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第一章 胎動

 ――CMD社半導体組立実験室。

 真田がクリーンルームの窓ガラスを覗いて、CMD社の新商品インテリジェントパワーLSIの接合試作現場を眺めている。

 クリーンルームには、シリコンウエハの切削加工装置がぎっしりと並べてあり、パッケージの信頼性評価装置も設置されている。この小さなクリーンルームで、半導体の組立製造実験が全て出来る様だ。クリーンルームの中で新光技術工業社の石川がCSPとフレキシブル基板電極の接合実験を行なっている。

 ※CSPはチップサイズパッケージの略語。

「この部屋のクリーンレベルは、どれ位ですか?」

 若い女性がそう尋ねると、真田は振り返った。

「クラス一〇〇や」

「まあまあですね」

「そや、まあまあやな、それでも半導体の組立工程としては、じゅうぶんな環境クラスや、高い方とちゃうか」

「そうですね、クラス一〇〇でしたら拡散も出来るレベルですから、じゅうぶんだと思います」

「へぇー、劉さん、結構知っているんやな、半導体の勉強をしているんか」

「いえ、会議で通訳をしていると、自然に覚えてしまうんです」

「そらええこっちゃがな、ただで半導体の勉強が出来るんやさかいな」

 真田は劉にそう言うと、彼女と一緒に通路を歩き始めた。


 ※クラス一〇〇はクリーンルームの清浄度を表す。アメリカの軍事規格で〇・五ミクロンメートルの塵が一立方フィートの空間に百個未満しか無い超清浄な環境である事を示す。

 ※拡散は半導体製造前工程の事。ウエハプロセスとも言う。


 劉麗華は上海CMD有限公司の美人通訳だ。容姿は長身で細身、見事な長い黒髪は頭の後ろで束ねている。彼女は真田の依頼を受けて、本日の午後に予定されている会議の通訳として中国から来日している。

「劉さん、せっかくの出張やさかい、日本の半導体組立工程を見学して行くか?」

「真田さん、部外者が工程見学してもいいんですか?」

「ああ、後工程だけやけどな、前工程は情報セキュリティAAAやさかい無理や」

「是非、お願いします。日本の組立量産工程が見られるなんて機会がありませんから」

「いや、量産工程は無い、汎用半導体の量産工程は全て海外に移管したんや、あるのは試作工程だけや」

「ええっ、日本は量産をしていないのですか?」

「そうや、量産は全て海外や、日本で作ってもコストが合わへんねん」

「そうなんだ、知らなかったわ」

「CMD社の量産工場は中国がナンバーワンや。悪い言い方やけど、うちの会社は経営戦略で半導体の後工程を捨てたんや。更に試作工程も中国に移管して、半導体パッケージの設計開発から全て中国でやる事になる。そして、今後は俺が中国の開発本部長になる予定や。そこで相談やけどな、劉さん、俺の部下になってくれへんか?」

「えっ、私がですか?」

「ダメか?」

 真田が劉の顔色を伺う。

「いえ、喜んでOKですよ、でも給料は上げて下さいね、ボス!」

「あはは、劉さん、しっかりしてるな、よっしゃ分かった、ほな給料は倍にしたるわ」

「やった!」

 真田が笑いながら劉に昇給の回答を出すと、彼女は胸の前で小さく手を叩いて喜んだ。

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