記念日も土産も女友達へ先に、わたくしは毎度残り物だった夫へ——「先に目についた方へ」でしょう?なら持参財も縁談も、わたくしを大切にする方から先に回します
夫の指が、わたくしの前を素通りした。
「オディール、これは君に」
白薔薇と淡紅の牡丹を抱えた花束が、オディール様の腕へ収まる。三日もてば上等な切り花だが、絹の飾り紐と銀粉を散らした包装を含めれば、庶民一家の食費ひと月分。なかなか景気よく他人へ配りますのね、あなた。
「まあ……奥様がお先では」
オディール様はそう言いながら、花束を胸元へ抱き込んだ。遠慮というものは、腕に力を入れたままでも口にできるらしい。勉強になりますわ。
「席も中央を取ってある。君は舞台がよく見えないと頭痛がするだろう」
「覚えていてくださったのね、ジュリアン」
取り巻きの奥方たちが、まあ素敵、なんてお優しい、と声を揃える。わたくしの分があるかは、どなたも確認なさらない。花束を褒めるのに忙しいのだ。花なら枯れますけれど、社交辞令は水もなしによく育つこと。
今夜はわたくしたちの結婚三周年を祝う観劇だったはずだが、中央の桟敷席もオディール様へ渡された。ベルニエ伯爵家の口利きで押さえた桟敷で、代金はわたくしの持参財から出ている。あの花束は切り花で三日、桟敷の中央は一晩。合わせても、わたくしの持参財の利息には届きませんわね。
「セラフィーナ、お前の席もある」
ジュリアンが顎で示したのは柱の後ろだった。身を傾ければ舞台の左端くらいは見える。主演女優の右腕だけを鑑賞する趣味があれば、たいへんな特等席だ。
わたくしは一度だけ、夫の顔を見た。
彼はもうオディール様へ観劇用の小鏡を渡していた。こちらを見てはいない。今夜の主役を間違えたわけではなく、最初から決めていたらしい。はい、採点終了。
幕間には、砂糖衣をかけた小さな菓子が回ってきた。奥方たちが薔薇形と菫形を選び、オディール様が杏のものを二つ取り、わたくしの皿には端の欠けた菓子が一つ残った。砂糖衣は汗をかき、中の生地まで冷えている。
「甘いものが好きだっただろう」
「ええ。ありがとうございます」
わたくしは菓子を食べず、崩れないよう紙で包み直した。冷えた残り物にだって礼儀は必要だ。受け取った者くらいは、きれいに扱って差し上げなくては。
結婚記念日の贈り物としては、腹持ちも見栄えも二点。夫の顔を立てて、三点にしておきましょう。
◇
旅から戻ったジュリアンは、外套も脱ぎきらないうちに青い小箱を取り出した。
「オディール、土産だ」
また彼女がいる。もはや玄関の花瓶より自然にいる。花瓶は少なくとも、当家の水を吸っていると隠しもしない。
「わたくしに? いけませんわ、奥様に悪いもの」
口では断り、指はもう蓋へかかっていた。中から現れたのは、瑠璃を嵌めた小鳥の細工物。翼を押すと尾羽が開き、針や指輪を置ける仕掛けになっている。
「きれい……小鳥が羽ばたきますのね」
「君なら喜ぶと思った」
ジュリアンはオディール様の指先ばかり見ていた。羽が開くたび口元が緩む。なるほど、品物を渡す喜びとは、相手の反応まで受け取ることらしい。わたくしにはあまり馴染みのない取引ですこと。
「セラフィーナにもある」
差し出されたのは、青い小箱を包んでいた紙の余りで巻かれた細長い品だった。紐は短く、一周して結ぶことさえ諦めている。包装紙まで序列に忠実。徹底した店ですわね。
中身は銀色の靴べらだった。柄には赤い石を嵌めるための窪みがあるが、石はない。店で長く日に焼けたらしく、片面だけ色が鈍い。
「君には実用的な方がいい」
「そうですの」
「飾り物など欲しがらないだろう。店主も、これは最後の一つだから安くすると言っていた」
告白が潔すぎる。値引き品を妻へ贈るとき、店主の証言まで添える必要があったかしら。いっそ値札も付けてくだされば、暗算の手間が省けましたのに。
わたくしは靴べらを裏返した。瑠璃の小鳥の七分の一。包装込みなら九分の一。夫が旅先で使った宿代は、ベルニエ伯爵家から紹介した商会との契約で浮いた額のうちに収まる。つまり、わたくしのお金が遠くまで旅をして、戻ってきたときには売れ残りへ化けていた。錬金術としては斬新だ。
「気に入らないのか」
「いいえ。靴を履くたび、最後の一つだったと思い出せますもの」
「嫌味を言うな。オディールは素直に喜んだぞ」
反撃しない妻には、ずいぶん語尾がよく育つ。オディール様の前では気の利く紳士、わたくしの前では在庫整理の責任者。兼任、お疲れさまですわ。
花束の前には香水があった。中央席の前には舞踏会の扇があり、冷えた菓子の前には、客が選び終えた果実があった。どれも包み直して棚へ収めた。傷んだ果実だけは料理長に渡したが、夫からの気持ちを捨てたわけではない。煮詰めれば、たいていのものは形を保つ。
三年分を並べれば、誤差では済まない。売れ残りを妻へ、が三年続けば、それはもう相場ですこと。
わたくしの値は、どうやら店じまい間際に決まるらしい。
◇
誕生日の朝、食堂には細長い宝石箱が置かれていた。
わたくしは見なかったふりをして席へ着き、紅茶を一口飲んだ。蓋の幅、留め金、店の紋章。首飾りなら金鎖、腕飾りなら二連。石の大きさによっては、今年こそ採点表を破ってもいい。
期待は隠してこそ淑女の嗜み。むき出しにすると、踏まれたとき靴跡がつく。
「オディール、先日欲しいと言っていただろう」
ジュリアンはわたくしの向かいで箱を開け、そのまま隣に座るオディール様へ向けた。
淡い黄玉を連ねた腕飾りだった。朝の光を拾い、食卓の白布へ黄金色の粒を散らす。金具も新しい。細工師の腕もいい。わたくしの誕生日を飾る品としては申し分ない。ただし、わたくしの腕に留まらない点を除けば。
「まあ。けれど、今日は奥様のお誕生日でしょう?」
「それとこれは別だ」
オディール様は困ったように眉を下げ、片手を差し出した。困った方の手は膝に置いておけばよろしいのに。ジュリアンが金具を留める間も、彼女は一度も腕を引かなかった。
「よく似合う」
「ジュリアンったら。奥様にも、もちろんご用意があるのでしょう?」
「ああ」
ジュリアンはそこで初めて、わたくしを見た。そして卓上を見回し、給仕を見た。給仕は有能だが、無から誕生日の贈り物を生み出す訓練までは受けていない。
「今度、何か選ばせよう」
「わたくしの品は、まだないのですのね」
「必要なら用意する。そんなに宝石が欲しかったのか」
黄玉十二粒、金鎖二本、特注の留め金。ざっと見積もって、昨年わたくしが彼のために繋いだ二件の取引、その謝礼の四分の一。欲しいかと聞かれれば、ええ、欲しかった。黄玉ではなく、選ぶために使われた時間の方を。
「なぜ、オディール様のものを今日お渡しになったのです?」
「先に、目についた方へ」
ジュリアンは面倒を片づけるように言い切った。
「後でお前にも買えば同じだろう。順番にこだわるなど子供じみている。物が欲しいなら、そう言えばいい」
「そうですわね」
わたくしは紅茶を飲み干した。カップの底に茶葉が一本。占いなら旅立ちの印だったかしら。急に信心深くなってまいりましたわ。
「オディール様、とてもお似合いですわ」
「ありがとう、奥様。なんだか申し訳なくて」
「まあ。外すほどではございませんでしょう?」
黄玉を守る手が、さっと腕飾りを覆った。正直な指は嫌いではない。少なくとも、甘い遠慮より査定しやすい。
わたくしは席を立った。ジュリアンはもう新聞を開いている。今日の日付も、紙面の上なら見つけられるでしょう。
自室で最上の青いドレスに着替え、髪を結い直した。誕生日に夫から何も贈られなかった妻が実家へ帰るのだ。みすぼらしく見えてはならない。負けたのはわたくしの仕立屋ではございませんもの。
◇
ベルニエ伯爵家の玄関へ馬車が着くと、バティストが自ら扉を開けた。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ただいま、バティスト。急で悪いのだけれど、頼みがありますの」
彼は来客から受け取った書状を従僕へ預け、わたくしの外套を取った。先客の使者が控えていたが、応接間へ向かおうとはしない。わたくしが口を開いた。それだけで、彼の用件の一番目は決まったらしい。
「承ります」
「わたくしの持参財から出していた返礼を、これからは受け取った本人の名で返します。わたくしが結んだ口利きも同じ。アルノー家を入り口にはいたしません」
「かしこまりました」
「理由を聞かないの?」
「お嬢様のご意思で足ります」
短い。たいへん短い。なのに夫の百倍、話が早い。世の男性が全員バティストくらい簡潔なら、余った会話時間でお茶を三杯は飲める。
わたくしは応接間の机に、持参した招待状を三通並べた。一通は織物商の新しい仕入れ口、一通は若い令嬢の縁談相談、もう一通は秋の慈善市への出店枠。どれもジュリアンが、自分へ届いた縁だと思っていたものだ。
「織物の紹介は、先月わたくしの相談をすぐ引き受けてくださった女主人へ。縁談の件は、当人の希望を真っ先に確かめた後見人を窓口にして。慈善市の枠は、わたくしの品を扱ってくださる店へ」
「アルノー様のお名前は」
「使いません」
バティストの指が一通目を取り上げた。迷いはない。書状は新しい封筒へ移され、宛名の空いた場所へ、わたくし自身の名が記される。
「持参財から出す最初の返礼は、こちらへ。あちらの女主人は、納期より先に職人の指を休ませる方ですの。急がせれば得をするのに、そうなさらなかったわ」
「本日中に」
「それから、縁談の相談も、わたくし本人へ届くように」
「すでに先方へ伝えます」
先客の使者はまだ玄関で待っている。バティストが従僕へ目配せすると、すぐ別室へ案内された。わたくしを先にしても、誰かを残り物にする必要はないらしい。
バティストが呼び鈴を鳴らすと、家の者たちが動いた。封蝋が温められ、馬車の手配がされ、返礼品の見本が机へ運ばれる。わたくしが夫のために確保していたものが、一件ずつ、それを大切に扱う人の方へ向きを変えていく。
派手な音はしなかった。銀盆の上で、封筒が滑る音だけ。
それで充分だった。
◇
三週間後、ジュリアンがベルニエ伯爵家を訪れた。
その間に、織物商はわたくしへ新作の見本を届け、縁談の後見人は相談相手としてわたくしを名指しし、慈善市の主催者は出店者への礼状をわたくし宛てに送ってきた。ジュリアンの元へ行かなくなったのではない。最初から彼へ行く理由がなかったのだ。
「セラフィーナに会う」
客間前まで響く声だった。玄関では威勢がよかったらしい。だがバティストから「順にお待ちください」と告げられたあとは、靴音の間隔が見る見る狭くなった。
わたくしの前には三組の客がいた。最初は織物商の女主人で、職人たちから預かった布箱を持ってきた。次は縁談を整えた令嬢と後見人。最後は慈善市の菓子店の夫婦で、売り切れた祝いに焼き菓子を山ほど持参している。なんという善行。菓子の山は、高いほど尊い。
「伯爵家のお名前ではなく、セラフィーナ様の目利きを信じております」
女主人は布をわたくしの前だけに広げた。
「今季の一番を、まずご覧いただきたくて」
「まあ。深い葡萄色ですのね。これなら若い方にも、ご年配にも仕立てられますわ」
布の仕入れ値、仕立て代、見込める注文数。数字はいつもどおり、頭の中へ勝手に並ぶ。わたくしの暗算は働き者だ。夫より先に仕事をする。
令嬢は胸元で手を組み、わたくしへ頭を下げた。
「先方へ、わたくしの希望をそのまま伝えてくださって、ありがとうございました」
「お礼は、ご自分の希望を引っ込めなかったあなたへ。わたくしは運んだだけですわ」
後見人もわたくしへ礼を述べた。アルノー家の名は一度も出ない。出なくても会話は滞らず、お茶も冷めず、菓子は減る。世の中、案外たくましいものですこと。
客間の扉が開くたび、廊下の長椅子に座るジュリアンが見えた。最初は脚を組んでいた。次には膝へ両手を置き、その次には立ち上がっていた。口元から余裕が一枚ずつ剥がれていく。玉葱なら料理になりますが、夫の余裕は剥いても腹の足しにならない。
「まだなのか」
「ただいまのお客様がお帰りになりましたら」
「私は夫だぞ」
「先約の皆様の後でございます」
バティストの声は変わらない。ジュリアンの方だけが大きくなり、それから、廊下を通った伯爵家の客へ気づいて急に小さくなった。声量にも相場があるらしい。
菓子店の夫婦が持参した大きな銀盆から、包みが一つずつ客へ渡されていく。ジュリアンの番が来る前に、盆は空になった。
(贈り物くらい、後で渡せば同じことだろう——)
彼の目が空の盆に留まった。伸びかけた指が、何も取らずに下りる。
「これらは、私への紹介ではなかったのか」
「どちらのお話ですの?」
「織物も、慈善市も、あの縁談もだ。なぜ皆、お前に礼を言う」
「わたくしがお繋ぎしたからですわ」
「だが、アルノー家に届いていた」
「わたくしが、そこにおりましたもの」
ジュリアンは返事をしなかった。三年分の贈答を暗算するには、少し遅い。けれど本人がようやく算盤を探したのなら、最後まで待って差し上げよう。今日の列の最後で。
◇
最後の客が帰る前、織物商の女主人がもう一度わたくしの手を取った。
「次の意匠も、最初にセラフィーナ様へご相談します」
「光栄ですわ。けれど職人を急がせてはなりませんよ」
「もちろんです。あなたが最初におっしゃったことですもの」
令嬢も、菓子店の夫婦も、わたくしへ向かって別れを告げた。家名の付属品にではなく、わたくしに。問いを持ってきて、わたくしの答えを待ち、その答えを持ち帰る。
扉の外にはジュリアンがいた。
いつもの暗算が、止まった。
外套の値も、靴の磨き代も、彼が待たされた時間も浮かばない。並べられるはずの数字が、一つも来ない。三年前から欲しかったものだけが、値札もつかずに残っていた。
「セラフィーナ。私は朝からお前を待っていた」
「そうですの」
「話がある。今度は私を通してくれ。私はお前の夫だ」
夫。三年間、その言葉だけで自分の番が来ると思っていた。次こそは、今度こそは、誕生日なら。そうやって差し出していた札を、わたくしは胸の中で一枚ずつ畳んだ。
「わたくしはただ一度、先に目についてみたかったのですわ」
ジュリアンの唇が動いたが、言葉は出なかった。
バティストが客間へ入ってきた。白い布を敷いた銀の皿には、焼きたての小さなフィナンシェが並んでいる。焦がしバターとアーモンドの香りが、空いた客間をふわりと満たした。
彼は皿を、まっすぐわたくしへ差し出した。
「お嬢様の御用が、いつでも先にございます」
指先で一つ取ると、表面はさくりと鳴り、中はまだ熱を抱いていた。あら。これはいけない。淑女の威厳が、バターの香りごと鼻から抜けてしまう。
「これですわ。先に差し出されるお菓子は、まだ温かいものですのよ」
ひと口で半分食べた。美味しい。たいへん美味しい。三年間きれいに包み直してきた冷たい菓子たちには申し訳ないが、勝負にすらなっていない。温度差で完全勝利。採点不要!
バティストが二つ目を勧めてくる。素晴らしい家令である。わたくしの用事ばかりか食欲まで、本人より先に把握している。
「話の途中だぞ」
ジュリアンの声が戻った。
けれど、わたくしの手には温かい菓子がある。もう冷めたものを守るため、両手を空けておく必要はなかった。
◇
「持参財からの支払いを戻せ」
ジュリアンは客間の机へ両手をついた。入ってきたときより声が荒いのは、ようやく自分の番が来たのに欲しいものが用意されていないからだろう。お気持ちはよく分かりますわ。経験者ですもの。
「どちらへ戻すのです?」
「アルノー家へだ。商会の紹介も、縁談の仲介も、以前どおり私を通せ。取引相手が困っている」
「あなたが困っていらっしゃるのではなくて?」
「同じことだ。私の立場が悪くなれば、お前にも影響する」
「実家へ戻ってから、わたくしの立場はたいへん良好ですわ」
ジュリアンの指が机を叩いた。オディール様の前で宝石箱を開けた指。わたくしには売れ残りを渡し、いまは空の机から何かを取り立てようとしている。忙しい指ですこと。
「夫をないがしろにして楽しいのか」
「順番にこだわるのは、子供じみているのでは?」
「こんな仕返しをしている場合ではない。オディールまで、次の品はいつ届くのかと——」
そこまで言って、彼は口を閉じた。
危うく感心するところだった。懇願の列へ、きちんとオディール様の贈り物まで並べてくるとは。妻に会いに来たのではなく、妻から届いていたものを迎えに来たのだ。三年かけた採点の答えが、本人の口から提出された。満点ですわ、もちろん悪い方の。
「セラフィーナ。持参財を戻してくれ。紹介もだ。それから——」
「それから?」
「今度は私を先にしてくれ」
声が客間の天井へぶつかった。
バティストは扉の脇で何も言わない。けれど机の上には、次に出す返礼品が二つ置かれていた。上等な紅茶の箱と、新しい革手袋。どちらもわたくしの持参財から買い、誰へ渡すかはまだ決めていない。
以前なら、迷わず夫の名を書いたかもしれない。夫の顔を立て、妻としての礼を守り、次こそ何か返ってくると期待して。けれど今、ジュリアンが見ているのはわたくしではない。紅茶の箱と、封書と、取り戻したい入り口ばかりだ。
「先に、目についた方へ」
わたくしは紅茶の箱を取り上げた。
「あなたは今、最後尾ですの」
「私は夫だと言っている!」
「ええ。ですから、列から追い出してはいませんわ」
ジュリアンの顔から、最後の余裕が消えた。けれど彼の後ろには誰もいない。今日の最後尾は、間違えようがない。
わたくしは紅茶の箱をバティストへ差し出した。
「この紅茶は、あなたに。わたくしを真っ先に迎えてくれた人ですもの」
「恐れ入ります」
「休憩のときに飲んでちょうだい。フィナンシェも残しておきますわ」
「善処いたします」
「残さないおつもりね?」
バティストの口元が、ほんの少しだけ動いた。家令のくせに、焼き菓子に関しては強欲である。結構。欲しいものを欲しいと言う人には、こちらも気持ちよく贈れる。
わたくしは革手袋の方も手に取った。次は、職人の手を先に守った女主人へ。それから令嬢へ祝いの絹紐を選び、菓子店の夫婦には新しい銀型を贈ろう。考えるほど候補が増えていく。贈られる列の後ろで待つより、なんて忙しく、なんて楽しいのかしら。
「バティスト、返礼の手配を。こちらを先にお願いしますわ」
「ただちに」
扉が開く。わたくしの贈り物が、わたくしの選んだ人へ向かって動き出す。
ジュリアンは、空になった机の前に残った。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。
「悪くなかったな」と思われたら、★や感想を残していってもらえると、とても励みになります。
作者ページには他の短編も並んでいます。よろしければどうぞ。




