第2話 交渉
メイは街に瞬間移動していた。
方向と距離がわかれば、自分自身を空間移動させることができる。
やっかいな森で時間を潰している暇はない。
町人に話しかけた。
「すまないが、王宮の場所を教えてほしい」
「王宮なら、あの一番高い建物だよ。でも戦争中だから近づかないほうがいいと思うがね」
「ありがとう」
「【急加速】!」
メイは街を高速で飛行し、あっという間に王宮に到着した。
「王に謁見したい」
「それは無理です。王様は戦争のことで大変ご多忙です」
「一刻を争う。それに私は戦争の件でやってきたのだ。私はルシカ国の戦士だ」
「なに?!ルシカ国だと。敵国の戦士がなぜここまで…!」
「すまない。【座標移動】!」
守衛が一瞬にして消えた。100mほど瞬間移動させたのだ。
メイは中に入っていた。
おそらく王室は最奥にあるだろう。
階段を登り、正面の扉を入った。
大きな廊下を歩き、いくつもの扉を経て、ついに王室の扉らしきものの前に立った。
「侵入者はあいつだ!捕らえろ!」
さっき瞬間移動させた守衛が、仲間を5人ほど引き連れ立っていた。
「私は王と話がしたくて来ただけなのだ。【強風】!!」
メイを取り囲んでいた6人の兵士が周囲に吹き飛んだ。
「これはこれは何事かね」
王室の扉が開き、王が立っていた。
「やつはルシカ国の戦士です。ここまで不法侵入して…」
守衛の言葉を遮り、王はメイに話しかけた。
「ここまで来て、わしになんのようだ?」
「戦争を終わらせに来ました。王と話がしたい」
「さあ、わしに何のようだ。入れ」
「王様、しかし不法侵入者でありますぞ!」
「この少年はわしに用があるだけのようだ。しばし二人で話すことにする」
◇◆◇◆◇
「一刻も早く戦争を終わらせていただきたい。この戦争は無益です。両国共になんの利益がありましょう」
入室し、扉が閉まるなり、メイは言った。
「我がセネカ国の王子を殺したのは、どこの国だと思っている!ルシカ国に報復して当然であろう!」
王子は殺されたのだ。殺されたという報せが入った前日までは元気だった息子を突然失ったのだ。
ルシカ国の者がやったことはわかっている。ルシカ国が憎い。
「王子を殺したのは私でございます」
王は一瞬絶句した。
「お前が殺しただと?!王子に、…、わしの息子になんの恨みがあって…!」
やっと言葉が出た。この目の前の男が殺しただと?
「故意ではございません。あれは事故でした。しかしすべての責任は私にあります」
「戦争を終わらせてください。私の命と引換えでも構いません。これ以上無益な殺生はおやめください!私を殺して戦争が終わるというならば…」
「お前を殺して何になる?お前を殺しても息子は帰ってこない…。最愛の息子は帰って来ないのだ…!」
王はうつむいた。
「お気持ちはわかります。最愛の者を失った…」
「もうなにも言うな!なにも言うな!」
王は部屋を歩きまわっていた。自分の気持ちを押し殺すことができず、ただ歩いていた。
メイは王の言葉を待っていた。
王は頭の中を整理していた。
この男が憎い。手塩にかけて育てた息子を殺した。
こいつをいますぐ殺してやりたい。しかし、殺してなにになるというのだ?
こいつが苦しんでも、わしの苦しみが軽くなるわけでもない。
それに悔しいが、こやつの言うとおり戦争をしても何も生まれない。
もう息子を殺した犯人は目の前にいるのだから。
戦争を止めるか。
しかし、簡単に許せないという気持ちもある。
「わかった」
王はやっと口を開いた。
「では、戦争はお止めになると」
「ああ、やめる。そのかわり…」
「お前と引き換えに、だ」
メイはこうなることを覚悟していた。
王子が死んだ時、戦争を始まったときからすでに彼は自責の念に駆られ続けていた。
自分の命一つで大勢の命が救われるなら、十分だ。
「お前と引き換えに、戦争を終わらせる。戦力を撤退させ、この問題はこれで終りにする」
「ありがとうございます」
「お前はセネカ国の戦士となり、我が国の戦力となり、我が国に貢献せよ」
「…私を殺さないのですか?」
「だから言ったであろう。お前を殺して何になる、と」
「わかりました。あなた様のお役に立てるよう努力いたします」
「ただし、記憶を消させてもらう。お前がルシカ国出身であり、その国の戦士であったという記憶を。完全に我が国の戦力となるためにな」
「記憶を消さずとも私は全力であなたの力となります。私を信用してください」
「信用・信頼などという言葉はなんの意味もない!条件をつけられるのはわしだ!わしのしたいようにさせてもらう」
「…わかりました。本当に戦争を終わらせていただけるのならば、そのとおりお願いします」
「生意気な小僧だ。さあ、記憶を消すぞ」
王はメイの頭に手を当てた。
メイは急にめまいがした。
「くっ…」
「今から記憶を消す。【記憶消去】!」
メイは頭から記憶がなくなっていくのを感じた。
仲間との記憶、家族との記憶、故郷でのすべての記憶が思い起こされ消えていった。
そして目の前には何も残らなくなった。メイは意識を失った。




