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第17話「涙の夜」



◆リリアン視点


 その夜、庭園の回廊は静かだった。

 月が雲の合間から顔を出し、石畳を淡く照らしていた。

 私は、ひとりで歩いていた。

 考えすぎて、眠れなかったから。


 アラン様の婚約話。

 恋文の主。

 レオ様の花束。

 それぞれが、心の中で絡み合って、ほどけなかった。


 「リリアン嬢。」


 背後から、静かな声がした。

 振り返ると、アラン様が立っていた。

 彼も眠れなかったのかもしれない。


 「こんな時間に、外を歩かれては風邪をぶり返しますよ。」


 その言葉は、優しくて、少しだけ困ったような響きだった。

 私は、笑おうとしたけれど、できなかった。


 「……考え事をしていたの。」


 「何か、僕にできることはありますか?」


 その問いに、胸が締めつけられた。

 彼の声は、まっすぐだった。

 でも、私の心は、まっすぐではなかった。


 「アラン様……私は、誰かに好かれていることが、怖いの。」


 「怖い?」


 「ええ。誰かの想いに応えるには、自分の気持ちに確信がなければいけないでしょう?でも、私は……まだ、分からないの。」


 言葉にした瞬間、涙がこぼれた。

 自分でも驚くほど、静かに、でも止まらなかった。


 アラン様は、何も言わなかった。

 ただ、そっと隣に立って、そして迷いなく私の肩に腕を回した……


 その動きは、急でも強引でもなかった。

 まるで、風がそっと木々を揺らすように。

 私は驚いたけれど、拒む気持ちはなかった。

 むしろ、その温もりに、心がほどけていくのを感じた。


 「僕は、待ちます。」


 低く、静かな声が耳元で響いた。

 その言葉と、彼の腕のぬくもりが、私の不安を少しずつ溶かしていった。


 「リリアン嬢が、自分の心に確信を持てるまで。そのとき、僕が隣にいられるなら、それで十分です。」


 私は、涙の中で彼を見つめた。

 その瞳は、まっすぐだった。

 でも、押しつけがましくなかった。

 それが、私の心を少しだけほどいてくれた。


 その夜、私は眠れなかった。

 でも、心の中には静かな灯がともっていた。



◆アラン視点


 夜の回廊は、静かだった。

 月が雲の隙間から顔を出し、石畳を淡く照らしていた。

 眠れずに歩いていた僕は、遠くに見慣れた姿を見つけた。


 リリアン嬢。

 彼女も眠れない夜を過ごしていたのだろうか。

 その背中は、少しだけ小さく見えた。


 「リリアン嬢。」


 声をかけると、彼女は振り返った。

 瞳が揺れていた。

 でも、笑おうとしていた。

 その無理な笑顔に、胸が締めつけられた。


 「……考え事をしていたの。」


 「何か、僕にできることはありますか?」


 その問いに、彼女はしばらく黙っていた。

 そして、ぽつりとこぼした。


 「アラン様……私は、誰かに好かれていることが、怖いの。」


 その言葉に、僕は息を呑んだ。

 彼女の声は震えていた。

 そして、涙がこぼれた。


 僕は、迷わずそっと彼女の肩に腕を回した。

 強く抱きしめることはしなかった。

 ただ、彼女が崩れないように、そっと支えるように。


 彼女は驚いたように少しだけ身を固くした。

 でも、すぐにその緊張がほどけていった。

 僕の腕の中で、彼女は静かに泣いていた。


 「僕は、待ちます。」


 その言葉は、僕自身への誓いでもあった。

 彼女が自分の心に確信を持てるまで。

 そのとき、僕が隣にいられるなら、それで十分だ。


 彼女の髪に、月の光が落ちていた。

 その光が、涙を照らしていた。

 でも、僕にはそれが美しく見えた。


 この夜、僕は決めた。

 彼女の不安を言葉で消すことはできない。

 だから、行動で示す。

 彼女が選ぶその日まで、僕は揺るがない。

 家の意向も、婚約話も、僕の想いを止めることはできない。


 彼女が僕を選ばなくても……

 僕は、彼女を選び続ける。



◆レオ視点


 図書室の奥で、僕は詩集を整理していた。

 静けさが、言葉の余韻を際立たせる時間。

 けれど、その静けさを破るように、扉の外から声が聞こえた。


 「聞いた?アラン様の婚約話、進んでるらしいわよ。」


 「南方の伯爵令嬢でしょう?侯爵家の長兄が動いてるって。」


 その言葉に、僕は手を止めた。

 声の主は、通りすがりの令嬢たち。

 噂話の一つかもしれない。

 でも、胸が静かに騒いだ。


 アランの婚約。

 それが事実なら、リリアン嬢はどう思うだろう。

 彼女の瞳が揺れていたのを、僕は何度も見てきた。


 花束を贈った日。

 彼女は、花言葉を読み取っていた。

 でも、答えはなかった。

 それでも、僕は彼女の心に触れられた気がした。


 アランは、まっすぐな人だ。

 彼が婚約を望んでいるとは思えない。

 けれど、家の意向は重い。

 それが、彼の選択を縛る可能性もある。


 僕は、図書室の窓から庭園を見下ろした。

 リリアン嬢とアラン。

 そんな偶然はないか……


 もし、彼女が涙を流していたなら、僕の言葉では届かない場所に彼がいたということ。


 僕は、何も言わない。

 ただ、見守る。

 彼女が選ぶその瞬間まで。

 それが、僕の役割だと思っている。





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