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第110話 迎撃戦準備

レベル10の男――なぜ常に敵対してくるのか。

まず、男の名はサイラスであることが判明した。

そして、ハムステッド村にたびたび現れる不審者たちの正体は、フェイギンを頭目とする非合法集団。

その中核メンバーにサイラスがいる。

【フェイギンの動向は要監視対象です。慎重に。】


オリバーは寝室で結跏趺坐し、静かに目を閉じる。

意識を拡張し、ロンドン全域に“検索”をかけた。

脳内の空間に浮かび上がる光点の中から、フェイギンの位置情報が特定される。

意識をその座標へ合わせると、フェイギンの輪郭が浮かぶ。

戦闘レベル9。暗殺・スリ集団の頭目。

フェイギンの概略情報が流れ込み、全身を淡い赤の光で包む。

『天眼智』の機能の一つ「ラベリング」を使う。

これで、フェイギンが動けば即座にアラートが届く。


数時間後、アラームが鳴動。

オリバーはベッドから跳ね起き、『天眼智』を発動する。

映像が脳内に展開される。

フェイギンが部下たちへ命令を下していた。

ターゲットは、ハムステッド村の“仮面の男”。

つまり、オリバー自身。

彼らもすでに、オリバー=仮面の男と推測している。


指名された襲撃チームは五名。

リーダー:サイラス(Lv10)

副将:レン(Lv9)

戦闘員:アダム(Lv7)、マルコム(Lv7)、ピエロ(Lv6)

襲撃は明朝決行。


この事実に、オリバーは少なからず衝撃を受けていた。

この世界の大きな勢力が、オリバーを暗殺という非合法な手段で排除しようとしているのだ。


【メアリーの事件は“きっかけ”にすぎません。根本の火種は、ウィットフィールド村とハムステッド村の急速な発展です。既得権力から見れば、それは“社会改革”の兆候に映る。つまり、彼らはあなたを国家的な秩序変動の起点と見なし始めたということです。】


…なんでだよ。ただ、工場の合理化をしただけだろ?..

【現在の既得権者のビジネスモデルを理解すべきです。彼らは巨額の資金を投じて海軍を増強し、植民地支配を拡大することで莫大な利益を得ています。この国の主要ビジネスは、その大きな流れの中にある。一方、あなたの改革はその潮流に逆行します。】

…だから、殺すっていうのかよ?

【残念ながら、その通りです。しかも、混紡繊維のビジネスそのものを崩壊させに来る可能性がある。】

…戦争を仕掛けてくるってことか?..

【はい。これは異なる価値観を持つ“国家間の争い”に近い局面です。あなたの最初の任務は、この初戦で少なくとも負けない実力があることを示すことです。全面戦争になれば勝ち目は薄い。落としどころを設計し、外交交渉へ持ち込む必要があります。】

…待てよ。もっと具体的に言え。初戦は勝つ、までは分かった。だが外交ってなんだよ?…

【初戦の勝利とは、“この村は難攻不落”という印象を敵の意思決定層に植え付けることです。ですが、それは時間稼ぎにすぎません。次に行うべき具体策は、混紡繊維の技術を広く公開して、この国の“標準技術”にしてしまうこと。敵対陣営にも混紡繊維で利益が生じれば、あなたは“排除対象”から“利害調整の相手”に格下げされる。一時的にチャドウィック家のシェアは落ちますが、致命傷ではありません。要は、目立たなく、地味に。ただし、単に技術公開するだけでは投資のインセンティブが生まれません。ここがポイントです。】

…全然、分かんねえ…

【社交界に“混紡ドレス”で強烈な審美的インパクトを与える。流行の装置を先に動かすのです。具体策はのちほど詰めましょう。】

…ともかく、今は侵入してくる五人を排除すればいいってことだな。

【その通り。ただし勝ちすぎないでください。“簡単な相手ではない”と印象づけるのが目的です。】


オリバーは頷いた。

勝つ必要はない。“負けないこと”こそ条件だ。


【ハムステッド村はホームグラウンド。『幻惑』で戦局を膠着させましょう。そして今回は、あなたの戦闘レベルを9へ引き上げる絶好の機会です。最悪のケースは、あなた個人が敵に排除されることです。近いうちにレベル10が必要になります。この世界で“戦闘レベル10”を排除するのは至難。生存率はほぼ100%です。】


こうして作戦名「幻惑の森」の準備が始まった。

すでにハムステッド村の外縁には、大規模侵攻を想定した罠群が設置済み。

敵に「攻めれば損失を受ける」と思わせる――それが目的だ。

第一目標:『幻惑』で“仮面の男が十人以上いる”と錯覚させる。

第二目標:敵戦闘員レンを分断し、オリバーと一対一の実戦を成立させる。レベル9に必要な経験値は既に仮想世界でヨーダとの模擬戦闘で修得済だった。後は必要なのは実践だ。


オリバーは夜明け前の森を歩き、淡い月光の下で準備を整える。

十丁のスリングショットを森の高木に固定。

地上から引き縄を引けば、同時に十方向へ発射される。

さらに木々を細縄で結び、地面に降りずに移動できるよう細工した。

敵が気づく前に、死角から死角へと滑るように移動できる。

【敵の視線方向を取得。死角情報、リアルタイム更新中。】


『天眼智』が視界に戦場地図を投影する。

3Dマップ上に赤い線が“敵の視線”、青い点が“死角”。

まるで神の視点だ。

このマップによって、オリバーは常に死角からの攻撃が可能となる。


さらに森には無数の罠が張り巡らされている。

絹糸のように細く、月光でも見えないラインが縦横に走り、触れた瞬間に矢が射出される。

矢を避ければ、その先に落とし穴。

落とし穴を避ければ、枝葉の影からスリングショットの連射。

すべてが、次の罠に誘導するよう計算されていた。

【錯覚させるのです。“多数の射手がいる”と。】


サイラスたちは圧倒的優勢を確信していた。

レベル差、人数差、装備差。

すべてが彼らの勝利を保証するはずだった。

だが、彼らは知らない。

この森全体が、オリバーの“脳内空間の延長”になっていることを。


夜が明ける。

体を整え、精神を研ぎ澄ます。

木々の上に立ち、薄明の空気を吸い込んだ。冷たい風が頬を撫でる。

般若の面をかぶり、黒いマントをまとった。

「お客様のご到着が、待ち遠しいな。」

オリバーは満足そうに笑う。準備は完璧だった。


ハムステッド村の入り口に広がる森林の奥で、オリバーは静かに『天眼智』を展開する。

森全体が、彼の瞳の中でゆっくりと光り出した。

あとは、迎撃戦の開始を待つばかりだ――。

だが、オリバーばかりかヨーダですら不確定要素の存在にまだ、気が付いていなかった….

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