第6話「本と恋模様」
◆リリアン視点
図書室の午後。
私は、詩集を探していたはずなのに……
気づけば、料理本の棚にいた。
「……あれ?詩集って、スープの隣でしたっけ?」
独り言をつぶやいた瞬間、背後からくすっと笑う声がした。
「リリアン嬢、詩集は“心の栄養”ですが、スープとは別棚です。」
振り返ると、レオ様が立っていた。
その目元が、いつもより柔らかく見えた。
「……すみません、また間違えちゃいました。」
「いえ、リリアン嬢のそんな一面を知れて嬉しいです。」
彼は、私の手から料理本をそっと受け取って、元の棚に戻した。
その仕草が、まるで何かを大切に扱うようで、胸が少しだけ騒いだ。
「リリアン嬢のそういうところ……見ていると、なんだか心がほどける気がします。」
「……え?」
思わず、言葉がこぼれた。
レオ様は、少しだけ視線を逸らして、続けた。
「リリアン嬢は、いつも真剣で、でも少しだけ不思議で。その天然さが、図書室の空気を柔らかくしてくれる。」
「……私、そんなに変ですか?」
「変ではなく……君らしいんです。」
その言葉に、心がふわりと浮いた。
天然だと笑われることもあったけれど、レオ様の言葉は、まるで詩のように優しかった。
その日から、私は少しだけ自分の“天然”を好きになれた気がした。
だって、それをやさしく見つめてくれる人がいるのだから。
◆レオ視点
図書室の午後。
静かな空気の中、紙の匂いとインクの香りが心を落ち着かせてくれる。
けれど今日は、少しだけ違った。
棚の向こうに、見慣れた姿があった。
リリアン・ド・ヴァルモン嬢。
彼女は、なぜか料理本の棚の前で首をかしげていた。
「……あれ?詩集って、スープの隣でしたっけ?」
その言葉に、思わず口元が緩んだ。
彼女の天然なところは、図書室の静けさに不思議な温度をもたらす。
「リリアン嬢、詩集は“心の栄養”ですが、スープとは別棚です。」
彼女が振り返る。
少し驚いたような顔。そして、すぐに照れたように笑った。
「……すみません、また間違えちゃいました。」
「いえ、それがリリアン嬢らしさです。」
僕は、彼女の手から料理本を受け取り、元の棚に戻した。
その本を扱う指先が、自然と丁寧になっていた。
まるで、彼女の空気を壊さないようにするかのように。
彼女が詩集を手に取ると、僕も同じ本を手にしていた。
貸出記録を見れば、僕と彼女の名前が交互に並んでいる。
偶然か、何かの巡り合わせか、それを考えるだけで胸が少し騒いだ。
「……この詩、好きなんですか?」
彼女の問いに、僕は少しだけ目を細めて答えた。
「……なんとなく、静かな感じがいいと思って。」
それは、彼女の雰囲気に似ているからとは言えなかった。
でも、彼女はうなずいてくれた。
彼女がページをめくるたび、髪が揺れて、指先が言葉に触れていた。
その仕草が、なぜか心をほどいてくる。
完璧な詩よりも、彼女の“少し不思議な空気”の方が、ずっと魅力的に思えた。
僕は、何も言わずに本を棚に戻した。
そして、ほんの少しだけ微笑んだ。
彼女が気づいたかどうかは分からない。
でも、あの瞬間に彼女の存在が、図書室の空気をやさしく変えていた。
◆リリアン視点
図書室の午後。
レオ様と過ごした前回の時間が、まだ胸の奥に残っていた。
彼の言葉は、まるで風のように静かで、でも確かに心を揺らした。
けれど少しだけ、私は不安になっていた。
彼は、完璧に見える。
言葉の選び方も、所作も、知識も。
私の天然さを優しく受け止めてくれたけれど、それが“差”のように感じてしまった。
「……私、浮いてるのかな。」
ぽつりと漏れた言葉に、誰も答えない。
図書室の静けさが、少しだけ重たく感じられた。
そのとき、棚の奥から紙がひらりと落ちた。
拾い上げると、それはレオ様の筆跡だった。
でも、文字がぐにゃりと歪んでいた。
「……え?」
よく見ると、詩の一節が書かれているのに、途中でインクが滲んでいる。
そして、端には小さく書かれていた。
> “書き損じ。紅茶をこぼした。”
私は、思わず笑ってしまった。
あのレオ様が、紅茶をこぼして詩を台無しにしてしまうなんて完璧な人にも、こんな一面があるんだ。
その瞬間、胸の奥の“差”がふっとほどけた。
彼も、私と同じように少しだけ不器用なところがあるのかもしれない。
それがなんだか嬉しかった。
私は、その紙をそっと棚に戻した。
そして、心の中で思った。
欠けたところにこそ、静かな優しさが宿るのかもしれない。
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