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第十四章 光学迷彩 

 神崎が結城の名刺を手に取って、名刺の表裏を確認する。

「電子スキャナーの応用だよ、名刺の裏面で撮像した画像を表面に映し出しているんだ」

「表示パネルと撮像パネルと照明パネルの組み合わせですね」

「そうだ、撮像パネルにはカプセル式液晶マイクロレンズが組み込んである」

「このパネルは調光機能を持っているんですか?」

「ああ、調光機能と焦点調整機能を持っている」

「光学レンズ無しでピント合わせが出来るなんて、まるでトンボの目ですね」

 神崎はパネルの多彩な機能に感心して名刺を覗き込んだ。

「名刺の端面に半透明な半導体チップがありますね」

「パネルの制御回路は有機半導体チップを使ったんだ」

「有機半導体チップの接合ですか?」

「そうだよ、パネル上に半導体回路を直接形成する事も可能だけど、接合する方が簡単なんだ。タッチスクリーンと太陽電池の制御回路はパネル上に直接形成したけどね」

「えっ、太陽電池?」

 神崎が名刺の表面を見直す。

「結城さん、太陽電池は何処に有るんですか?」

「ELパネルは発光と受光のどちらにも使えるから、電流を流せば発光して表示パネルになるし、光を当てれば電流が流れて太陽電池になるんだ」

「なるほど、そう言う事か、じゃあ、この名刺は電源が要らないんですね」

「ああ、電源は不要だよ、でも太陽電池としての性能はまだ良くないけどね」

「こりゃ凄いや!」

(何て凄い技術なんだ、結城さんは宇宙人か……)

 神崎は感嘆して声を上げると同時に心の中で呟いた。

「結城、それは会社の化体物や無いんか?」

 ※化体物とは機密情報が実装された製品の事。

「いえ、これは俺が大学の研究室で実験試作した物なんですよ。だから会社の化体物じゃないですね」

「そんな機密情報の塊を会社の外に持ち出したら、情報セキュリティの規則違反で首やさかいな」

「その辺の常識は、ちゃんと自覚していますよ」

「おい神崎、ちょっと俺にも見せてくれ」

「ええ、どうぞ」

 神崎が結城の名刺を真田に渡す。

「しかし、それにしてもよく考えたもんやな、光学迷彩か」

「まあ、これを光学迷彩と言うのは大げさです、電子スキャナーの段階ですね」

「いや、この名刺が出来たんやから、光学迷彩だって可能やろう」

「ええ、まあ、不可能じゃないですけど」

 真田が結城の名刺を眺めて少し考え込む。

「結城、これも早期に商品化しよう。この半透明の有機ICはCMD社で開発させてくれへんか、これは将来絶対に売れるで」

「いいですけど、微細有機ICは技術的なハードルが高いですよ、それにかなりの投資金額が必要です」

「まあ、投資金は別として、技術的なハードルが高いと言われると余計にやりたいな」

 真田は結城の顔を見てニヤリと笑った。

「真田さんの野望に火がつきましたね」

「ああ、確実にな。よっしゃ、これで半導体の天下を取ったるで!」

「それは困るな、電子新聞の技術確立が優先ですからね」

「ははは、それはそやな」

「楽しそうですね、ボス」

 真田が結城の名刺を見ながら楽しそうに笑うと、劉が真田の前にビール瓶を差し出した。

「おっ、ありがとう」

 真田はグラスを傾けて劉の酌を受けると、新しいビール瓶の栓を抜いて、彼女のグラスにビールを注ぎ返した。

「劉さんも、一杯どうぞ」

「謝謝你」

 ※ありがとう(あなた)。

 劉が真田と酌杯を交わて嬉しそうに微笑む。

「なんかいい感じですね、二人はお似合いですよ」

 深淵が流し目で二人を冷やかす。

「そうよね、お似合いっすよね」

「田町先輩、私もそう思います」

「そうかな」

 田町と相川が顔を見合わせて頷くと、真田はみんなの言葉を否定せずに照れ笑いして頭を掻いた。

「真田、この女好きか?」

「平平、もう勘弁してくれ」

 平平が真田の顔を覗き込んで尋ねると、真田は振り向いて平平の頭を軽く叩いた。

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