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第79話 暗転

トムたちハムステッド村の住人が元の村に移り住んだ直後、放棄された小屋の一つが火事で全焼した。

その時オリバーは、ブラウンロウの屋敷に呼ばれてロンドンに滞在しており、不在だった。

油断だった。

これまではダンカンの脅威を警戒し、心眼智を定期的に発動して不審者を即座に発見・排除してきた。

だが、ダンカンがウィットフィールド村の宿を引き払って以来、不審な人物の影も見えず、オリバーの心には隙が生まれていた。

その隙を見透かしたかのように火事は起こった。


だが、問題はその直後に訪れた。

ナンシー宛てに、裁判所から訴訟提起の通告が届いたのだ。

原告はダンカン。

請求内容は「ナンシーの利用権の停止」。

理由は「管理義務違反」。


ダンカンの主張はこうだ。

火事は林地全体に延焼する危険があった。もしそうなれば、将来的に自分が受ける損害は甚大である。

さらに、盲目のナンシーと未成年のオリバーに広大な林地を管理する能力はない。

しかも、信託管理者であるエドワードはビルマに赴任中で不在。

実質、管理権は空白である。


加えて、ダンカンは「林地管理の不備を通告したにもかかわらず改善がなされなかった」と主張した。

調べてみると、ナンシーのコテージの厨房の隅から三通の通告書が見つかった。

盲目のナンシーにはそれを見つける術もなく、当然放置されていた。

それらは証拠として押収され、役所職員が火事現場の検証に入った。


そして担当判事は、あのリッチ・ボイヤー。

ダンカンが弱みを握る判事であった。


「まずいことになったな」

訴状を読み終えたディック弁護士が苦い表情を浮かべる。

「はい、完全にやられました」

オリバーは悔しさに唇を噛みしめた。

これまでのダンカンの粗暴さとは違う。

外堀を固め、証拠を揃え、周囲への根回しも完璧。

このままでは、ナンシーの利用権は確実に失効する。

裁判は五日後に指定された。

しかもスピード結審の公算が高い。

「ビルマのエドワード氏から再生した遺書の裏付けは、まだ届かないのか?」

「無理ですよ。片道で少なくとも二か月はかかります。半年先になるかもしれません。来年以降でなければ到底……」

「それでは、奇跡でも起こらない限り裁判には勝てん」

ディック弁護士の声は重く沈んだ。

しかも事態は加速度的に悪化していた。

既にダンカンの雇った養蚕業者が林地の桑畑を差し押さえ、役所は「必要な措置」として認めてしまったのだ。

立ち入り禁止の立て札が立ち、警備員まで配置されている。


絹工場は稼働を始めていた。

来年以降ならエドワードの林地からの供給で操業可能だが、今年の分だけはナンシーの林地に依存していた。

この供給が断たれれば、オリバーとエドウィンの契約は不履行となり、責任はナンシーとオリバーに降りかかる。

そして、ダンカンの胸一つで絹事業そのものが頓挫しかねない。

敵ながら見事な逆転劇。

オリバーは顔を青ざめさせた。

【これはダンカンの仕事ではありませんね。】

誰か強力な後ろ盾がいるに違いないが、その人物の姿は見えてこなかった。

そして八方ふさがりのまま裁判の日は近づいて来ていた…

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