第4話 決まりを守るイヌ
村には、
決まりを大切にするイヌがいた。
イヌは、
声を荒げることはなかった。
誰かを叱ることも、
止めることもなかった。
ただ、
決まりを確認した。
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船に乗る者が集まると、
イヌは静かに言った。
「順番に、並んでください」
「右足から、乗ってください」
理由は、
添えなかった。
それが、
決まりだった。
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イヌは、
誰かを特別扱いしなかった。
早く来た者も、
遅れて来た者も、
同じように並ばせた。
決まりが守られている限り、
それでよかった。
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船のそばで、
ウマがオールの横に立っていた。
「漕げる」
ウマは、
短く言った。
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イヌは、
少し間を置いてから答えた。
「このオールが、
正規のものかどうか、
確認されていません」
(間)
「オールの持ち方について、
定義が確認されていません」
(間)
「漕ぐ角度について、
基準が確認されていません」
(間)
「結果として、
漕ぎ方全体が、
確認されていません」
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イヌは、
それ以上は言わなかった。
漕ぐなとも、
進むなとも、
言っていなかった。
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ウマは、
オールを手に取らなかった。
イヌに
止められたわけではない。
命令されたわけでもない。
「確認がないなら、
今は待つ」
ウマは、
そう言って、
オールのそばに立ち続けた。
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船は、
静かに川に浮かんでいた。
誰も、
漕いでいない。
誰も、
止めていない。
それでも、
船は進まなかった。
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小さな鳥が、
二匹を見比べて言った。
「決まりって、
進むためにあるんじゃないの?」
イヌは、
答えなかった。
答えられなかった
わけではない。
ただ、
その問いは、
確認事項の中に
含まれていなかった。
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決まりは、
守られていた。
誰も、
間違っていなかった。
それでも、
船は、
その場所に
留まっていた。




