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第53話 捜索

凶刃は再び放たれた。

「一体、誰がこんな真似を…」

アリシアを殺した奴――。

ブライアンの脳裏に、15年前のあの事件の記憶がよみがえる。

あれは事故ではなかった。誰かの悪意によって仕組まれた凶行だったのだ。

捕らえたイザベルを問い詰めたが、彼女は「自分は関係ない」と繰り返すばかり。

鉄パイプを手にしていた男は阿片中毒で、ほとんど正常な判断力を失っていた。

腕を骨折し、痛みで獣のようにうなるばかりで、まともな会話すらできなかった。  


「オリバー! 大丈夫か?」

事務室のソファで気絶していたオリバーが、むっくりと身を起こす。

それを見て、ウイリアムが声を上げた。

【マイトファジーによりカロリー残量5%に回復しました。すぐに何か食べてください】

「俺、どれくらい気を失ってました?」

「30分くらいだな」

「何か食べるものないですか?」

「現金な奴だな! 意識が戻った途端に腹が減っただと?」

ウイリアムは苦笑しながら、ナンシーが作ったポテトケーキを渡した。

「あ、これ俺の弁当じゃないですか? サンドイッチもあったはずじゃ…?」

「悪いな。お前が気絶してる間に、もったいないから俺が食っちまった」

ウイリアムが目を泳がせながら悪びれない口調で答える。

オリバーは残されたポテトケーキを頬張ると、みるみる力が戻ってくるのを感じた。  

「メラニーさんは?」

「大丈夫だ。トーマスさんが見てくれてる。容体は安定してるってさ」

メラニーはチャドウィック家の別宅に移されていた。

「意識は戻った?」

「いや、まだだ。トーマスさん曰く、意識が戻ると痛みがひどいだろうから、このままの方がいいらしい」

トーマスは、意識が戻った際に耐え難い痛みを抑えるため、少量のモルヒネを使うことを考えているようだった。

この時代では、それが最善の対処法だろう。  

「オリバー、お前本当に大丈夫か?」

ブライアンが心配そうに顔を覗き込む。

「平気です。腹が減ってただけなんで。なんか食べるものありません?」

「は? 腹減って倒れたのかよ?」

「はい。ウイリアムさんにサンドイッチ食べられちゃったんで」

「お前、根に持つタイプだな」

ウイリアムがバツの悪そうな顔をする。

ブライアンは苦笑しながら、特大のフランスパンとチーズを渡した。

オリバーはそれをガツガツと頬張った。

二人とも呆れたようにその様子を眺めていた。


「兄貴!」

タイラーが部屋に入ってきた。

「お、タイラー。どうだった?」

ブライアンの声に、タイラーは首を振る。

「ダメだ。あいつ、人間なのか獣なのかわからん状態だ」

「タイラーさん、その男って誰なんですか?」

オリバーが割って入る。

「お、オリバー、気がついたか! 大丈夫か、お前?」

「はい、すっかり元気です」

「あいつはロレンって男だ。非常勤の作業員だよ。気づかなかったが、阿片中毒がかなり進んでる。あの状態じゃ、長くは持たねえな」

誰が想像しただろうか――タイラーの言葉は、翌朝、現実のものとなった。

ロレンは宿舎の寝台の上で冷たくなっていた。

枕元には空になった阿片の小瓶が転がり、顔は苦痛に歪み、爪が手のひらに食い込むほど強く握られていた。

ロレンは死に、事件の真相も彼とともに闇に葬られたかに見えた。 


食事を終えたオリバーの若い身体は、みるみる回復していた。

【回復したようですね。さあ、行きましょうか?】

…行くって、どこだよ?…

【現場に決まってるでしょ。誰がこれを仕組んだか、手がかりが残ってるかもしれませんよ】

…なるほど!…

「ちょっと、さっきの事故現場に行ってみますね」

「お前、もう大丈夫なのか?」

ブライアンが心配そうに尋ねる。

「はい、すっかり!」

オリバーはそう言い残し、部屋を飛び出した。 

幸い、あの手術について詮索する声はまだなかった。

だが、それは嵐の前の静けさにすぎない。

——いずれ必ず、説明を求められる。その時、何を答える?

 

事故現場は、まるで時間が止まったようにそのまま放置されていた。

【鉄パイプの指紋を取っておきましょう】

『状態スキャニング』と『感覚強化』を発動すると、指紋は簡単に採取できた。

オリバーはそれらをヨーダのデータベースに保存した。


翌朝、オリバーが出勤すると、ロレンの死が告げられた。

急いで監禁部屋に駆けつけると、ロレンは宿舎の寝台の上で冷たくなっていた。

枕元には空の阿片の小瓶が転がり、顔は苦痛に歪み、爪が手のひらに食い込むほど強く握られていた。

【小瓶の中身は濃縮された阿片です。死亡原因はこれによるショック死で間違いないでしょう】

…小瓶の指紋が一致してる。じゃあ、残りの指紋が裏で糸を引いてたもう一人の犯人ってことだな?…

【その通りです】  

オリバーはタイラーに頼み込み、イザベルに会いに行った。

「イザベル、もう帰っていいぞ」

「は? 無実の女を3日も閉じ込めておいて、言うことはそれだけかい?」

イザベルは毒づきながら部屋を出て行った。

【指紋が一致しました。彼女は鉄パイプとロレンの持っていた濃縮阿片の小瓶、両方に触れています】

…じゃあ、イザベルが主犯ってことか? ロレンはあそこまで中毒が進んでたら、まともに動けねえだろ?…

【イザベルが阿片を餌にロレンを操ったと考えるのが妥当です】

指紋は一致した。

...令和の日本ならこれで証拠になるんだけどな...

【この時代では指紋の技術はまだ、確立してませんね。】

…でも、目的はなんだ?…

【明確な動機は推測が難しいですが、感情的なもつれが最も可能性が高いです】

…恨みか? でも、イザベルと誰にどんな接点があるんだ?…

【15年前の事件にヒントがあるのでは? 試作機の事故で亡くなった人がいます。その人がエリザベスの母親、アリシアだったのでは?その事件が今回の鍵です】

…つまり、アリシアさんが安全装置の開発を主導してたってことか?…

【エリザベスが拉致された時期から推測すると、ほぼ間違いないでしょう】

…じゃあ、イザベルはアリシアに恨みがあって、その娘のエリザベスを狙ったってこと?…

【直接エリザベスを狙ったというより、彼女が主導する計画を妨害したかったのでしょう】

…でも、なんでだ?…

【単純な理由です。イザベルはアリシアに対し、強いコンプレックスと嫉妬を抱いている。あなただって同期入社の同僚が自分より先に昇進したら、穏やかじゃいられないでしょ?】

...イザベルはもしかして、ベスがアリシアの娘だって気が付いているのか?...

【その可能性は極めて高いですね。アリシアへのコンプレックスを今度はエリザベスへ投影している。そう考えるのが妥当です。】

…そんな理由でそこまでやるか?…

【やります。歴史的に見ても、嫉妬が引き起こす事件は統計的に多いんです】  

…こわ!でも、イザベラがまだ、なんか仕掛けてくると思うか?…

【彼女は今回、自分の目論見の失敗を知るでしょう。そうなるともっと直截的な方法を取ってくる可能性が大です】

…そうなるとベスのことが心配だなあ…

【監視が必要かと思います】

…でも、24時間監視はさすがに難しいな…

【ナンシーと出会う前には『状態スキャニング』と『生存限界』を同時発動して野宿してましたよね。あれを使うんです。】

スキルの応用技で寝たまま周囲を出来る便利なものがあることを思い出す。

そう言えばあった。

寝たまま周囲を監視できる野生動物並みのサバイバルスキル。

オリバーはその応用技を使い、イザベルの動向を見張り始めた。 

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