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第二十六章 スーパーユーザー

 相川は自分の席に戻ると、キーボードを叩いて、通信ログを自分のPCのモニター画面に表示させた。

「田町先輩、取りあえず一ヶ月分の通信ログを全部分析しますからね! 先輩は通信ログの先頭からXXXXっていう文字列を検索して下さい。私はXXXXを検索しますから!」

「了解! XXXXね!」

 田町がテキストエディターの画面にXXXXを入力して、通信ログの文字列検索を開始する。

 ※テキストエディターは文字編集ソフトの事。

「あったわ! ひとつ見つけた!」

「タイムスタンプを記録して下さい!」

 ※タイムスタンプとは電子データに付与される時刻情報の事。データの作成日時を確認する時に利用される。

「OK! タイムスタンプね!」

 田町は通信ログからタイムスタンプをコピーして記録を取り始めた。


 ――三十分後。

「お嬢、終わったわよ!」

「私もあと少しで終わります!」

 田町がキーボードから手を離して振り向くと、相川はPCのモニター画面を睨みながら田町に答えた。


 ――しばらくして、相川の文字列検索が終了した。

「よし、終わったわ!」

 相川が右手の親指を立てて田町に合図を出す。

「お嬢、この後はどうするの?」

「まず、田町先輩の記録と私の記録を合成します。そして次にエディターのマクロ機能を使って、通信ログから必要なデーターを抽出します」

「なりすましのデーターを通信ログから集計するわけね」

「ええ、集計されたデーターを分析すれば、アクセスの時間帯とデーターの転送先が分かります」

「なるほどね」

 田町が腕を組んで頷く。


 相川がキーボードのファンクションキーを叩いて、メニュー画面からマクロメニューを選択すると、ウインドウ画面の中に別画面のマクロウインドウが開いた。相川は拡大ボタンで表示を最大にすると、テキストボックスにマクロプログラムを書き始めた。

 ※マクロはコンピュータ言語の一種で、アプリケーションソフトウエアの作業を自動化する事が出来る。(Macro)


 田町が席を立って、相川の後ろからPCのモニター画面を覗き込む。


 相川は短いマクロプログラムを幾つか作成すると、それを何度かデバッグさせて集計プログラムを完成させた。

 ※デバッグとはコンピュータプログラムの誤りを取り除く作業の事。(Debug=除虫)

「よし、OK!」

「もう出来たの?」

「ええ、出来ました」

「さすがハッカーね」

「それじゃあ、行きますよ!」

 相川がコントロールキーを叩いてマクロプログラムを動作させると、黒色のウインドウ画面に白い文字が上から下に向かって滝の様に流れた。そしてテキストサーチでヒットした文字列が次々と黄色に点滅して、抽出された文字列はタイムスタンプを基準にして規則正しく並び変えられた。


 ――十秒後。

 マクロプログラムの動作が終了すると、文字の流れがピタリと止まった。

「集計完了! まずはアクセス時間をグラフ化しますね!」

 相川は集計されたデーターを表計算ソフトにコピーすると、タイムスタンプのデーター領域をマウスで範囲指定してPCのモニター画面に棒グラフを表示させた。

「あっ、何よこれ! アクセス時間は真夜中じゃない!」

「アクセス時間は、午前二時から午前四時に集中しています」

「そうよね、きっちり午前二時から午前四時だわ」

 田町がPCのモニター画面の棒グラフを指差して相川に話し掛ける。

「データーの転送先は何処かしら?」

 相川はそう言うと、マウスのホイールをクルクルと回して画面をスクロールさせた。

「データーの転送先は技術サーバー#030です」

「お嬢、技術サーバーは#029が最後のはずよ」

「そうですね、私も情報システム部からそう聞いています。私達の為に特別に設置された#028と#029が最後の技術サーバーだったと思います」

「情報システム部が技術サーバーを増設したのかしら……」

 田町はPCのモニター画面を見ながら眉間にしわを寄せて首を傾げた。


 相川がキーボードを叩いて、ネットワークの接続リストをPCのモニター画面に表示する。

「やっぱり……#030サーバーなんて、このネットワークに存在しないわ」

「どうなってるの?」

「誰かが勝手に技術サーバーを増設しているんですよ」

「でも、技術サーバーの増設は情報オーナーの許可がないと出来ないじゃん」

「ええ、そうですね。技術サーバーの増設権限を持っているのは情報システム部だけですからね」

「じゃあ、情報システム部の社員が犯人ね」

「その可能性も否定出来ないですけど、あまり考えられないです」

「どうして?」

 田町は相川の横顔を見つめて尋ねた。

「情報システム部の中でもスーパーユーザー(最高権限者)だけが、この特権を持っているからです」

「と、言う事は、犯人はスーパーユーザーね」

「そう、犯人はスーパーユーザーです」

「じゃあ、その人を捕まえればいいじゃん」

「いえ、実務担当のスーパーユーザーは、たぶん犯人じゃないと思います」

「えっ、意味が分からないわ、どう言う事なの?」

「誰かが、スーパーユーザーになりすましているんですよ」

「ああ、そう言う事ね」

「犯人はスーパーユーザーになりすまして、真夜中にこっそりと#030サーバーを増設しています。そして、田町先輩のPCに侵入して技術サーバーのアクセス権限を取得すると、技術サーバー#028と#029の極秘ファイルを#030へ転送し、作業が終わると#030をネットワークから消して立ち去っているんです」

 相川はPCのモニター画面のデーターを指で追いながら田町に説明した。

「げっ! それマジ?」

「マジですよ、こいつ、かなり危険な奴です! 私達の技術データーをサーバーからまるごと盗んでますからね!」

「そりゃ、やばいわ! 早く捕まえないと大変じゃん!」

「ええ、マジやばいです!」

 二人は両手を胸元に上げると、拳を握り締めて顔を見合わせた。

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