第47話 対策会議
アランが製作したダストファンの効果は絶大だった。
オリバーがヨーダのセンシング機能で工場内の粉塵濃度を測定したところ、「0.8mg/m³」。当初の「180mg/m³」から激減し、安全基準を完全に満たしていた。
咳や肺の不調を訴える者は、もはや一人もいない。
もしこのうえ、機械事故を防ぐための安全装置の設置にも成功すれば、この工場の安全水準は少なくとも昭和の日本並みにまで向上するだろう。
しかし、予定されていた試作機のテストは突然中止となった。
オリバーの『状態スキャニング』スキルが異常を検知したのだ。
起動レバーを引こうとしたアランに、オリバーが警告する。
「待ってください。剪断部が微妙にずれていませんか?」
「そうか? 大丈夫だと思うぞ。昨日、何度もチェックしただろ?」
そう言いながら、アランは最も危険な回転歯の部分を手で回し、息をのんだ。
回転歯が「ガタッ」と音を立てて外れたのだ。
「どうなってるんだ?」
調べてみると、ボルトが3本も外れているのが見つかった。
現在の工場長タイラーは、ブライアンの弟だった。
彼は十年前に起きた、あの不可解な事件をよく覚えている。
アランの説明を聞くほどに、疑念は深まった。
「兄貴……どう考えてもおかしいだろ。十五年前のこと、覚えてるよな?」
もしあのまま機械を起動させていたら、間違いなく誰かが大怪我をしていたに違いない。
「誰かがやってるってことか?」
「俺はそう思ってる」
「だが、それをどう証明する?」
「それは分からねえ。だが、エドウィンさんの前でテストするのは危険すぎる」
「……中止、しろということだな?」
「工場長としては、そう判断するしかねえ」
タイラーは苦々しい表情で結論を口にした。
「もしお前の言う通りだとすると——十五年前、アリシアを殺したのはそいつってことになるな」
「ああ、その通りだ。十数年前、ベスをロンドンの救貧院に連れていったって女が怪しい。もう工場から逃げちまったと思ってたが……今度の件を見ると、まだここで働いている可能性が高い」
「だが、どうやって探す? あの時のベスはまだ3歳にもなってなかった。十数年も経てば、女の容貌は変わる。見つけるのは至難だぜ」
工員は500人。そのうち女工員は300人もいる。
状況から年齢を20代後半から30代前半に絞っても、候補は100人近くになる。
ブライアンとタイラー兄弟は、降って湧いた災難にただうなるしかなかった。
その夜、エリザベス、アミラ、オリバー、アラン、ウイリアムの5人が工場長室に呼び出された。
「……というわけだ。俺たちの結論は、この工場に計画を邪魔しようとしている奴が潜んでいる、ってことだ」
「許せない……何のためにそんなことをするのよ!」
エリザベスは怒りで顔を震わせていた。
「だが今のままじゃ、エドウィンさんの前でテストはできねえ」
「そうだ。そいつはテストの時を狙ってくるに違いないが、どこに、どんな仕掛けをしてくるか分からねえ」
「みんな、何か意見はないか?」
「絶対に諦めたくない」
エリザベスは悔しさに涙をにじませ、唇を噛んだ。
「……あの、ちょっとよろしいですか?」
「なんだ、オリバー」
「敵がエドウィンさん来訪のタイミングを狙うなら、仕掛けは前日までに用意するはずですよね?」
「そりゃそうだが……」
「なら、誤情報を流しましょう。エドウィンさんが通る通路や視察する機械を偽って伝えるんです。敵はそこを狙うはずです。そこで捕まえればいい。もし現れなければ、テストは延期すればいい」
「やる価値はあるな。敵がうまく引っかかってくれれば儲けもんだ」
ウイリアムが賛同した。
「ダメもとだが、やってみるか」
ブライアンとタイラーも同意し、謎の敵対者捕獲作戦は動き出した。
皆は「ダメもと」と言ったが、オリバーには自信があった。
『状態スキャニング』を含む三連コンボで、工場内の全てを俯瞰できるのだ。
敵が動きさえすれば、確実に捕らえることができる——。
翌日、「エドウィンの視察日程が二日早まった」という通達が発表された。




