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第六章 中国入国

 ――上海浦東国際空港。

 飛行機の機内からボーディングブリッジを通り抜けて空港ターミナルに入ると、石川がみんなに声を掛けた。

「皆さん、出入国カードの記入はもう終わってますよね」

「これの事?」

 田町がポーチのチャックを開いて、中から白紙のカードを取り出す。

「あちゃ、田町さん、それ早く書いて下さいよ」

「私もまだ書いてません」

「俺も寝てたからまだ書いてないよ」

 田町に続いて相川と深淵も石川に白紙のカードを見せた。

「それ書かないと中国に入国出来ないですからね」

 石川が両手を上げて頭の上で手を組みながら三人に話し掛ける。

「神崎さんは、大丈夫ですよね」

「ああ、俺は出発前に国内で書いたからね」

「石川ちゃん、これ、どうやって書くの?」

「田町さん、相川さん、深淵さん、俺のカードを見せますから真似して書いて下さい」

 石川が三人にカードを見せると、三人は石川のカードを見ながら急いで自分のカードに必要事項を記入した。

「石川ちゃん、ありがと、助かりまっす」

「田町さん、パスポートとビザは大丈夫ですか?」

 田町が上着のポケットからパスポートを取り出して石川に見せる。

「大丈夫っすよ、ほら」

「うん、OK」

 石川はパスポートを手に取って確認すると、田町にOKサインを出した。

「石川君は頼りになるな」

「ここは外国ですからね、自分の身は自分で守るのが基本です」

「石川ちゃん! カッコイイ!」

「田町さんが一番危険です。気を付けて下さいよ」

「えっ?」

 石川が田町に指を差すと、田町は両手を上げて顔をしかめた。

「そうだな、田町、気を付けろよ。石川君の言う通り、ここは日本じゃないからな」

「はい、了解です。神崎チームリーダー!」

 田町が兵隊の仕草を真似て神崎に敬礼をする。

「それじゃあ、みんな、入国審査が終ったら荷物を受け取って九番ゲートで待ち合わせだ」

「はい」

 みんなは神崎に返事をすると、空港ターミナルの通路を歩き始めた。

「ねぇ、お嬢、見て見て、ポスターボードの広告表示が全部中国語よ。それに綺麗だし」

「ほんと、綺麗ですね。田町先輩」

「デジタルサイネージだよ」

「えっ、デジタルサイネージ? 何ですか、それ?」

「デジタルサイネージは平面ディスプレイやプロジェクターで映像や情報を表示する広告媒体なんだ。日本では電子看板とも言うけどね」

「へぇーそうなんすか」

「我々がこれから作ろうとしているELパネルが、この広告媒体の世界にもう直ぐ革新を起こすんだ」

 神崎はムービングウォーク(動く歩道)から見えるデジタルサイネージを眺めながら二人に話し掛けた。

「さあ、入国審査のゲートに着きましたよ、急ぎましょう」

 石川に促されて、みんなが空いている入国審査のゲートにそれぞれ入る。

「停止!」

 ※止まれ!

「へっ?」

 田町が入国審査の順番待ちで、手前に引いてあるラインを越えると審査官が怒った。

「田町さん、そのラインの手前に戻って下さい!」

 石川が隣のゲートから田町に注意する。

「石川ちゃん、私、何か悪い事したの?」

「そのラインを越えたところから中国なんですよ、前の人が入国審査中ですからね、審査官が呼んでからそのラインを越えて下さい」

「了解」

 田町は石川に返事をしてラインの後ろへ下がった。


 入国審査が終わると、みんなは荷物の受け取りと税関申告を済ませて九番ゲートで待ち合わせた。

「ああ、怖かった、入国審査」

「田町さん、だから言ったでしょう。ここは外国ですからね、気を付けて下さいよ」

「了解で~す。石川ちゃん!」

「はぁ……」

 田町がおどけた敬礼をすると、石川は呆れて溜息をついた。

「大丈夫! 大丈夫! 石川ちゃん!」

 田町が調子に乗って石川の肩を軽くポンポンと叩く。

「だめだこりゃー」

 石川は大げさに両手を上げて天を仰いだ。

 神崎が腕時計で現地時刻を確認すると、背後から女性の声が聞こえた。

「你好 大家 歓迎向中国!」

 ※こんにちわ、みなさん、ようこそ中国へ!

「あっ、劉さん、御苦労様です」

 神崎が振り返って劉に頭を下げる。

「あちらにホテルのタクシーを用意してありますから、皆さん、それに乗って下さい」

 劉はタクシーの運転手を呼んで、田町と相川の荷物を運ばせた。

「さあ、行きましょうか」

 劉が空港ターミナルを歩き始めると、みんなは彼女の後を追って空港の駐車場に向かった。

「劉さん、わざわざ迎えに来て頂いてありがとう御座います」

「いえいえ、皆さんも初めてのフライトでお疲れでしょう」

「大した事はありません。二時間半のフライトですからね、遠方の国内出張より随分と楽ですよ」

 神崎が右手を小さく振って劉に答える。


 空港ターミナルを少し歩いて駐車場に辿り着くと、ワンボックスタイプのタクシーが一台用意してあった。

 タクシーの運転手が全員の荷物をトランクに積み込んで車の後部ドアを閉める。

 みんながタクシーに乗り込むと、劉は車のスライド式ドアを閉めた。

「それじゃあ、皆さん、出発しますね」

 劉が出発の合図を出すと、運転手はパーキングブレーキを外して車を静かに発進させた。そして、タクシーは空港の駐車場を出ると、高速道路に進入して蘇州に向かった。

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