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第48話 その日

その日、オリバーは工場に泊まることをナンシーに伝えると夜食にサンドイッチとポテトケーキを持たせてくれた。

どうせ、ウイリアムやエリザベスからたかられるのは目に見えていたので、多めに頼むとナンシーが少し寂しそうに言う。

「ベスは元気なのかい?」

「ああ、おばあちゃん、やっぱり気になるよね。でも、アマゾネス並みに逞しいよ。」

「アマゾネス?そりゃいったい何だい?」

「アマゾンの女戦士、知らない?」

「女戦士?」

ナンシーは目を丸くして笑った。

「ベスはおばあちゃんにとても会いたがっているよ。でも、もう少し待って欲しい。今峠を越えそうなところなんだ。」

「分かったから、早くお行き」


ハムステッド村はダンカンの進める『囲い込み』が進み穀倉地が全て牧草地に変わり、なんとなく寒々とした風景になっていた。

ウィットフィールド村に入ると豊かな穀倉地帯になり風までも柔らかくなったように感じる。

村は人々でにぎやかだった。

工場に着くと馬車を置き誰もいない倉庫へとまず向かう。

ここで時々結跏趺坐して瞑想と呼吸法でスキルの効果を高める。

『状態スキャニング』『感覚強化』『感覚速度10倍速』同時発動すると工場内の様々な会話や人々の表情、動作する機械の調子まで情報として流れ込んでくる。

それを『思考速度10倍速』『思考強化』で分析をする。

機械の安全装置とエドウィンの工場訪問の噂は大きな話題となっていた。

マスクの件もあり工員達には概ね期待に満ちた評価がほとんどだった。

ショックだったのは「オリバーは色ガキだ」「変態小僧」だとか誤解が女工員の中で広がっていたことだ。

「なんならあの色気づいたガキの初めてをもらってやってもいいだよ。ギャハハ」

と笑う女工員などもいた。

【それ本当に誤解なんですか?一部真実も含まれていませんか?】

...含まれてねぇよ...

だが、仕事に対する希望と興味が高まっていることは良い傾向だった。

印象スペクトルを色分けすると一目瞭然で期待感のオレンジ系の色で工場内が満たされていた。

その中に赤黒い空間がシミのように見えた。

そこに一人の痩せた男が所在なさげに目を泳がせていた。

始業のベルがなると他の工員とともに所定の位置について仕事を始めた。

更に詳しくその男をスキャンしてみるとアヘン依存症の可能性が確認できた。

...アミラさんに報告しとくべきだな...

【そうですね。】


意外にも犯人と思しき女がその日の夜に見つかった。

女は終業後誰もいなくなった工場でスパナを取り出して試作機に何かしようとしていた。

オリバーのセンサーにもそれは引っかかったが、あまりにも大胆な行動にアランが直ぐに気が付いて女を取り押さえた。

「わたしはなにもしちゃあいないよ。ネックレスがここに落ちたからこれで取り出そうとしただけだ。」

確かにネックレスは試作機の下に転がっていた。

だが、アランとともにいた機械工もスパナでこの女がボトルを回そうとしていたところを見ていた。

「嘘をつくな!」

タイラーに報告する。

「お前には重要な容疑がかかっている悪いが今晩からしばらくここに監禁して取り調べさせてもらう」

女はイザベラだった。

「何を聞かれても返事は変わらないよ。わたしゃ何にもしてない。ネックレスと拾おうとしただけだ。」

女はふてぶてしく言い放す。


再び工場長室にブライアン他5名が集まる。

「アラン、あの女がボルトを回すところを確かに見たのか?」

「わたしは直接見たわけではありませんがニックは確かに見たと」

「ボルトは緩んでいたのか?」

「いいえ、緩んではいませんでした。残念ながら物証はありませんね。」

「うむぅ..状況から見てあの女の仕業でほとんど間違いないな!どうする?」

とブライアンがタイラーを見る。

「ベス、あの女に見覚えはないのか?」

「分からない。あの時は若くてきれいな女の人だったのは覚えているんだけど。喋り方は似ているような気がするわ。」

オリバーはイザベルの顔を脳内のスクリーンに再生する。

ヨーダに依頼して年齢を10歳若返らせて健康的にした姿をシュミレートする。

オリバーは感覚強化で手先を器用にして紙にさらさらと女の若い頃の想像画を描いてみた。

「オリバー何描いてるんだ?」

ウイリアムが不審な目を向ける。

「あの人の若い頃を想像してみたんですよ。こんな感じですかね?」

「お前、そんなこともできるのか?」

呆れたような顔で肩をすくめる。

「うまいな!」

ブライアンの絵の出来の良さに驚いたように頷く。

「見せて!」

エリザベスが見て唸る。

「よく似てると思うけど確信はないわ」

これも決定打にはならなかった。

だが、犯人はとらえたと言ってもいい。

結論としてエドウィンの訪問は予定通り実行する。

機械の整備は直前に間違いなく行う。

危険物はエドウィンの通るところには置かない。

これで全員が同意した。


オリバー達は万全の準備を整えてその日の朝を迎える。

前日に行ったテスト試作機は問題なく稼働した。


そしてエドウィン・チャドウィックはこの工場へやって来た。

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