第9話 オリバーの就職
葬儀屋の親方サワベリーはは背が高く、痩せこけ、関節の太い男で、すり切れた黒い服に、同じ色の繕い物のついた綿の靴下、それと似たような色の靴を履いていた。
慇懃な愛想笑いを浮かべながらバンブルのほうへ近ずき親しげに握手を交わす。
「商売の方はどうかね?サワベリーさん」
「今しがた昨日亡くなった女の身長を測っていたところでさ。」
陽気に笑いながら答える。
「商売繁盛ってところかな。」
バンブルは葬儀屋が差し出した煙草入れに指を突っ込みながら言った。
「あんたは大金持ちになるに違いない」
「そう思いますか?委員会が認めた葬儀の金額はごく僅かですがね。」
「その分、棺桶のサイズも小さくするんだろう?」
冗談のつもりらしい。バンブルは静かに笑う。
それが尊大に見えるのは彼が自分の地位にふさわしいと思い込んだ表情で笑うからだろう。
サワベリー親方は空気を読める男のようだ。
偉いお役人様の冗談に、しばらくの間笑い転げてみせた。
「まあまあ、バンブルさん、確かに新しい食料支援制度に変わってから棺桶のサイズが小さくなったのはたしかでさあ。だが、わしらも利益を出さんといけません。棺桶の材料はよく乾燥させた高価な木材に鉄の取っ手は運河を通ってバーミンガムから運ばれてくるんですぜ。大きな儲けにはなりません。」
「どんな商売であってもそう簡単なものなどない。だが、長くやっておるとそれなりに役得もあるのだろう?」
「それはそうでございます。バンブル様。棺桶で利が少なくとも長い目で見れば埋め合わせが出来るもんです、ほら、ふふふ」
二人はニヤリと笑い合う。
「ところで、あんたに良い話があるんだが....」
「ほお、どのような?」
「子供の面倒を一人見る気はないか?5ポンドの養育費をつけるが、どうかな?」
「良い話でございますね。わしでよろしいんで?」
サワベリーに否はない。無料で働く労働力に5ポンドのおまけがつくのだ。断る選択肢はなかった。だが、念のために尋ねる。
「なにか訳ありですか?」
「そうではない。くそ!無知な下級判事がわしの作った年季奉公契約書を否決しよった!」
バンブルは不愉快なことを思い出したのか、怒りに顔を歪める。
「そりゃまたなんで?」
サワベリーは巧妙に合いの手を入れる。
「下級判事など深遠な哲学も経済も政治もなにも分かっておらんのだ。」
「全くです。」
「無礼で下品で卑劣な軽蔑すべき悪党どもだ。」
「ごもっともでございます。」
バンブルは三角帽子を取り、その内側からハンカチを取り出し、怒りで生じた額の汗を拭い、再び三角帽子をかぶって、葬儀屋の方を向いた。
「では、分かっておるな。」
声を潜めてより落ち着いた声で言った。
「もちろんですとも。」
サワベリーはニヤリと笑いを浮かべる。
その後、二人は密談をしてその中にオレの年季奉公の契約も含まれていたらしい。
試用期間があるらしいが、オレの次の奉公先が決まった。
その晩、オレは救貧委員会の紳士たちの前に連れて行かれた。そして葬儀屋のもとへ行くことを告げられる。
「もし自分の境遇に不満を言ったり、再びここへに戻ってきたりしたら、どうなるか分かっているだろうな。」
紳士たちは冷酷に宣告する。
「次は船乗りとして海へ送られることとなるだろう」
親切にも、そこで溺死させられるか、頭を殴られることを教えてくれた。
オレはほとんど感情を表に出さなかったので、彼らは全員一致でオレを冷酷な悪党と評し、バンブル氏に直ちに連れ出すよう命じた。