第7話「招かれた舞踏会」
◆リリアン視点
王城の大広間は、光に満ちていた。
シャンデリアの輝き、絹のドレスの波、音楽の流れて全てが夢のようだった。
私は、舞踏会に招かれたことがまだ信じられなかった。
エレーヌに背中を押されてドレスを選び髪を整えたけれど、華やかな場に立つとやはり少しだけ心細かった。
「リリアン・ド・ヴァルモン嬢。」
声に振り返ると、アラン・フィッツ・クラレンス様が立っていた。
黒の礼服に、淡いグレーのタイ。
彼は、まるで夜の風のように静かにそこにいた。
「よろしければ、一曲ご一緒しても?」
「……はい。」
彼が手を差し出す。
私は、少しだけためらってから、その手を取った。
指先が触れた瞬間、胸がふわりと浮いた。
音楽が始まる。
彼の手が、私の背に添えられる。
手袋越しでも、体温が伝わってくる。
その温度が、思ったよりもやさしくて少しだけ驚いた。
「緊張されていますか?」
「……少しだけ。舞踏会は初めてで。」
「そうですか。ですが、踊り方は完璧です。」
「それは……アラン様のリードが上手だからです。」
「それなら、僕の勝ちですね。」
「勝ち……?」
「あなたが笑ったので。」
彼の香りが、ふと鼻先をかすめる。
強くない。
けれど、近くにいることを確かに感じさせる。
その香りが、音楽と混ざって、空気に溶けていく。
「この場にいると、別世界のようですね。」
「ええ。まるで、現実じゃないみたいです。」
「でも、あなたはちゃんとここにいます。誰よりも。」
「……それは、褒め言葉ですか?」
「もちろんです。」
視線が交差する。
彼は、まっすぐに私を見ていた。
その瞳に、何かを探されているような気がして、私は少しだけ目を逸らした。
「目を逸らされると、少し寂しいですね。」
「……見つめられると、少し照れてしまいます。」
「それなら、次は目を閉じて踊りましょうか。」
「それは……危険です。」
「でも、信じてくれるなら、きっと大丈夫です。」
足元が軽くなる。
彼のリードは、驚くほど自然だった。
まるで、私の動きを知っているかのように、迷いがなかった。
曲が終わる。
彼は、手を離す前に、そっと言った。
「君と踊ると、時間が静かになりますね。」
「……それは、褒め言葉ですか?」
「もちろんです。」
私は、笑ってしまった。
その笑顔が、彼にも伝わったようで、彼も少しだけ微笑んだ。
舞踏会の喧騒の中で、彼の手の温度と香り、そして視線だけが、静かに残った。
アラン様は、風のように優しく、でも確かに私の心に触れていた。
◆アラン視点
王城の大広間は、光と音に満ちていた。
シャンデリアの輝き、絹の衣擦れ、笑い声。
いつも通りの華やかさのはずだった。
けれど、今夜は違っていた。
彼女が来ると聞いていたから。
リリアン・ド・ヴァルモン嬢。
あの屋敷で出会った少女。
彼女の名前を聞いたとき、胸の奥が静かに反応した。
理由はまだ曖昧だったが、確かに何かが動いた。
探しているつもりはなかった。
けれど、視線は自然と人混みを彷徨っていた。
そして、見つけた。
淡い色のドレス。
髪を上げ、少しだけ緊張した面持ち。
周囲の華やかさに気圧されながらも、彼女は凛としてそこに立っていた。
その姿に、足が自然と向かっていた。
「リリアン・ド・ヴァルモン嬢。」
彼女が振り返る。
その瞳が自分を捉えた瞬間、空気が変わった気がした。
「よろしければ、一曲ご一緒しても?」
「……はい。」
彼女の手が、自分の手に重なる。
指先が触れた瞬間、思わず目を伏せた。
冷たいというほどではないが、少しだけ温度が低い。
その感触に、なぜか胸が締めつけられた。
守りたくなるような、そんな衝動。
彼女の手は、静かに自分の手に委ねられていた。
音楽が始まる。
彼女の背に手を添える。
手袋越しでも、彼女の緊張が伝わってくる。
だから、少しだけ力を抜いて、彼女の動きに合わせた。
「緊張されていますか?」
「……少しだけ。舞踏会は初めてで。」
「そうですか。ですが、踊り方は完璧です。」
「それは……アラン様のリードが上手だからです。」
「それなら、僕の勝ちですね。」
「勝ち……?」
「あなたが笑ったので。」
彼女の笑顔は、柔らかくて、少しだけ照れていて、それが胸に静かに響いた。
彼女の体温の低さが、余計にその笑顔を儚く感じさせた。
彼女の香りが、ふと鼻先をかすめる。
強くない。
けれど、確かにそこにいることを感じさせる。
その香りが、音楽と混ざって、空気に溶けていく。
「この場にいると、別世界のようですね。」
「ええ。まるで、現実じゃないみたいです。」
「でも、あなたはちゃんとここにいます。誰よりも。」
「……それは、褒め言葉ですか?」
「もちろんです。」
視線が交差する。
彼女はすぐに目を逸らした。
その仕草に、少しだけ寂しさを覚えた。
「目を逸らされると、少し寂しいですね。」
「……見つめられると、少し照れてしまいます。」
「それなら、次は目を閉じて踊りましょうか。」
「それは……危険です。」
「でも、信じてくれるなら、きっと大丈夫です。」
彼女の動きは、軽やかだった。
自分のリードに、迷いなくついてくる。
その感覚が、心地よかった。
曲が終わる。
手を離す前に、言葉がこぼれた。
「君と踊ると、時間が静かになりますね。」
「……それは、褒め言葉ですか?」
「もちろんです。」
彼女が笑う。
その笑顔を見て、自分も少しだけ微笑んだ。
舞踏会の喧騒の中で、彼女の手の温度と香り、そして視線だけが、静かに残った。
リリアン・ド・ヴァルモン嬢は、風のように静かに、でも確かに自分の心に触れていた。
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