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第49話 忌むべき再会

話は数日前に遡る。


イザベラにとって、二度と顔も見たくない忌まわしい男が二人いる。

ひとりは父親。そしてもうひとりは、元の亭主だ。

…あの男が、なぜこの工場にいる?…

目の前の男は、かつての夫ロレンだった。

あまりにも老け込み、最初は分からなかったが、向こうから声をかけてきた。

「おまえ……イザベラだろ。久しぶりだな。俺だ、ロレンだ」

「誰だい? お前なんざ知らないねぇ」

「俺はお前の亭主じゃねぇか。まさか忘れたとは言わないよな?」


髪は乱れ、顔色は土気色にくすみ、虚ろな目は針穴のように細まっている。

…阿片か?…

昔から酒癖は悪かったが、阿片には手を出さなかったはずだ。

落ちぶれたものだと思うと同時に、見るだけで吐き気が込み上げた。

「悪いけど、知らないもんは知らないねえ」

足早に立ち去ろうとした瞬間、腕を掴まれた。

「何すんだい!」

振り払おうとしてもみ合いになる。

「頼む……助けてくれ。な? ほんのちょっとでいい、金を貸してくれ」

…一体何なんだ。なぜ、こんなゴミばかりが私の周りに寄ってくる…

神の怒りか、悪魔の呪いか。助けてほしいのは、こっちの方だ。

父も母も屑、そして元亭主は今やゴミ以下。

生まれてこのかた、友人などいたこともない。


――アリシア?

唯一、自分と昼食を共にし、笑いあった記憶があった。

だがそれも束の間、彼女は幸福を手にしていた。

裏切られた。

逆恨みではない――幸福など、あの女に許されていいはずがない。

それより、エリザベスだ。

よく見ると、あの頃のアリシアそっくりではないか。

毎日楽しげに取り巻きに囲まれ、マスクを配り、工場の空気を浄化する機械を設置し、皆から称賛を受けている。

アリシア以上に、心を苛む存在――あの女の娘。


「触るんじゃないよ」

苛立ちのまま、腕を乱暴に振り払うと、ロレンは弱々しくその場に崩れ落ち、情けない声をあげて泣き出した。

…こんな男だったか?…

別れ話を切り出すたび、暴力を振るい、

「お前のような地味で魅力のない女を、ほかの誰が相手にする? 俺にもっと感謝しろ」

と怒鳴り、金をせびり、奴隷のように扱ってきたあの頃とは違う。


「金が欲しいのか? 阿片か?」

「あ、阿片だ……!」

「ここじゃなんだ。ついてきな」

この村でも阿片は手に入れるのは難しくない。

危険性を理解しない農民や工員の中には常習者もいた。

イザベラは、禁断症状をわずかに和らげる程度の量を計って渡した。

ロレンはそれを貪るように吸い込み、イザベラは冷ややかな目で見下ろす。

「……頼む、これじゃ足りねぇ。もっとくれ」

ロレンが縋りつく。

「触るんじゃない、汚いだろうが」

「なんでもする……だから頼む、後生だ」

「なんでも、だな?」

「ああ……何でも言ってくれ」


イザベラは、ある企みを告げた。

その結果、また、人が死ぬか大怪我をするかもしれない。

だが、何を言われても構わない。この阿片中毒者の戯言が証拠になる可能性は低い。

仮に罰せられたとしても、それはそれでいい。

…好きにするがいいさ…

そう思った瞬間、あのエリザベスが母と同じ運命を辿るかもしれない――

その想像だけで、暗い愉悦が胸に広がった。

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