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第十話

 山のふもとにたどり着いたカルロ達だったが、つぼみの姿はどこにもなかった。

「家にいるのかな?行ってみるか」

 すると、どこからともなく涼風がやってきた。うれしそうにカルロの頭の周りをくるくる旋回している。

「久しぶり。つぼみさんは家にいるのかい?」

 涼風は返事代わりに山の上へと飛んでいった。

「どうやらそうみたいだ。行こう」

 そういって、二人は山へと入っていった。



 しばらくすると木々が晴れ、つぼみのいるであろう屋敷が見えてきた。

「本当に、いつ見ても綺麗な、立派な屋敷だな」

(でも、いくら立派でも、そこに一人ではさびしいだけだと思うが)

 そんなことを考えていると涼風が窓へと入っていくのが見えた。それとほぼ同時につぼみも顔を出してきた。

「ああ。つぼみさん…だ!?」

 つぼみは顔を出すと同時に翼を広げ、こちらまで飛んできた。

「もう!やっときたの!?遅いわよ!こっちは声出せない子がきたり、それにどう対応しようかでめちゃくちゃ悩んでるってのに―!」

 一気にまくしたてながらカルロの肩を掴んでがくがくと揺さぶった。そのとき落としかけた花束を落ちる寸前のところで霜天が受け取った。

「あ、う、あ、う、ちょ、お、おちついて…」

 必死の声に正気を取り戻したつぼみはカルロを離し、その勢いでカルロは思いっきりしりもちをついた。

「は!ご、ごめんなさい。つい…」

「い、いや大丈夫。で、声でない子って?」

「ああ。それが…」

 屋敷のほうを振り返ると、さっきつぼみが飛び出した窓に女の子が顔を出してこっちを見ていた。



 つぼみの家の中に入ると、中は広く、高価な調度品ばかりにカルロは驚きながらも、案内された部屋に入った。そこには先ほどの女の子がいた。

「なるほど。山のふもとに倒れていたのか」

「ええ。もしかしたら、あなたの村に居る子かもと思ったんだけど違うのね。どこの子なのかしら」

 二人の視線がつぼみの翼で遊んでいる女の子に向けられた。

「そういえば。今日は翼を出してるんだね」

「え?あ!べ、別に出してても出してなくてもいいでしょ!?」

 顔を真っ赤にしながらつぼみは翼を消した。とたん、遊んでた女の子はがっかりした顔で下を向いた。

「ほら。これやるよ」

 カルロは霜天が手にしていた花束を受け取り、その中から一本花をとりだして女の子に渡した。女の子はうれしそうにそれを受け取った。

「どうしたの?そのたくさんの花は」

「僕の庭から持ってきたんだ。はい」

「え?…くれるの?」

「うん。その為に持ってきたんだ。ふもとの花咲いてるの見た時、すごくうれしそうだったから。僕の村はたくさん綺麗な花が咲いてるから、いくつか持ってきたんだ」

「そう。ありがとう。…行ってみたいなあ」

 最後のつぶやくような言葉をカルロは見逃さなかった。

「じゃあ、今度行ってみようよ」

その言葉につぼみは、目を見開いて驚いた。しかし、すぐにその目は暗くなり、視線を下へと落とされた。

「無理よ。この間話したでしょ?ここは私にとって牢屋。出ることはかなわない」

 その言葉にカルロも口を閉じ、気まずそうに目をそらした。

「でも、いつか叶うのならば、ここを出てその花畑に行ってみたい。ふもとの花みたいな花がたっくさん風に揺れて…綺麗だろうな…」

 その言葉にカルロは顔を上げ前から気になっていたことを話した。

「君はここを出ようとすると見えない壁に跳ね返されると言っていたけど、おそらくそれは結界なんだと思う」

「結界…」

「そう。しかし、結界っていうのは時間がたつほどにもろくなるはずなんだ。でも君をここに閉じ込めた人はここに一回も来ていないんだろ?」

 つぼみはうなづいた。

「いくら力が強い者が張ったとしてもこう長い間もたせるなんて定期的に結界を張りなおさなきゃ…」

 その瞬間、カルロの頭に最近村で張った結界を思い出した。

(あの結界は代々の当主が張っている。村を守るための結界。しかし、その結界が本当に村を守っている確証はどこにもない。当主がそうだと伝えてきただけ。この山の結界の修復を知らない間にやっていたとしたら…僕は…)

「…カルロ?顔が真っ青よ。大丈夫?」

 つぼみの言葉にカルロは正気に戻った。

「あ、ああ。大丈夫だ。悪いが今日はこれで失礼するよ」

「そう。じゃあ下まで送るわ」



「送ってくれてありがとう。それに君もね」

 カルロはそういうとつぼみの隣の女の子の頭をなでた。

 つぼみの家で待っているように言ったのだが、出ていこうとしたらつぼみの服をにぎって離さないので一緒についてきたのだ。

「なにか分かったら報告するよ。じゃ」

 手を振り、帰路へと向かうカルロに女の子はつぼみの手を振りほどいて駆け寄った。

「ん?どうしたんだ?」

 女の子は、近くの棒を握るとしゃがみこんでがりがりと何かを書き始めた。カルロとつぼみはその様子を不思議そうに見ていると、完成したらしく立ちあがった。

 そこには『春花』と不格好な字で書かれていた。

「春花?もしかして、君の名前?」

 春花はこくんとうなづいた。

「漢字が書けるということはそれなりの身分ということか。名前を教えてくれてありがとうな。身元を見つけやすくなった」

 その言葉で春花は初めての笑顔を見せた。その上を、涼風がくるくると嬉しそうに飛んだ。その様子につぼみはクスッと笑った。

「ふふ。涼風も喜んでるみたい」

「?涼風ってこの鳥のことかい?」

「え?あ、そ、そうだけど…よく一緒にいるから名前なくちゃ味気ないと思って…」

 照れながら言うつぼみにカルロは「ハハ」と軽く笑って

「いい名前だね」

 と言った。「うるさい」とそっぽを向くつぼみの顔は、しかし照れながらも嬉しそうに笑みを浮かべていた。 




「霜天。明日から春花の身元調べと結界についての調査だ。忙しくなるぞ」

「また書庫で埋もれるなよ」

「う…天穹…あいつ全員に行ったのか」

 うなづく霜天にカルロは溜息をついた。

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