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第七章 滬寧高速

 ――上海。

 タクシーが上海のインターチェンジで高速道路を降りて市内に入る。

「上海市内を通り抜けて、別の高速道路に乗り換えます。皆さん、もし、上海で見たい場所があったら言って下さいね」

 劉は振り返って、後部座席のみんなに話し掛けた。

「不要 不要 劉先生 請直接去」

 ※不要、不要、劉さん、直接行きましょう。

 石川が中国語で劉に答えると、劉は振り向いて神崎の顔をチラッと伺った。

「劉さん、我々は仕事で来ていますから、現場直行でいいですよ」

 神崎が右手を小さく振る。

「はい、それじゃあ、蘇州に直行します」

 劉がタクシーの運転手に話し掛けると、運転手は頷いてハンドルを切った。

「ねぇねぇ、石川ちゃん、あの東京タワーみたいの何?」

 田町がタクシーの窓から見える大きな塔を指差す。

「あれはテレビ塔です。正式には東方明珠タワーって言うんですけどね」

「へぇー、そうなの、あれが有名なテレビ塔っすか」

「テレビ塔に登ると上海の景色が一望出来て綺麗ですよ。特に夜景が綺麗です」

「夜景っすか、石川ちゃんは夜に誰とテレビ塔に登ったの?」

「えっ、いや、誰って、会社の人ですよ。ははは――」

「あれっ、石川ちゃん、怪しいっすね……これっすか?」

 石川が口元に手を当てて挙動不審な態度で目をキョロキョロさせると、田町は石川の顔を下から覗き込んで小指を立てた。

「ふ~ん、石川ちゃん……」

「いや、だから、その、違うって」

 石川が田町の腕を掴んで小指を折る。

 どうやら石川は女性と同伴してテレビ塔に登った経験がある様だ。

「田町先輩、見て見て、バイクがいっぱい走っているわよ」

「ほんとね、お嬢、中国って自転車のイメージだったんだけど、バイクばっかりね」

「相川さん、あれは、みんな電動バイクなんですよ」

「えっ、そうなんですか? 石川さん」

「ええ、あの電動バイクは家庭用のコンセントで充電するタイプです」

「へぇー、電動バイクは中国の方が日本より進んでいるんですね」

「日本も電動バイクにすればいいと思うんですけどね」

「ほんとね、日本はなぜ電動バイクにしないのかしら」

 相川は少し伸びをして、市内の風景をまた眺めた。


 タクシーが上海市内の高層マンション街を通り抜けて、上海から南京に繋がる滬寧高速道路に進入する。高速道路を少し走ると車外の風景が変わって、田舎の田園風景が見えて来た。

「劉さん、蘇州の到着時間は何時位ですか」

「高速は一時間位ですから、蘇州インターの到着時間は午後三時三十分頃です」

「ホテルに着く前に蘇州CMD有限公司に寄りたいのですが大丈夫ですか?」

「大丈夫だと思います。でも、今日は移動だけの予定でしたよね」

「ちょっと、真田さんに挨拶しておきたいと思いまして」

「分かりました」

 神崎がカッターシャツの袖を少し引っ張って、左手の腕時計で時間を確認すると、劉は上着のポケットから社用の携帯を取り出して真田に電話を掛けた。

「はい、真田です」

「ボス、劉です」

「ああ、劉さんか、顧客対応、ご苦労さん」

「あの、神崎さんがこれから蘇州CMD有限公司に寄りたいそうです」

「何時頃や?」

「午後三時四十分頃です」

「そうか、ちょっと待てよ、技術移管会議は午後三時までか……大丈夫やな」

「じゃあ、午後三時四十分頃、工場に入ります」

「了解や、気を付けてな」

「はい、気を付けます」

 劉が携帯のボタンを押して電話を切る。

「神崎さん、大丈夫です」

「了解です」

 神崎は右手を上げて劉に答えた。


 ――午後三時三十分。

「請去工業区」

 ※工業区へ行って下さい。

 タクシーが蘇州のインターチェンジを降りて市内に入ると、劉はタクシーの運転手に行き先を指示した。そして、しばらくするとタクシーは蘇州CMD有限公司に到着した。

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