小さい頃から夢だった~いち~
怪物が炎を吐き、爪で木々をなぎ倒す。
突如、轟音が響く。
熱風が吹き荒れ、アスファルトが焼け、車のボディが溶けかける。
怪物は灰と化し、跡形もなく消えた。
だが、その後に広がったのは歓声でも感謝でもなかった。
「お母さん、あれなに……?」
小さな子どもが恐る恐る指をさす。
「目を合わせちゃダメよ!」
母親は即答し、子の顔を覆い隠す。
そこに立つのは―――
大樽のような大きさの火炎放射器を軽々と構え、ガスマスクで素顔をかくし、重機めいた重厚な鎧に身を包む大柄な不審者。
そう、人々の前にいるのはどう見ても“魔法少女”ではなく“災害対策兵器”のような存在だった。
…そして、不審者は心の中でつぶやく。
―――どうしてこうなった。
重くなった火炎放射器を肩にかけながら、遠くを眺める。
そして意識は自然と、過去へと戻っていった。
「わたしね、将来は魔法少女になるの!」
私がまだランドセルが似合っていた頃、同じクラスの女の子たちと夢を語り合っていた。
煌びやかなドレスに、キラキラしたステッキ。
困っている人を助けて、みんなに「ありがとう」って言われる。
それが幼い私にとっての理想の未来だった。
先生も笑って言った。
「星野 彗ちゃんは優しいから、きっと立派な魔法少女になれるわね」
――あのときは、本気で信じていた。
だが現実は非情だった。
小学校を出てすぐに魔法少女養成学校に入学。
努力を重ね、成績上位を取り続けた。
そして、初めて魔力適性を測定した日。
全員に魔法のステッキが配られた。
周りの子がステッキにキラキラした光の粒や真っ赤な炎の花を咲かせる中、彼女の前に現れたのは――
溶接トーチ。
「え……?」
「な、なんで!? これ、魔法のステッキじゃなくて……工事現場の道具じゃない!」
炎がボッ、と床を焦がす。
試験官たちはざわつき、後から配られた結果表にはデカデカと書かれていた。
魔力系統:物理干渉特化(※過剰出力)
――可愛い衣装? ない。
――煌びやかな魔法? ない。
――あるのは、工業製品みたいな兵装と、制御不能な火力だけ。
それでも彼女は諦めなかった。
「……わたし、魔法少女になるって決めたんだもん!」
涙目で、拳を握りしめたあの日のことを、今も覚えている。