最終章 ミッションコンプリート
ヘリコプターが上空から高度を落として太湖大橋に接近すると、ローターの風で湖面が波立って揺れた。
「あはは、奴等は袋の鼠だな」
リーダーがヘリコプターの副操縦席から故障した社用車を眺めてケラケラと笑う。
――その時、前方の空間がゆらゆらと陽炎の様に揺らぎ始めた。
「あっ!」
「どうしたんや?」
「湖面の様子が何だか変です!」
神崎が湖面を指差して声を上げると、真田と結城は身を乗り出して窓を覗き込んだ。
太湖の湖面から明らかに異常な水蒸気が円形状に大量発生している。
「んっ? これは何だ?」
リーダーが目を細めて湖面の水蒸気を見つめる。
ヘリコプターが揺らいだ空間の中に突入すると、操縦席のメーターは火花を散らして狂い始めた。機体が青白い炎に包まれて機内に異様なオゾン臭が漂う。大きな破裂音と共に作業者の銃が次々と暴発して辺りに金属片が飛び散ると同時に、太湖の湖面が沸騰して水蒸気爆発が起こり、湖面から強力な上昇気流が発生した。操縦士が慌てて操縦桿を引くが機体のコントロールは全く効かない。ヘリコプターは一瞬にして上空へ吹っ飛んだ。ヘリコプターの中で断末魔の悲鳴が上がると、湖面から水蒸気を伝ってヘリコプターに強烈な放電が走った。そして、ヘリコプターは凄まじい爆発音を響かせながら火花を散らして空中分解した。
――しばらくして、湖に静寂が戻ると、結城と神崎は後部座席からゆっくりと顔を上げた。
「あれっ……?」
二人が顔を見合わせる。
「目標消滅! 任務完了!」
突然、携帯から木村の声が聞こえた。
「わっ!」
結城と神崎が木村の声に驚いて振り返る。
「木村、もしかして……衛星のマイクロ波送電を使ったんか?」
「あはは、そや、送電出力は千分の一やけどな」
真田が放心状態で木村に尋ねると、木村は愉快そうに笑って真田の質問に答えた。
「まじかいな……それ国際条約違反やで……」
真田はドアを開けて車を降りると、東の空に美しく輝く明けの明星を眺めた。
――その日の朝、CCCTVニュースでは、『太陽フレアー現象で蘇州に局部的な磁気嵐が発生』と報じられた。その後、中国の公安は密かに事件の調査を進めたが、結局、謎の組織の真相は分からなかった。
――一ヶ月後。
蘇州OSLED有限公司の敷地内で、新製品の出荷式が盛大に執り行われた。
紅帯を巻いた大型トラックが工場の敷地にずらりと並ぶ。
工場の特設ステージに代表役員達が上がると、女子社員が役員達にハサミを手渡した。
「大家 請手上拏紙帯」
※皆さん、テープを手にお持ち下さい。
劉が役員達に声を掛ける。
出荷式の司会者はCMD社の劉麗華だ。
「那幺 請准備切紙帯」
※それでは、テープカットの準備をお願いします。
劉が役員にもう一度声を掛ける。
役員達が緊張してテープにハサミを当てると、会場の新聞記者達が一斉に業務用一眼レフのフラッシュを焚いた。
「大家! 請注意切手! 拝託了!」
※皆さん! 手を切らないで下さいね! お願い致します!
「哈哈哈」
※ははは。
劉が冗談を言うと、観衆がどっと沸いて、会場に明るい笑い声が響いた。
「那幺 是正式表演! 大家! 請切紙帯 拝託了!」
※それでは、本番です! 皆さん! テープカットを、お願い致します!
劉が役員達に元気よく声を掛けると、役員達は一斉にテープをカットして、会場から盛大な拍手が沸き起こった。
《世界初の折り畳み式電子新聞がOSLED社から本日新発売!》
電子新聞の第一面を飾る本日のトップニュースは、もちろん、OSLED社の電子新聞発売記事だ。