表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/70

第3話 初めてのクエスト

最初の1週間でオレは死にかけた。  

なんせ、ミルクどころか、極限まで薄められたドロドロの粥が、日に二度、無感情に口へ押し込まれるだけなんだからたまらない。

女は誰か知らない。  

…看護師?いや、ただの配膳係か?…  

とにかく、目に生気はなく、口元はいつも歪んでいた。

「早く死んでくれ…」  

そう言っているような顔だった。

時折、立派な身なりの男が視察に来ると、まるで別人のように柔和な微笑みを浮かべる。  

…クソが…その慈愛は演技かよ…

だが、オレは状況を甘く見ていたのかもしれない。

周囲の大人たちはオレが生き残るなんてことはこれっぽっち思っていないのが現実であるのがだんだんと分かってくる。

皆がオレが死ぬのをまって居る。それが現実だった。

誰も助けてくれない。

そもそも赤ん坊が生きられるような環境が用意されていないのだから仕方がないと言えばそうなのだろう。

飢えがすべてを蝕んでいく。  

内臓が縮んでいくのが分かる...  

口に入るものが毒か栄養か、もう判断もつかない...

そのとき──頭の奥で、また、あの妙な声が響いた。

【クエスト発動中です。受注しますか?】

…クエスト?…

なぜ、ここでクエストなどという言葉が出てくるかが不明だった。

【現状を分析した結果、必須クエストへ移行されました。内容の説明に進んでもよろしいでしょうか?】

…はぁ?ふざけんなよ、何がクエストだ。飯をくれよ…せめて一匙…

無駄とは思いつつオレは不平を漏らした。

【食糧供給は現段階では不可能です。ただし空腹感の軽減は選択可能です。また現在、大腸菌による軽微な腸内感染が確認されています。早期対処を推奨します】

…どうしろっていうんだ?…  

オレは最初はこのAIヘルパーもどきは幻聴だと思っていた。

だが、このポンコツAIヘルパーの発言は妙に理事整然としている。

…ってか、ポンコツにしては随分詳しいな…

【以下のスキル取得クエストが発動されました】

【強制クエストNo.0001:生存のため次のスキルを習得せよ】

【スキル1:口腔内ナチュラル殺菌(Lv1)】

唾液中の殺菌酵素(リゾチーム、ペルオキシダーゼなど)を最大化し、摂取前の病原体を30%中和。

【スキル2:発酵リサイクル消化(Lv1)】

胃内で極限的再発酵を行い、通常では吸収不能な非タンパク質分子から微量アミノ酸と脂質を生成。

【スキル3:代謝コントロール(Lv1)】

基礎代謝を20%削減し、筋肉と肝臓の分解を最小限に抑える。省エネ睡眠状態への自動遷移。

食物消化時の代謝を最大化

【スキル4:ミトコンドリア・リサイクル最大化(Lv1)】

細胞内のミトコンドリア活性を極限まで引き上げ、オートファジー機能を発動。死にかけた細胞を再利用し、「自己修復・自己燃料化」を開始。

【チュートリアルを開始します】

細胞の奥で何かが動いている。熱い。ザラつく。

それはまるで、細胞の一つ一つが目を覚まし、自分の意志で燃え始めたような感覚だった。

…え、なんだ、この感覚は?…

【はい。活性化中のミトコンドリアによる、オートファジーの活動感覚をイメージ化してあなたの感覚と連結しました。これは通常自律的に実行される活動ですが、イメージ感覚を強化することで細胞のリサイクルを最適化してマイトファジーを意識的に発動できるようになります。死にかけた細胞を再利用し、全身の修復とエネルギー生成を行う必須のスキルです。】

…ちょ、待てよ。それ、普通に人間ができることじゃないだろ!?…

【はい、あなたの時代の科学技術では本来はできません。しかし、これは約15年後に意識と物理現象の関係が量子物理学の分野で技術的に確立します。私の認識は5次元レベルで情報を収集できるので、全ての多元化した宇宙の知性のもつデータベースを利用可能です。】

…なに言ってるんだこいつは?文明レベルが違いすぎてピンとこないんだけど…

【理解できなくて構いません。実際このスキルがなぜ実行可能であるのかを未来社会でも理解されないまま実装された技術です。簡単に言えばイメージ力を物理現象に変換する技術を理解してください。この時代でもっともこれに近い概念は“魔法”です。】

…マジで魔法扱いかよ…

【量子ナノテクノロジーと意識イメージ操作の組み合わせです。ですが、細かく説明しても無意味でしょう。あなたがやるべきことは、訓練です】

…具体的には?…

【呼吸法とイメージ法の2つを教えます。呼吸をガイドに合わせ、身体の中で起きている代謝のイメージを操作してください。これができれば、代謝効率と免疫力を劇的に高められます】

…操作って...それ、本当にできんの?…

【“できる”かどうかではありません。“やる”のです。習得すれば、生存率は一気に上がります。最低でも3日以内にレベル1を身につけてください。さもなければ…】

…死ぬのか?…

【はい】

…なんだよそのストレートな説明…

【このスキル群は、医療分野では《黒医術ブラックジャック・コード》と名付けられています】

…名前、黒魔術みたいで物騒じゃね?…

【格好良くないですか?ちなみに命名は私です】

…センスには突っ込みたいが、まあいいや。てか、レベル上がったら何ができるの?…

【病原を見抜き、生命線を操作し、外科手術すら“詠唱”で行えるようになります】

…うわ、それ魔法医者だよな…完全に…

【その理解で問題ありません】

…ちょっと面白くなってきたかも…

【まずは、お粥を一口100回噛んでください】

…えっ、そこから!?地味すぎる一歩だな!…

【それが未来への第一歩です】

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ