第四章 商品企画サンプル
真田が冒頭の挨拶を述べる。
「OSLED社と新光技術工業社の皆様、本日はお忙しい中、会議に御参集頂きまして真にありがとう御座います。本日の会議はOSLED社とCMD社の新商品共同開発企画事前会議となります」
「OSLED公司和新光技術工業公司的諸位 今天――etc――」
※OSLED社と新光技術工業社の皆様、本日は――etc――。
劉が同時通訳を行う。
「レジュメをご覧下さい」
※レジュメ[フランス語]本来の意味は要約、概要。紙に会議内容を簡潔にまとめたもの。
真田がレジュメの閲覧を指示すると、会議メンバーは手元に置かれたレジュメを手に取って確認した。
「まず始めに共同開発を行う新商品ですが、現在、八つの商品が企画されています。一、電子新聞、二、電子広告、三、電子スクリーン、四、電子ブック、五、電子カード、六、電子壁紙、七、電子照明、八、電子プリントです。レジュメの三ページを御覧下さい」
神崎はレジュメをめくって三ページを開いた。
「あれっ、ミスプリントかな?」
「あっ、レジュメの三ページは真っ白ですよ」
相川が振り向いて神崎の顔を見る。
「真田さん、すみません。レジュメの三ページがミスプリントの様です」
「いや、神崎、これはミスプリントじゃないんや。これから説明するさかいな」
「んんっ?」
神崎が真田の返答を聞いて首を傾げる。
「神崎さん、これから面白い事が起こりますよ」
「えっ、何だって?」
神崎が振り向くと、石川は顔に笑みを浮かべて右手の親指を立てた。
「レジュメの三ページで紙の右端をつまんで下さい」
真田がレジュメを左手に持って紙の右端をつまむ様に指示を出すと、神崎は真田の言う通りに紙の右端をつまんだ。すると、突然、白紙の紙に文字と画像と動画が映し出された。
「あっ!」
「レジュメの三ページは電子ペーパーになっているんや」
神崎と相川と深淵の三人が驚いてレジュメを見つめると、真田は三人にレジュメが電子ペーパーである事を告げた。石川はレジュメが電子ペーパーである事を知っていた様だ。
「好 好」
※いいね、いいね。
「好 是好的質量」
※いいね、これいい品質だ。
沈清明と夏夢龍が両手でレジュメを持って表裏を確認する。
OSLED社のメンバーはレジュメが電子ペーパーである事を知っていたが、その品質の良さに驚いている様だ。ただし、結城は冷静にレジュメを眺めている。
「真田さん、これは、まあまあの出来でしょう」
「いや、結城、完璧や、これが紙か電子ペーパーか分からん位やさかいな」
結城がレジュメを左手に持って電子ペーパーの出来栄えを真田に問うと、真田は結城に完璧だと答えた。
「このレジュメが全ての商品の基礎となる電子ペーパーです。この電子ペーパーの応用として、八つの商品を企画して行きます。A4サイズまでの商品は既に量産技術の確立が出来ています。電子ブック、電子カードは量産が可能な状態にあると言う事ですが、その他の商品はサイズが大きいので、小型の電子ペーパーと同じ製造工法は使えません。量産技術の開発が必要です。また技術的な問題が解決したとしても、日本で製造するとコストが全く合いませんので、海外工場で作る事になります。今日は商品の試作サンプルをこの会議室に用意しました。サンプルのOLEDシートはOSLED社製、電源供給回路と表示用アクティブマトリックス駆動回路はCMD社製です」
※OLEDはオーガニックルミネッセンスエレクトロダイオードの事で、日本ではOEL或いは単純にELと呼ぶ。
※アクティブマトリックス駆動とはX方向とY方向に導線を張り巡らして、目的のポジションに配置されたアクティブ素子に単独信号を与える事が出来る表示パネルの駆動方式を言う。アクティブマトリクス型ではTFT方式が有名である。TFT(シンフィルムトランジスタ:薄膜状トランジスタ)
「石川君、ちょっとサンプルをテーブルの上に並べてくれるか」
「了解です。相川さん、ちょっと手伝って」
「はい、石川さん」
石川と相川は席を立つと、後ろに置いてあった箱の中から商品サンプルを取り出して机の上に並べた。
「真田さん、準備完了です」
「よし」
テーブルの上には、電子新聞、電子広告、電子ブック、電子カード、電子プリントのサンプルが並べられた。
真田がサンプルにスマートフォンを近づけると、メンバーは席を立って真田の作業を見つめた。
しばらくすると、サンプルは色鮮やかにデモデーターを映し出した。
「おお!」
「好! 太好了!」
※いいね! とてもいいね!
新光技術工業社のメンバーとOSLED社のメンバーは感嘆の声を上げた。
「まず、電子新聞、これが今回の商品の中で最も重要なサンプルです」
「這箇商品最重要――etc――」
※この商品は最重要――etc――。
「真田さん、なぜ、電子新聞が最重要商品なんですか?」
神崎が真田に尋ねる。
「新聞は毎日読む物やろう、だから最も需要が見込める商品や、これがヒットしたら莫大な利益が生まれるんや、その他の商品も確実に需要はあるが、新聞には勝てへんさかいな」
「なるほど、だから電子新聞が最重要商品なんですね」
「そう言うこっちゃ」
「次は電子広告や、これはポスターやと思ったらええわ、電車とか、駅とか、ホールに貼るんや」
「これも凄い需要が見込めそうですね」
「ああ、これも半端やないで、そこらじゅうの看板が、みんなこれに置き換わるさかいな。次は電子プリントや、Tシャツに有機ELを印刷してあるんや」
「これはまた究極の商品ですね、洗濯しても大丈夫なんですか?」
「それは、さすがにあかんけど、使い道は色々やな、応用が効く商品や、たとえば服に縫い込んでもええし、子供のランドセルとかカバンに縫い込んでもええやろう。次は電子ブックと電子カードやけど、これはもう現在でもあるさかい、インパクトはあまりないな」
「いえ、それでも、この薄さはインパクトがありますよ」
真田は商品企画サンプルの説明を次々と行なった。OSLED社のメンバーも、電子ペーパーの製品開発は行なっているものの、最終商品としての製品サンプルは見た事が無い様で、驚きを隠せない様子だった。ただし、結城は冷静にサンプルを観察していた。
「よし、それじゃあ、みんな席に着いてくれ」
真田がみんなを席に座らせる。
「次は机上サンプル品以外の大型商品デモや」
「劉さん、天井照明を消してくれるか」
「はい、ボス」
劉が真田の指示を受けて会議室の天井照明を消すと、室内が薄暗くなった。
「まずは、電子スクリーン」
真田がリモコンのボタンを押すと、会議室の大型スクリーンに自動車レースの風景が色鮮やかに映し出された。
「次は電子照明」
真田が別のリモコンのボタンを押すと、天井全体が光って瞬時に明るくなった。
「次は電子壁紙」
真田がまた別のリモコンのボタンを押すと、今度は壁全体が光って白色から青色や赤色に点灯した。
「おまけや!」
真田が二つのリモコンを同時に操作すると、天井に青空が映り、壁に自動車レースの風景がフルカラーで映し出されて、三六〇度の立体フルスクリーンに変わった。
会議メンバーは放心状態で映像を眺めた。
(これが次世代の大型ELパネルなのか! 俺達は今ここで未来を見ているんだ!)
神崎は次世代の大型ELパネルに感動して心の中で叫んだ。