場に崩れ落ちた。

「そ…んな…こと…って…」

「貴様もそんなとこに突っ立ってないで入ってきたらどうじゃ」

 言うと同時に風が吹き、ドアを押し開きカルロの姿が現れた。

「カルロ…」

「つぼみさん…」

 いきなり明かされた過去に頭が追いつかない状態で、互いに目を合わせたまま、そらすことができなかった。

 そんな二人をグランは面白いものを見るかのような目で見下ろし

「剣城家の者もよくやってくれたものよ。こいつを長年ここに閉じ込めるのに協力してくれたのだからな」

「…なんだと?」

「なんだ?貴様もうすうす気づいていただろう?この山を囲む結界は代々の当主が何回も何回も張りなおしているということに」

「~っ」

 カルロは唇を噛み苦しそうに顔をしかめた。

「あの時、お前のとこの祖先にちょっと助言をしてやったんだよ。姉の子どもが山に逃げ込んだってな。夫に不思議な力があるのは知っていたからすぐに異形の者を通さぬ強い結界を張ってくれたよ…そういえば何日か前にも張りなおしてくれていたなあ」

ドクン

 カルロは心臓の鼓動がグランにも聞こえるのではというほど高まった。

「ご苦労だったな。長い間。ククク…ハハハハハ!」

 グランの高い笑い声が部屋中に響き渡る。

「~~っ!貴様ー!」

「ちょっと!天穹!?」

 怒り狂った天穹が紅霧の制止を振り払い剣をグランに向かって振りおろした。そう、振り下ろしたのだ。

「な…に…?」

 しかしその剣の先にはグランはいなく、空に刃がキラリと光るだけだった。

「ほう。久しいな。薬蛇一族の者に炎鳥一族の者よ」

 いつの間にやら天穹の後ろへとまわりこまれていた。

「な…!」

「だが…」

ドガッ

 天穹が振り向く直前に、天穹の体はグランの手から生まれた風によって壁に叩きつけられた。

「天穹!」

 紅霧の悲痛な悲鳴が響く。

「もともとの主である私に向かって刃を向けるなど許されぬことだぞ」

「!?」

「もともとの主…だと…?」

 壁に打ち付けられた拍子で思うように動かぬ体だが天穹は気力も失ってはいなかった。

「どういうことだ?」

「まあ。その話は今度にしようじゃないか」

「逃げる気か!」

 なおも食いつこうとする天穹を流し目で見ながら

「逃げる?そんなわけあるまい。今ここで貴様らを亡きものにしてもいいが…それだとあとあと面白くない。剣城家現当主よ。もうすぐ新しき世がやってくる。楽しみにしておくがいい」

 と告げると、霧のようにそこから消えていった。

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