第6話 楽しいカワウソ
船が動いていた頃、
船旅は心地よかった。
風は強すぎず、
揺れも穏やかで、
水の音は静かだった。
それは努力の成果でも、
工夫の結果でもなく、
ただ、
そういうものだと思われていた。
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カワウソは、
船に乗るのが好きだった。
船べりに腰を下ろし、
流れる景色を眺める。
「気持ちいい」
それは感想であって、
意見ではなかった。
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「揺れが少ないな」
「今日は、いい感じだ」
カワウソはそう言って、
特に何かを求めることはなかった。
進んでいるかどうかも、
あまり気にしていなかった。
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ある日、
船が止まっていることに
カワウソは気づいた。
けれど、
不便は感じなかった。
風は相変わらず心地よく、
船は安定していた。
「今は、楽しい」
カワウソは、
それだけを口にした。
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ウマはオールのそばに立ち、
サルは言葉を探し、
キツネは計算を続け、
イヌは決まりを確認していた。
カワウソは、
船の中で横になっていた。
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小さな鳥が、
船のへりに止まった。
「楽しいなら、進まなくてもいいの?」
カワウソは、
少し考えた。
「今は、いい」
それは否定でも、
肯定でもなかった。
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楽しさは、
悪いものではなかった。
ただ、
それがどうして続いているのかを、
誰も確かめなくなっていただけだった。
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船は、
その日も川に浮かんでいた。
揺れは小さく、
風は穏やかで、
進んでいなかった。
カワウソは、
その快適さの中にいた。




