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第33話 仕返し

オリバーは反射的に愛想笑いを浮かべ、その手を握り返した。

必死に記憶をたどるが、まったく思い出せない。

…前世でも、名刺交換した相手を忘れるピンチ、よくあったな。… 

「初めましてだな。俺はウィリアム・フォスター。よろしくな。」  

…なんだ! 知ったかぶりしなくてよかった!… 

オリバーは胸を撫で下ろした。  

「初めまして、オリバー・ツイストです。えっと……?」  

「実は君には2度会ってるんだ。覚えてないかもしれないけどな。」  

ウィリアムは楽しげに語り始めた。

救貧委員会での出会い、サワベリー葬儀店でのウインザー家の葬儀

彼はそこにいたのだ。  

「で、君はいったい何者だ? 憐れな孤児じゃない。君の自立心と信念はどこから来る?こんな子供、初めてだ。」  

…おい! こいつ、突っ込み鋭すぎだろ!二度目の人生で本当は40歳のオッサンです、なんて言えねえよ!…  

【……。】  

…おい、ヨーダ!… 

「フォスターさん、ちょっと込み入った話をしているんだ。」  

ブライアンが割って入り、オリバーは内心で感謝した。  

「込み入った話?」  

ブライアンは深刻な表情で黙り込む。  

「何か、厄介な話ですか?」  

長い沈黙の後、ブライアンが口を開いた。  

「フォスターさん、あんただから話すが、口外は避けてくれ。いいですか?」  

ブライアンはこれまでの経緯――井戸の汚染、柵の封鎖、襲撃者の計画――を語り始めた。  

「それは酷い!」  

ウィリアムは憤慨した。  

「だが、いい方法がないんです。ダンカンは直接手を下さず、流れ者を雇って嫌がらせを続ける。証拠もねえ。ナンシーが出てくまで続くだろう。」  

ウィリアムは考え込み、やがて口を開いた。  

「分かった。役に立つか分からんが、何かできるか考える。オリバー、君はハムステッド村に住んでるんだな?」  

「はい、村は廃村ですが、うちは村はずれのコテージです。」  「

「また会いたい。俺が訪ねても迷惑じゃないか?」  

「ありがとうございます!そう言ってもらえるだけで、めっちゃ嬉しいです!」  

オリバーは驚いた。

この国では孤児と聞くだけで顔をしかめるのが普通なのに、ウィリアムにはそんな気配がなかった。  


「なあ、オリバー、悔しいのは分かる。だが、事によっちゃウィットフィールドに引っ越したらどうだ? ここなら仕事もあるぜ。」  

「でも、ばあちゃんはそれを望まないんです。」  

ナンシーのコテージ――野菜を育て、鶏の卵を採り、美味しい料理を食べる生活は、彼女にとってかけがえのないものだ。

オリバーにとっても、夢のような日々だった。  


「ちょっと待ってろ。」  

ブライアンはそう言うと、村の方へ走って行った。

やがて、布に包んだ長い棒を抱えて戻ってきた。  

「これを持っていけ。護身用だ。」  

マスケット銃だった。  

「気をつけて扱え。持ってるだけで、相手も警戒するぜ。」  

ブライアンは近々ナンシーのコテージを訪れると約束してくれた。


帰路につく前、オリバーはダンカンの館で昨夜の仕返しの成果を確認した。

「状態スキャニング」「感覚速度10倍速」「感覚強化」の三連コンボを発動し、屋敷内に視覚と聴覚を潜り込ませる。  


いきなりダンカンの怒鳴り声が響いた。  

「なんだと! ビルが逃げ出しただと!?」  

「はい、朝、奴の小屋はもぬけの殻でした。ジムとエディも見当たりません。」  

「ふざけるな!草の根分けても探し出せ!」  

「あのぉ……。」  

執事が言いにくそうに口を開く。  

「なんだ! まだ何かあるのか?」  

「実は、ビルの仕業かと……井戸にイノシシの死骸が投げ込まれてまして。当分、水が使えません。」  

「がっ!」  

ダンカンの顔が真っ赤に膨れ上がり、額に青筋が浮かぶ。

今にも破裂しそうだった。 

…破裂してくれねえかな。… 

執事はおろおろと目を泳がせ、何か言いたげに口を動かす。

意を決したように言葉を絞り出した。  

「当分、水は使えません。ウィットフィールド村で買ってくるしか……。」 

「ハムステッド村にも井戸はあるだろ?」  

「それが、解体工事で全て埋めてしまいまして……。」  

「バカ野郎!なら、森の小川から汲め!」  

「それが、フォックス家名義で立ち入り禁止区域に指定されておりまして……解除には時間がかかります。」  

「うぉ~~!」 

ダンカンは獣のような奇声を上げ、ウイスキーグラスを執事に投げつけた。

執事は「ひぃ~!」と叫び、しゃがみ込んでかろうじて避けた。 

…おい、当たったら死ぬぞ!…  

【ですね~。】  

…ざまあみろ!…  

オリバーはほくそ笑んだ。


その頃、ナンシーのコテージに、痩せた背の高い男が探るような視線を向けていた。

彼の体には、幾重にも重ね着されたぼろ布が、擦り切れて土と汗にまみれ、まとわりついていた。

それは着るというより、飢えたひょろ長い体に辛うじて絡みついた、みすぼらしい布の残骸だった。

一度、意を決したようにコテージへ足を踏み出したが、すぐ立ち止まり、「はぁ~」と重いため息をつく。

踵を返し、男は森の闇に溶けるように消えた。

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