第17話 戦闘ミッション その1
朝霧の街を馬車で、ウインザー氏の邸宅を目指す。
人通りはほとんどなかった。
路地を曲がり、暗がりに入った瞬間、馬車の前に積んであった塩樽がバラバラと転がってきた。
「危ねえ! どうどう!」
馬車が急停車し、馬が怯えて暴れる。
【襲撃です。緊急クエスト「自己防御力強化」が発動しました】
ヨーダが突然クエストの発動を宣言する。
…おい! なんだよ、それ!…
覆面をつけた棍棒を持った男たちがわらわらと現れる。
一瞬ドキッとしたが、すぐに平常心を取り戻す。
この過酷な環境で、平常心は優先的に強化したスキルの一つだ。
戦闘は初めての経験だったが、このスキルのおかげで動揺はなかった。
【人数は?】
暗がりに目を凝らし、慎重に数える。5人だった。
「てめえら何だ! 金目のものはねえぞ。棺があるだけだ!」
サワベリーが叫んだが、5人は無言で近づいてくる。すばやく状態スキャニングを発動して相手の能力をはかる。
【戦闘能力をレベル変換します】
ヨーダからのメッセージとともに、襲撃者にレベルタグが表示された。
一番後ろの男がレベル10で突出している。
他の4人はレベル2が1人、レベル3が2人、レベル6が1人。
この状況を打破する戦術を組み立てる。
レベル10とレベル6は様子見のようで、初期段階では戦闘に加わらないと予測できた。
まずは残りの3人に集中する。最初にその中の2人を無力化。
1人が怯んだ隙に馬車から飛び降り、樽をどかす。
あとは出たとこ勝負だ。
…ヨーダ、戦術を評価してくれ!…
【了解。このクエストには2つの主要ミッションがあります。一つは棺を無事に配達すること、もう一つはあなたの回避力ステータスの上昇。目標は一気にレベル5です】
…回避力?…
【思考速度10倍速が発動しました。感覚速度10倍速が発動しました】
とっておきのチートスキルが自動発動する。
このスキルのおかげで考えをまとめる時間に余裕ができる。
そして実感覚でも相手の動きがスローモーションのように遅くみえるようになった。
「ひぃぃぇええ〜〜〜〜!」
敵が問答無用で突撃してくるのを見て、サワベリーが悲鳴を上げる。奇妙に間延びした声が響く。
【戦術の評価を開始します】
ヨーダの声だけは通常の速度で響く。
【敵は5人。3人が第一陣で突撃、残り2人は戦力温存のようです。ランプをレベル2の覆面に油がかかるよう投げてください】
ランプを慎重に狙い、男に投げつける。弧を描いてゆっくり飛んでいくが、10倍速効果で結果はすぐにはわからない。
【馬車から飛び降り、転がってくる塩樽を筋力強化最大でレベル3の敵に向け蹴り飛ばしてください】
オリバーは馬車から飛び降りた。
10倍速で動けるわけではない。早いのは思考と感覚の速度だけだ。
それでも通常の感覚では電光石火の動きに見えるだろう。
飛び降りた瞬間、レベル2の覆面がランプの油をかぶり、燃え上がるのが見えた。
【一人無力化成功】
転がってくる塩樽を、レベル3の敵とすれ違いざまに靴底で蹴りつける。
樽は回転しながら敵の前に転がり、驚愕する間もなくつまずかせ、派手に転倒させる。
【もう一人無力化】
残るレベル3の敵は驚愕の表情で足を止め、警戒する。
【威圧を発動してください】
言われた通り、ギロリと睨むと、敵の顔が怯えに染まる。
【進路確保確認。サワベリー親方を馬車で先行させてください】
…えっ? オレは残るのかよ?…
【はい、これからがミッション2の本番です】
…なんだと?…
【今は詳しく説明しませんが、今後あなたには暗殺行為が何度も仕掛けられます。生き残るための必須スキルを今から習得してもらいます。彼らはあなたの師匠ですよ】
…よくわかんねえ。後でちゃんと説明しろよ…
そう言って叫んだ。
「親方、先に行ってくれ!」
サワベリーの恐怖で歪んだ顔で狼狽えるだけで行動に出ようとしなかった。
オリバーはやむを得ず馬に飛び乗り、ムチを入れる。馬はいななき、正面へ突進を開始。
そしてオリバーは飛び降り、残った3人と対峙する。奴らが馬車を追わなかった理由はわからない。
(その2に続く....)




