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エピローグ

 ――上海。

 タクシーが上海市街を通り抜けて、上海浦東国際空港へ向かう片側四車線の広々とした高速道路に入ると、道路の左側に隣接する磁気浮上式鉄道線路が見えた。しばらくすると、空気を切り裂く様な列車の通過音が聞こえて、磁気浮上式鉄道列車が瞬時に線路を駆け抜けた。


「ねぇ、お嬢、次回の出張はあれに乗らない?」

「そうですよね、田町先輩、私も一度乗ってみたいわ」

「時速四百三十キロメートルらしいわよ」

「わっ、それは凄いですね」

「石川ちゃん、あれ、幾らするの?」

「五十元だったかな」

「あら、安いっすね。八百円位じゃないっすか」

「そうですよ、空港と上海市街の間を走るだけですからね」

「じゃあ、あっと言う間に上海市街に着いちゃうじゃん」

「ええ、七分で上海市街に着きます」

「マジっすか」

「マジですよ、次回の出張は上海から蘇州に高速鉄道で行きますか?」

「えっ、蘇州って電車で行けるの?」

「ええ、空港から磁気浮上式鉄道と地下鉄と高速鉄道を乗り継いで行く事も出来るんですよ」

「へぇー、そうなんっすか」

「でも、ちょっと乗り継ぎが複雑だから、始めての人は大変ですけどね」

「じゃあ、石川ちゃんが、しっかりとガイドしてね」

「了解です」

 田町が石川の肩をポンと軽く叩くと、石川はビシッと敬礼をして田町に答えた。


 ――タクシーの運転手はアクセルを踏み込んで前方の車を次々と追い越した。そして、高速を十五分程走ると、手前に上海浦東国際空港が見えてきた。取付道路の坂道を登って空港ターミナルに近づくと、タクシーはウインカーを点滅させて三階の降車スペースに車を停車した。


「さあ、空港に着いたぞ」

 神崎が大型タクシーのドアを開けて一番に降車する。

「疲れたっすね」

「ああ、肩凝った」

 田町と深淵が車の前で大きく伸びをすると、タクシーの運転手は車の後部ドアを開けてみんなの荷物を降ろし始めた。

「謝謝你」

 ※ありがとう(あなた)。

「不客気 請当心返回家」

 ※どう致しまして、気をつけてお帰り下さい。

 神崎が運転手に礼を言うと、運転手は軽く右手を上げて神崎に答えた。

 タクシーがウインカーを点滅させてゆっくりと発進する。

「さあ、みんな、日本に帰ろう」

「はーい」

 神崎が振り返って声を掛けると、みんなは嬉しそうに手を上げた。

 みんながeチケットで搭乗手続きを済ませて、荷物をチェックインカウンターに預ける。

「さあ、田町さん、出国審査ですよ。今日は大丈夫でしょうね?」

「大丈夫っすよ、石川ちゃん、ほら」

「うん、今日は大丈夫ですね」

 田町がポケットから出入国カードを取り出すと、石川はカードの記入内容をチェックして頷いた。

「私、ちょっと成長したでしょう」

「ええ、随分と成長しましたね」

 田町が右目で軽くウインクをすると、石川は珍しく田町を褒めた。

「あっ、いつもと態度が違うっすね、石川ちゃん、私に惚れたでしょう」

「まあ、飲み助じゃ無かったら惚れてますけどね……」

「なんじゃそりゃ」

 田町が顔をしかめて肩をガクリと落とす。


 出国審査と手荷物検査が終わると、みんなは国際線の出発ロビーに入った。

 ロビーでは搭乗アナウンスが頻繁に放送されている。


『女士們 先生們 XXX公司XXX号 前往XXX的旅客 請注意 你坐的飛機已経開始登機了 還没有登機的旅客 請在XXX号 登機口登機 謝謝』

 ※淑女紳士の皆さん、XXX会社のXXX便、XXX行きのお客様、注意して下さい。ご搭乗機はすでに搭乗を開始しております。まだ搭乗されていないお客様は、XXX番の搭乗口より搭乗して下さい。ありがとう御座いました。


 出発ロビーは天井が高く広々としていて、丸みを帯びた流線型の大きな天井は柱の上にあるV字型の鉄骨で支えられ、ガラス貼りの鉄骨壁はその上部が前方に大きく迫り出して傾斜している。商業エリアの高級ブランド店の前では、綺麗な売り子達が香水の甘い匂いを漂せて客を呼び込んでいる姿が見える。レストラン、土産品売場、コンビニ、ファーストフード、マッサージ店もあり、搭乗までの時間を有意義に使えそうだ。


「あっ、あれ見て! ほら!」

「うわっ!」

 相川がフロアーの柱を指差すと、みんなは一斉に声を上げた。


 フロアーの柱に貼られたデジタルサイネージが一斉に発光して、飛行機の離陸シーンを映し出すと、実際の飛行機がロビーの中で滑走している様に見えた。

「うわっ、こっちもだ!」

 通路の壁がいきなり輝き出して、高級ブランド店で販売される香水のコマーシャル映像が色鮮やかに映る。

「これ、大型カクレミノですよ」

「本当だ、いつの間に……」

「凄いっすねー」

 みんなはしばらくの間、フロアーのデジタルサイネージを眺めた。

「それじゃあ、ここは自由行動にします。搭乗時間の三十分前になったら、搭乗口の前に集合して下さい」

「ういっす」

 神崎がみんなを集めて話し掛けると、田町は嬉しそうに手を上げて神崎に答えた。

「お嬢、免税店に行くわよ」

「いいですね、田町先輩」

「俺、マッサージしてくるよ」

「俺、お土産見てきます」

 みんなが、それぞれのフロアーに散って行く。


 ――一時間後、中国語の搭乗アナウンスが出発ロビーに流れた。


『女士們 先生們 日本航空輸送公司AXAXXX号 前往東京的旅客 開始登机 請在XXX号 登機口登機 謝謝』

 ※淑女紳士の皆さん、日本航空輸送会社のAXAXXX便、東京行きのお客様、搭乗を開始致します。XXX番の搭乗口より搭乗して下さい。ありがとう御座いました。  


 搭乗口の掲示板に《登机》と表示されると、ビジネスクラスの乗客達が待合席から立ち上がり始めた。

 係員がパスポートをチェックしてチケットを切る。

「それじゃあ、みんな、搭乗するよ」

 神崎が声を掛けると、みんなは待合席から立ち上がり、搭乗口に向かって歩き出した。

 ――突然、神崎の携帯電話がポケットの中で小さく振動する。

「あれっ? 何だ? SMSメール? あっ、劉麗姫だ!」

 神崎はポケットから携帯電話を取り出すと、メールの発信者を確認してからメールの本文を読んだ。

《あなた、今度いつ来るの? 他のホテルに泊まっちゃダメよ!》

「わっ!」

 神崎が思わず声を上げると、深淵が驚いて振り返った。

「神崎さん、どうかしましたか?」

「いえ、何でも無いですよ、深淵さん、あはは……」

「んっ?」

 神崎が笑ってごまかすと、深淵は眉間にしわを寄せて目を細めた。

 搭乗口からボーディングブリッジを抜けて機内に入ると、フライトアテンダントが笑顔で出迎えた。

 みんなが機内で自分の座席を探す。

「25D、通路側だな」

「25E、俺、石川君の隣だから窓側だ」

 石川と深淵が話しながら機内の通路を進むと、神崎は二人の後に続いて自分のチケットを見ながら座席を探した。

「17B、ここだ」

「17A、私、窓側ね」

「17C、私、通路側っすね」

 神崎が座席を見つけると、相川と田町は自分の座席を指差した。

 神崎の座席は二人の座席に挟まれている。

「田町、真理ちゃん、手荷物を貸してくれるかい」

 神崎は二人の手荷物を収納棚に入れてから自分の座席に座った。

「あっ、神崎さん、見て見て」

「えっ?」

「ほら、あの人、電子新聞を読んでいるわよ」

「あっ、ほんとだ」

 神崎が立ち上がって周りを見回すと、あちらこちらの席で乗客達が電子新聞を読んでいた。


 ――しばらくして。

 飛行機はターミナルを離れると、滑走路に向かって静かに走り出した。

 ポーンと効果音が鳴って、座席ベルトの着用サインが灯ると、機内スピーカーから機長の挨拶が中国語でアナウンスされた。


『登机的各位 你好 謝謝 本日坐日本航空運輸AXAXXX号 飛机不久起飛 請結実地上緊安全帯 謝謝』

 ※ご搭乗の皆さま、こんにちは、本日は日本航空運輸AXAXXX便にお乗り下さいまして、ありがとう御座います。 飛行機は間もなく離陸致します。シートベルトをしっかりとお締め下さい。ありがとう御座いました。

 中国語のアナウンスが終わると、日本語のアナウンスが入った。

『ご搭乗の皆さま、本日は日本航空運輸AXAXXX便にお乗り下さいまして、ありがとう御座います。飛行機は、まもなく離陸致します。シートベルトをしっかりとお締め下さい』


 窓側の座席で相川がシートベルトを締めて四角い小窓から機外の風景を眺めると、西の地平線に沈みかけた真っ赤な太陽が焼けたアスファルトの熱気で揺らいで見えた。そして飛行機が滑走路に到着すると、エンジンが全開になって機体が震え始めた。


 輝かしい二十一世紀。

 またひとつ歴史に新たな技術が刻まれた。

 電子デバイスの技術革新に限界は無い。

 技術者達の飽く無き挑戦は永遠に続く。


 完

 やっと書けた。

 疲れた。

 やっぱり、小説書くのはしんどいな……。

 投稿してから一年二ヶ月もかかってしまったやん。

 マニアな読者の皆さん、ド素人の三作目を読んで頂きありがとうございます。

 感謝、感謝です。

 まだまだ、書き方とか変ですけど、素人だから、まあ許して下さい。

 それでも、この三作目はちょっとマシに書けた様に思います。

 個人的には超大作ですが……。(笑)

 頭の中にぼんやりとあったストーリーがやっと形になりました。

 この小説は中国の蘇州という町を舞台にして書きました。

 蘇州には長期出張で新工場の立ち上げに行った経験があります。

 その経験が少しだけ役に立ちました。

 中国語は全然話せませんし、実は殆ど知りません。

 インターネットの翻訳サイトで日本語を打ち込んで中国語に変換しています。

 だから、とても怪しい中国語です。(笑)

 太湖大橋のシーンですが、実は太湖大橋に行ったことはありません。

 全て想像で書いています。

 グーグルの衛星写真で町を拡大したり、地図を見ながら想像で書きました。

 でも、実際に行かないと書けない部分もあります。

 石路で神崎が劉麗姫と船に乗ってデートするシーンとかは、実際の町のことを知らないと書けないですからね。

 しかし、我ながらよく書けたなぁと思います。

 ELパネルについての知識は全くありませんでしたので、“よく分かるなんとかシリーズ”を読んで製造工法を勉強しました。

 大型の高精細ELパネルが世の中に出回るのは、時間の問題です。

 光学迷彩もSFの話では無くて、実際に出来ると確信しています。

 マイクロ波送電も近距離であれば、既に実現されています。

 そう考えると、未来はもう目の前に来ているということが分かります。

 ただ、日本でこの技術を確立して欲しいものです。

 今、日本は大不況ですが、いつの日かメイドインジャパンが復活することを切に願っています。

 これで、シークレットナイトライドシリーズ三部作が完結しました。

 読者の皆様、本当にありがとうございました。

 それでは、また、どこかでお会いしましょう。

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