第19話「図書室の選択」
◆リリアン視点
図書室の午後は、いつもより静かだった。
窓から差し込む光が、書棚の影を長く伸ばしている。
私は、詩集を手に取りながら、心の中で言葉を探していた。
アラン様の手紙。
筆跡の確信。
そして、彼の言葉のぬくもり。
それらが、私の心を少しずつ前に進めてくれていた。
でも、もう一人……
私の心に静かに触れてくれた人がいる。
「リリアン嬢。」
レオ様の声は、いつも通り穏やかだった。
私は、そっと顔を上げた。
彼は、窓際の席に座っていた。
手には詩集。
でも、ページは開かれていなかった。
「今日は、何を読まれていたのですか?」
「……詩ではなく、手紙を。」
その言葉に、彼は少しだけ目を細めた。
何も聞かず、何も詮索せず——
ただ、静かに待ってくれていた。
「筆跡で、気づいたのです。あの手紙は、アラン様のものでした。」
レオ様は、驚いた様子は見せなかった。
むしろ、どこか納得したような表情だった。
「それは……良かったですね。」
その言葉は、まるで祝福のようだった。
でも、押しつけがましくなく、優しくて、静かだった。
「私は、ずっと迷っていました。 誰かに好かれることが怖くて、自分の気持ちに確信が持てなくて。」
「それでも、選ばれたのですね。」
「ええ。ようやく、心が動いた気がします。」
レオ様は、詩集を閉じた。
そして、窓の外を見ながら言った。
「恋は、詩のようなものです。誰かの言葉に心が重なったとき、それが選ぶということなのかもしれません。」
私は、彼の横顔を見つめた。
その瞳は、どこか遠くを見ていた。
でも、私の心には、確かに届いていた。
「レオ様……ありがとうございました。」
「僕は、何もしていませんよ。」
「いいえ。レオ様が、何も言わずにいてくれたから……私は、自分の心と向き合えました。」
彼は、少しだけ微笑んだ。
その笑顔は、静かな理解の証だった。
図書室の空気が、少しだけ温かくなった気がした。
ふたりの間に、言葉ではない何かが流れていた。
◆レオ視点
図書室の午後は、静かだった。
窓から差し込む光が、書棚の影を長く伸ばしている。
僕は、詩集を開いたまま、ページをめくることなく座っていた。
リリアン嬢が入ってきたのは、そんな静けさの中だった。
彼女の足取りは、いつもより少しだけ軽く見えた。
けれど、瞳には何かを伝えたいという光が宿っていた。
「リリアン嬢。」
声をかけると、彼女はそっと顔を上げた。
その表情に、僕はすぐに気づいた。
彼女は、何かを選んだのだ。
「今日は、何を読まれていたのですか?」
「……詩ではなく、手紙を。」
その言葉に、僕は静かに頷いた。
彼女が何を言おうとしているのか、分かっていた。
でも、僕からは何も聞かなかった。
彼女の口から語られるまで、待つことにした。
「筆跡で、気づいたのです。あの手紙は、アラン様のものでした。」
その言葉に、胸が少しだけ締めつけられた。
けれど、驚きはなかった。
むしろ、ようやく彼女が答えにたどり着いたことが嬉しかった。
「それは……良かったですね。」
僕の声は、静かだった。
彼女の選択を祝福するように。
でも、押しつけがましくならないように。
彼女は、迷っていた。
誰かに好かれることが怖いと、以前話していた。
でも今は、自分の心に向き合い、選ぶことができた。
「恋は、詩のようなものです。誰かの言葉に心が重なったとき、それが選ぶということなのかもしれません。」
僕は、窓の外を見ながらそう言った。
彼女の心が、誰かに重なったことを、静かに受け止めたかった。
「レオ様……ありがとうございました。」
「僕は、何もしていませんよ。」
「いいえ。レオ様が、何も言わずにいてくれたから、私は、自分の心と向き合えました。」
その言葉に、僕は少しだけ微笑んだ。
彼女の選択を、心から祝福したかった。
それが、僕にできる最後の優しさだと思った。
図書室の空気が、少しだけ温かくなった気がした。
彼女の背中を、そっと押す風になれたならそれで十分だった。
◇◇
静かな夜だった。
書斎の窓から、月が淡く差し込んでいる。
僕は机の引き出しを開け、古びた便箋をそっと取り出した。
「あの夜、僕は何を伝えたかったんだろう。」
指先で紙の端をなぞる。
文字はもう滲んでいて、自分にも読めないほどだった。
「彼女が読んだかどうかは、もうわからない。でも、あの言葉は僕の本当だった。」
僕は手紙を元の場所に戻し、そっと引き出しを閉めた。
月の光が、横顔を静かに照らしていた……
「続きが気になる」「面白かった」と思って頂けましたら、リアクションやブックマーク、広告下の【★★★★★】で応援いただけると嬉しいです。誤字脱字のご連絡ありがとうございます。引き続きよろしくお願いします!




